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コロナ渦不染日記 #18

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五月三十日(土)

 ○午前中は日記を編集し、午後は町へ毛刈りにゆく。
 町へは電車に乗ってゆくのであるが、この電車に乗りあわせる人の数が先週よりあきらかに増えている。やはり、緊急事態宣言には、やはりそれなりの効果があったのだと考えないわけにはゆかない。
 もちろん、現状で、営業自粛の影響で経営がたちゆかなくなっている店や、中小企業にしてみれば、一日もはやい営業の再開と以前のような集客、事業の回復を求めてやまないところではあろう。しかし、それとは別に、そうして集まる客に、働くために移動する人に、自分たちの行動に感染拡大を招くの危機感は、どれくらいあるのだろうか。

国民とはすなわち愚衆なりとの徴、騒然と波打つ街頭に歴として出現す。

——山田風太郎『戦中派不戦日記』より


 ○夜。ししジニーさん、ゆんぺすさんと『マッドボンバー』を見る。

 行きすぎた社会正義を諸行無常に描いた、七〇年代バイオレンス映画の佳作である。

 ○アメリカでは、今月二十五日、ミネソタ州ミネアポリスで黒人男性が白人警官に頸部を圧迫されて死亡するという事件が起きてから、大都市で抗議デモが起き、それが一部で略奪をともなう暴動にまで発展しているという。
『マッドボンバー』の主人公は、娘の死の原因を社会にあると考え、社会を破壊するために爆弾を用いようとした。もうひとりの主人公である刑事は、そんな彼をとめようとして、無常な結末にたどりついた。このことと、いまのアメリカで起きていることは、無縁なものではないように思う。 


五月三十一日(日)

 ○夢。
 灰色のネコが部屋のすみにいる。そのネコには顔がなく、かわりに尻尾がはえている。二本の、対になっている尻尾を立てて、ネコはぐるぐると回っている。ぼくはそれをぼんやりと見おろしていた。

 ○昼食後、岬へゆく。人出は先週よりあきらかに増えている。
 駅前のショッピングモールが営業を再開していた。入り口にカメラとディスプレイがあり、カメラでとらえた客の体温を表示していた。
 このショッピングモールは中庭の芝生が売りであるが、そこかしこに客がいて、なかにはマスクをしていない人もある。そういう人々をよけて、ショッピングモール資生堂のパーラーへゆく。店内は感染拡大防止のために、ところどころに間仕切りをしてあり、営業の努力がうかがえる。

 ○この差はなんなのか、としばし考えて、他者へのまなざしであろうと思い至る。自分以外の人間が存在し、自分のふるまいが自分以外の人間に影響を与えるということを、意識しているかどうかの違いではなかろうか。
 資生堂パーラーのソーダ水は、ほんもののメロンの味がした。

 ○イナバさんから連絡があったので、いきつけの居酒屋で落ちあって夕食とする。刺身で日本酒を飲む。
 ここのところ、ビールやワインやレモンサワーが多く、日本酒を飲むのは実に久しぶりのこと。
 ぼくもイナバさんも、下品ラビットも、終わる五月と在宅勤務生活を惜しんで、ぐいのみを干した。

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→「#19 アラートの日」



参考・引用文献



イラスト
「ダ鳥獣戯画」(https://chojugiga.com/



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