vol.20 エドテック: 振り返り回
これまでエドテックについて、対象企業を定め、Step2~Step5に沿って、それぞれの企業の理解を深めてきました。今回は、これらの企業を「振り返り」つつ、業界全体での「着目すべき戦略」を整理し、「財務諸表を読む際のポイント」をまとめてみたいと思います。
まずは全体像を以下示します。
1 振り返り
vol.12 ~ vol.18の内容を振り返り、士業のビジネスマッチングサービスにおける「着目すべき戦略」に関し、ビジネスモデルキャンバスを用いてマッピングしてみます。
以下では各項目に対し、公開情報を基にした解釈を加えていきます。
2 着目すべき戦略
A 顧客セグメント
教育の対象について、学生向けとするか、社会人向けとするかが分岐点です。チエルやすららネットは学生向け、アイデミー、レアジョブ及びKIYOラーニングは主に社会人向けをターゲットにしています。
A-1 学生向け
文部科学省の「GIGAスクール構想」の下、文教市場、すなわち日本全国の学校や自治体 (i.e. 教育委員会)が顧客となります。またすららネットのように、学校から塾、さらには海外への展開を図る動きもみられました。
A-2 社会人向け
法人を対象とするか、個人を対象とするかがポイントです。
アイデミーは法人メインで従業員のデジタル教育を提供し、レアジョブやKIYOラーニングは主に個人の資格取得 (英語やその他ビジネススキル等)を軸としています。
一方でアイデミーであれば個人向けサービス「Aidemy Premium」を、KIYOラーニングであれば法人向けサービス「エアコース」といった具合に成長を求めて異なる顧客セグメントへ展開する動きを見せています。
さらにレアジョブは、法人向けに加え、教育機関向けにも事業を展開しています。
B チャネル
顧客セグメントの顧客数を増やすために、対象企業はそれぞれのチャネルを活用しています。
B-1 マス向け
展示会、セミナー、冊子の配布及びネット広告を通じて認知度を高める動きです。主に「A-1学生向け」と「A-2社会人向け: 個人」の企業で採用されています。
B-2 カスタマイズ
業界でのつながりを通じ直接営業を行なう動きです。「A-2社会人向け: 法人」向けの企業でより採用されています。
C キーパートナー
C-1 コンテンツやプログラム等の外注先
顧客が学習するコンテンツ作成やITを使って学習を進めるプラットフォームの開発を請け負う取引先です。主に「A-1 学生向け」へビジネス展開しているチエルやすららネットにおいてみられます。
C-2 コンテンツの講師
コンテンツを分かりやすく顧客に説明する講師です。主に「A-2 社会人向け」へビジネス展開しているアイデミー、レアジョブ、及びKIYOラーニングおいてみられます。特にレアジョブは英会話が主な事業であり、海外の多数の外国人講師をキーパートナーとして抱えています。
C-3 アドバイザー等
エドテック業界では、顧客の学習データを用いどのように学びを最適化するかが競争優位上重要であり、データ活用に関する提携を行う動きが見られます。アイデミーであれば東京大学のアドバイザー陣、KIYOラーニングであれば株式会社データミックス、という具合です。
D 主なリソース
D-1 コンテンツ
顧客が学習を進めるにあたっての教材です。最新のトレンドをおさえながらわかりやすさを競うべく、教材の内容を拡充しています。
D-2 プラットフォーム
顧客である学習者が講師とやりとりをしたり、進捗管理を行うためのシステムです。特に学びの個別最適化を図るための投資が続いています。
D-3 ソリューション
顧客が学習した後の各種サポートを行うためのノウハウです。例えば進路相談、転職支援、デジタル知識の実装に関する内容となります。
D-4 業界情報
顧客が所属する業界の動向に関する最新トレンドであり、同情報により、顧客は意思決定を容易にすることができます。例えばICT教育に関する文部科学省の動きやDXに関する他社情報といった内容になります。
E 価値提案
学びの支援となる対象は、学習対象となるコンテンツ提供から、進捗管理を含めた学習支援システム、学習後の進路相談やキャリア支援、及び学んだ知識の実装支援にまで幅広いサービスを確認することができます。
E-1 コンテンツ提供
学びが容易となる教材を提供
E-2 学習支援システム
講師と学習者がやりとりをしたり、学習者が進捗管理を行うことのできるシステムを提供
(※) ビックデータを分析の上、各学習者に個別最適された教材やテストを提示し、学びを効率かつ効果的にする動きもあり
E-3 進路やキャリア支援
学生の進学に関するサポートやリスキル後の社会人のキャリア相談
E-4 実装支援
デジタル知識の学習後、実社会でどう実装するかのコンサルティング
3 財務諸表を読む際のポイント
ROE、PBR、時価総額を図にしてみると、アイデミーとKIYOラーニングが特に高い数値を示しています。これは、市場規模、AI投資の進捗、顧客チャネルなどが評価されているためと考えられます。
(*) KIYOラーニングのROEはマイナスであるのに対しPBRは7倍超となっていますが、vol.18で述べたように、これはブランディング向上を目的とした積極的な広告費の投下、及び将来を見据えた優秀な人材の採用等事業基盤の強化を進めた結果であります (1年前における同社のROEは11.5%)。
アイデミー
富士キメラ総研によると、DX関連の国内市場 (投資額) は2030年度予測で6兆円を超える規模となっています。アイデミーは幅広い業界の大企業とパイプを構築し、従業員教育からデジタル実装まで一気通貫でサービスを展開しています。
KIYOラーニング
少子高齢化が進む我が国においても、生涯にわたる教育の重要性や企業向けの人材育成のニーズなど、リスキリングの需要は高く、矢野経済研究所によれば、2023年度の教育産業全体の市場規模は2兆8,632億円と予測されております。KIYOラーニングは社会人向けの資格取得講座を幅広く用意し、受講者から得た大量の学習履歴データを活用し、AIによる学習の個別最適化サービスを展開しています。
一方で、例えばICT関連の国内市場は相対的にはどうしても規模が小さくなり、同じく富士キメラ総研によれば教育DX/ICT関連の国内市場の2030年度予測は3,644億円となっています。
このように、エドテック業界の財務諸表を読む際には、教育や教育後の市場の広がりを理解し、学習をAIでどう最適化しようとしているか及び市場とどのようにつながっているかを把握していくのがポイントかと思われます。
4 まとめ
エドテックに関する分析を通じて、財務諸表だけでなく、ビジネスモデルや戦略にも注目することの重要性をお伝えしましたが、いかがでしたでしょうか?
会計数値を単純に見ただけでは捉えられない対象企業の姿を、有価証券報告書をビジネスモデルキャンバスにあてはめ、ストーリーを再構築することによって理解を深めることができる、という点をお伝えすることができれば幸いです。
特に今回のようなテック系業界の財務諸表を読む際には、財務諸表の表面的な増減や分析に加え、同業界で重要な戦略の内容やそれらに関連するKPIに着目しなければならないと考えます。これは社内、社外の利害関係者全てに言えることであり、限られたリソースの中で日本の生産性を上げていく際、どこにフォーカスすべきかの示唆を与えてくれます。
最後に、このnoteでの目的は、財務諸表の読み方を一例として共有することであり、特定の銘柄を推奨しているわけではない点をご理解いただければと思います。
5 次回予告
次回以降、しばらくは雑談回と位置付け、独立開業後3ヶ月強が経過した中、私が日々思っていることをつらつらと共有していきたいと思います。
6 おわりに
この記事が少しでもみなさまの参考になれば幸いです。ご意見や感想は、noteのコメント欄やX (@tadashiyano3) までお寄せください。
なお、投稿内容は私個人の見解に基づくものであり、過去所属していた組織とは関係ございません。
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