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我々はひとりか? - Are we alone? -

「読んでないけどタイトルは知っている」ことで皆さまお馴染みの、『三体』シリーズを読み終えた。日本では『三体I』と『三体II』(上下巻)の邦訳版が刊行されており、『三体III』は来年初夏に出版される予定らしいが、丁度『三体II』を読み終えた興奮の熱が覚めやらぬ頃に、『三体III』の邦訳版の出版予定日を知り、私は待ちきれず脳みそから溢れ出る快楽物質に流されるまま『三体III』の英語版を読んでしまった。とにかく『三体II』が面白かった。あまりにも面白かったので、「もっとくれ!」という脳の指令に逆らえなかった。

中国発のSFベストセラーであり、SF小説界の最高峰であるヒューゴ賞を受賞し、読む人読む人、皆が絶賛しているこの『三体』とは、そもそも一体どんな話なのか?何が面白くてここまで読まれているのか?オバマ元大統領はとあるインタビューで『三体』についてこう語った。

「この小説に比べれば議会における軋轢など些細なものだ。なぜならエイリアンが侵略しにくるのだから」

そう、『三体』シリーズとはシンプルにエイリアンが侵略しにくる話である。ただ言っておきたいのが、本作の面白さは当然この使い古された設定によるものではない。

『三体』シリーズの面白さとは、「宇宙人がいる」という仮定が一体どのような結果をもたらすのか、について大風呂敷を広げて綴っている点にある。我々はこの宇宙にたったひとりなのか?この究極の疑問に三体は答えているのだ。

三体I

まず、侵略しにやってくる宇宙人とは一体どんな奴らなのか?遠い宇宙から地球までやってくるほどの、恒星間航空を可能にする科学力を有しているとしたら、彼らは人類のそれを遙かに凌駕した高度な文明であることがわかる。すなわち、彼らにとって人類とは虫けらのように無力であり、人類が築き上げてきた文明は小さなアリの巣同然だということだ。そんな奴らが地球を侵略しにやってくる。驚くべきなのは、彼らが地球を見つけたわけではないことだ。こともあろうか、第一部の主人公が「私はここにいる!来て!」と地球の居場所を晒したのである。「数百年後に滅ぼしにやってくる」侵略者からの死の通告を受け取った人類の絶望を描いているのが本作の第一部にあたる。

三体II:黒暗森林

宇宙はあまりにも壮大だ。私たちの銀河系には太陽のような恒星がおよそ1000億個存在している。さらにそのような銀河系がなんと2兆個も存在している。これだけ広い宇宙なのだから、地球人以外に生命体がいたってなんら不思議ではない。ただ、この宇宙に地球人以外の生命体が存在していると仮定した場合、一つの疑問が浮かび上がる。「彼らはどこにいるのか?」である。宇宙人はそこら中にいるはずなのに、なぜ人類は地球外生命体と接触出来ていないのか?この矛盾はフェルミのパラドックスと呼ばれ、様々な説が提唱されているが、本作の著者はそこにあまりにも残酷な仮説をぶち込んできたのである。そしてこの仮説を導き出すのが第二部の主人公である。このあまりにも救いようのない仮説が、皮肉にも人類を滅亡から救い出す一縷の希望になることに、主人公は気付くのである。今にも地球にやってくる侵略者に対して人類は一体どう立ち向かっていくのかを描いているのがこの黒暗森林にあたる。

三体III:死神永世

無数の生命体がこの宇宙に溢れているのだとしたら、侵略者と地球人以外の生命体は一体どのような活動をしているのだろうか?第三部の死神永世では、第二部以上に宇宙を取り巻く無慈悲な真実が暴かれていき、人類の価値観が根底から覆されていく。愛は人類を救うのか?滅ぼすのか?愛の果てにある人類の姿を描いているのがこの死神永世にあたる。

Remembrance of Earth's past -地球往事三部作-

三体三部作はRemembrance of Earth's pastと呼ばれている。地球の過ぎ去った出来事を描いたシリーズであることを意味している。つまり、三体とは地球の歴史を描いているのだ。仮想の未来について書かれているSF小説がなぜ歴史になるのか?充分に発達したSF小説は歴史書と見分けがつかないからである。初速や角度、質量などの変数から弾道の計算が出来るように、劉慈欣にはその膨大な知識によって裏付けられた無数にあるパラメータから予測不可能な未来を見事に予測しているのだ。

Netflixによるドラマ化

三体には真新しい設定もなければ、原著の書評によれば文章力もとくに目立っているわけでもない。三体にあるのは純粋なストーリーの面白さだ。外国語に訳されたとしてもそのエッセンスを損なわない面白さの強度が、三体にはある。そしてそれは小説という媒体に限ったことではないだろう。映像としての三体がその圧倒的な面白さを我々の眼前に突きつけてくれるに違いない。

最後に

三体をみんなに読んでほしいけど、ネタバレは絶対したくなかった。出来るだけ三体を読む上でのキーワードになる言葉を排除して、あらすじのあらすじのようなあらすじを書いてみた。三体がどこまでのスケールで描かれているのか?どんな奇想天外な発想が繰り広げられているのか?私はこれらを一切書いていない。邦訳版の出版が来年になる死神永世に関する情報も極力抑えた。想像することすら叶わない展開があなたを待ち受けている。三体はあなたに読まれることを待っている

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