【小説】「青い鳥シンドローム」 #同じテーマで小説を書こう

今日もまた来た。
私はスマホを見て顔をしかめる。
ベルに湧いた吹き出物のような赤い通知に、体を真っ黒で冷たい手が通り抜けて内臓を捕まれ、ゆっくりと引っ張られるような感覚がした。

すいーっと指を滑らせ、笹船のような呟きの群れに息を吹きかける。
相変わらずくだらない。笑っちゃうくらいどうでもいいことばかり書いてあるが、私はこれが生きがいだ。

SNS中毒。患者たちは自分たちのことをツイ廃と呼ぶ。

笹船たちは好き勝手呟く。やつらは本当に自由で気ままで、とげとげでいがいがで、すぐにそれを人に投げつけて傷つける。相手のことを生きているとか思ってないので簡単に「ババア」とか言う。

そして、トゲトゲを投げつける相手なんてやつらは選ばない。
首相の笹船にぶら下がった声は、酷いモノだ。

きっと、やつらはあの小さな笹船に乗った声は無敵だと勘違いしているのだ。
バカめ。

そう思いつつ、ベルをタップする。

やっぱりか。

「口を慎めババア、〇ね」

毎日定刻になると、おっぱいの大きくていやらしいアニメのキャラクターが私に言う。ちなみにここでは表現の都合上伏せておいたが、実際に私に向けられた言葉では〇の中は伏せられていない。

きっかけはあるツイートに反論しただけだった。
おっぱいの大きな女の子の絵に対して「気持ち悪い」と言っただけだった。

それがきっかけで、毎日同じ奴に同じ時間に粘着されている。

ヒマかよ。
いいねもリツイートもしない上にフォロワーだって100人いない私に、どうしてそんなに構うかな。

そいつをブロらない私も相当ヒマだった。
なんだよくかわからないが、コイツを切ることができない。
嫌な気持ちになるはずなのに、なんとなくそのまま放置しているのだ。

切ってしまえば、こいつとの縁はこれで終わりな気がして、勿体ない。
定時連絡が無くなった時には死んでいるんじゃないだろうかとすら思った。
きっと弱い生き物なのだ。

一日の労働を終え、自室への帰途を辿る私と比べて。

その言葉の乱暴さと比べて、実際の声は蚊の鳴くようなそれなんじゃないだろうか。

あいつのそれは、一日の日課のようになっている。

自分でも思うが、どうかしている。


今日は違った。DMにも吹き出物のような赤いマークがついている。
例のアニメアイコンだ。

『あなたのことが好きになりました。どうか付き合ってください。本気です。お願いします』

きっと掠れるような声で、蚊の鳴くような声で、ただ1日の一方的なクソリプしかコミュニケーションを取れない相手だ。
なのに、どうしてそんな感情を抱くのだろう。

あぁ、私はずっとこの機会を待っていた。
返信を打つ。

『私も同じ気持ちです』

・・・と相手が何かを打とうとしているのを確認し、相手のプロフィール画面に飛ぶ。

『@xxxさんをブロックしますか?』

Twitterに聞かれる。すぐに「はい」を押した。

アカウントも消した。
もともと100人もフォロワーのいないカスアカウントだ。関係ない。

そう、私はこの時を待っていた。
人を攻撃することしかできない憐れな羽虫を指先で潰すその瞬間を。


「……あぁ、きもちわる」

身震いがする。

あぁ、ほんとSNSってクソだわ。


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