#今日の天気 月明かりふんわり落ちてくる無敵な夜
note仲間に「天気の話をしよう」と言ったのは私だった。
誰かを傷つけないお題がいい。そう思ったが、天気の話は災害という言葉も兼ねる。
まずは、千葉県南部の方々が一日でも早く日常生活を取り戻すこと、心よりお祈り申し上げます。
今日の天気、と言いつつこれは土曜の東京の物語だ。
その日は東京の空の下、まとわりつく湿り気に絡め取られながら、三人の女子の視線は地上と空を行き来していた。
東京駅というのは不思議な立地のもと巣を張っている。
すぐ背後は八重洲のオフィス街。
チャットモンチーはビルが立ち並ぶこの風景を「蜂の巣」と言った。
もしかしたら東京駅周辺ではなく上京した人間の抱く東京都の概念を指しているのかもしれない。
まぁ、少なくとも練馬の大根畑や多摩のわさび畑なんかではないだろう。あの辺は蜂の巣よりもイノシシやタヌキの巣だ。
知らんけど。
そんなのは少なくともどうでもいい。東京駅の話をする。
仮に東京という駅周辺を蜂の巣とすると、きっとこの東京駅が女王蜂が住んでいるのだろう。
ダンジョンならボス戦の部屋がどこかにある。
とはいえ、残念ながら梅田のようなセーブポイントはないのだが。
そういうところが東京駅は不親切だ。八重洲から来た友達もいたのにわざわざ丸の内を待ち合わせに指定した。
東京駅に不慣れな私は八重洲にセーブポイントがないことに憤慨しているのだ。
まぁ、それもどうだっていい。
趣味で繋がった友達と会った。
私とそれぞれは面識や繋がりがあったが、三人で会うのは初めてだった。三人は不思議とそれなりに波長が合っていて、私は「今日は無敵だな」と思った。
ラスボスの居城のような東京駅の上に登る、雲からうっすら覗く月を見た瞬間から思っていた。
「あ、今日の私たちは無敵かもしれない」と。
一人が遅刻した。
一人は体力切れ。体調が悪そうだった。(のちに回復した)
私もなにかと一喜一怒したのだが、それでも嘘みたいに楽しかった。無敵だった。
聞いたことのない料理を食べ、一人の予算が少ない中でどうにかセーフの価格。これも無敵。
めちゃくちゃお洒落なバルのレシートが全部アルファベットで書かれていることに驚き、みんなで解読を目指した。
この会では知恵者担当の私は「いや、これイタリア語じゃない?」と気づきを得た。「スペイン語かも」。やべーーー、と歓声が上がる。
あまりに真剣にレシートと睨めっこしていたので店員さんが声をかけてくれた。(我々がさっさと帰れよって話だ)
「このレシート、何語ですか?」
「え、英語ですけど」
一瞬で私は知恵者ポジションを失った。
それでも無敵だった。
そのあと入ったルノワールも東京の割に空いていて無敵だった。
こういう時に流しがちな電車もちゃんと乗れた。これも無敵。
あの街の月は私たち無敵の三人の幸せをきっといつまでも見守ってくれている。
特急からは見えなくなった月を眺めて、私は「二人に幸せになってほしいなぁ」と思った。
二人ともそれぞれ、あ、私もか。それなりに満たされない生活を送っている。
一人とは趣味の友達のラインをとうに超えて、かなり深い部分の相談を繰り返していた。
幸せになってほしい、本当に。
今が幸せだと思うなら、今よりもっとだ。
私たちは絶対に幸せになる。
だって、あの朧な月の下で私たちは無敵……つまり、世界で一番可愛い女の子だったんだから。
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