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小説家・瀬名秀明氏による論文「港のマリー」を拝読する

100万部を売りさばいたホラー小説『パラサイトイブ』(1995年)で知られる小説家・瀬名秀明氏。第16代日本SF作家クラブ会長でもある同氏が、拙著を読み込んで論文をものにしているのを見つけた。

じつに1万4千700文字も費やして日本における「港のマリー」という文化現象について論じている。
当然ながらメリーさんにも光を当てており、じつに読み応えがある。

『白い孤影』は一般読者の読み違えが酷く、変に誤解されていると感じる。

たとえば、もし仮にメリーさんが平成の世の中に生まれていたとしても、彼女はやはり奇抜な出で立ちで都会の街角に立ちつづけたと思う。服装は姫様ドレスではなく、ゴスロリやメイド服や地雷系になっているかもしれないが、根本的な部分は変わらないまま、やはり街に出ていたと思うのだ。

つまり戦争は関係ない。彼女が戦中世代だったのは事実だが、戦争のせいではぐれ者のような生活を送ったのではないと思う。

にも関わらず「そうか。メリーさんは戦争の犠牲者だったのか」などと宣う読者がいて心底落胆した。例の映画や五大路子の舞台の影響だと思うが、読む前から(そして読んだ後も)勝手に内容を決めつける人が多くて困る。

そうかと思えば「映画の内容と違う部分があるじゃないか! これ、間違えてるよ」と言ってくる人もいた。あの映画が正しいという根拠はどこにあるのだろう?
拙著の中で映画の「ウソ(正確に言うと「演出による事実誤認の誘導」や監督の取材不足による誤り)」について書いているというのに……。
ほとんど宗教だ。信者を相手に非効率な問答をしているようである。

瀬名氏の論文は拙著が扱っているメリー伝説成立の背景を的確に捉えており、ようやくまともな読者に巡り会えたと感じた。

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