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マッチングアプリはあなたの味方では無いという話

※今回の記事の内容は、私が以前に勤めていた企業の話なのでマッチングアプリ全体の話ではありません。マッチングアプリでトラブル見舞われた場合には、サービスだけではなく、警察、弁護士、公的機関などへの相談を検討してください。

私はマッチングアプリの法務を数年間担当していました。同時に、ユーザーとしてもマッチングアプリを利用していたのですが、中の人から見たマッチングアプリとユーザーとして見たマッチングアプリへの期待値には少しギャップがあるように思いました。

マッチングアプリの影

マッチングアプリで彼氏彼女ができたという話もよく聞きますが、同時にやり逃げや、窃盗、薬物の被害についてのサービサー側への通報も毎日のように発生しています。

法務に相談が来るのはその中でも比較的ヘビーな案件なので、相談が来る内容で最も多いのはやはりやり逃げ系ですね。妊娠したことを伝えると連絡が取れなくなったので、相手の個人情報を開示してほしいという問い合わせがサービサー側に来ます。

こういった問い合わせについて、安心安全をうたっている大手のマッチングアプリの場合でも相手の個人情報を開示しない場合があります。

つまり、仮に実際に被害にあった場合でも、場合によってはサービサーから個人情報を開示されないので、なす術がなくなってしまいます。

注意すべきは、弁護士照会や、裁判所の嘱託調査を出してもなお、開示してもらえない可能性があるというところです。

なぜ個人情報を開示しないことがあるのか?

なぜサービサーが個人情報を開示しないことがあるのかという点について。

決して面倒とか、そういった理由ではありません。

ざっくり言うと、例えば、ユーザーがサービサー側に弁護士照会(弁護士から「裁判するための資料で必要なので情報を開示してくれ」という要請をする制度です。)を通じて相手の個人情報の開示を請求した場合、サービサーは以下の2つの義務に板挟みになります。

・個人情報保護法上、ユーザーの個人情報を外部に開示しないようにする義務。

・弁護士照会に応じる義務。

つまり、サービサーはどのような判断をしても、どちらかには違反してしまうことになります。

では、最終的にどのように判断することになるかというと、以下の2点をおおまかに鑑みてどちらを優先するかを判断することになります。

・本当に、事実として個人情報を開示する必要性があるような状況なのか?

・個人情報を開示した時に開示された側にどのような被害が生じるか?

ここで厄介なのが1点目です。前提として、サービサーは警察などの捜査機関ではないので、「事実」が分かりません。問い合わせしているユーザーがもしかしたら本当はやり逃げなんてされていなくて、ただのストーカーかもしれないという前提で動くことになるのです。

本当に被害にあった人からすると、腹立たしいですが、民間企業の限界がここの「事実をどこまで把握できるか」にあります。

逆の立場で、怖い人とマッチングしてしまって、連絡を絶ったのにサービサーから勝手にあなたの個人情報が開示されたら、すごく嫌ですよね。それを防止するために、サービサーは個人情報の開示について、事実認定に超慎重になります。

少なくとも私が担当していたサービスでは、事実がある程度明確でない限りは個人情報保護法が壁となって開示できない判断が基本でした。つまり、実質的には企業には事実を調査する能力が無いので、ほぼ無理。

(ちなみに、過去の判例で見ても、開示した場合の責任を問うものはあれど、開示しなかった場合の責任を問うているものは見つからないので、開示する必要性があると認められる場合はかなり限定的でしょう。)

※上記の例では弁護士照会を例に取りましたが、警察からの捜査事項照会(捜査するため必要な事項の照会)であれは、警察が、ある程度は上記の1点目の事実を認定をしてくれるので、開示できるという判断を下せる企業も増えるように思います。

マッチングアプリはあなたの味方では無い

どれだけ安心安全を謳っていても、それはサービス上のみの話。サービス外のLINEや飲み屋で起きたことはマッチングアプリのサービサーには事実把握もできないので、基本的にフォロー外になってしまいます。

安心安全の謳い文句や、運営企業が大きな企業がやっているマッチングアプリだからという理由で、ガードを緩めることは絶対にしないほうが良いです。

めちゃくちゃ突然ですが、蟲師というアニメで、蟲という超常現象を起こす妖怪的な存在について主人公が「やつらは決して友人じゃない、ただの奇妙な隣人だ。気を許すもんじゃない。でも、好きでいるのは自由だがな。」という言葉が出てきます。

私はこのセリフが結構好きなのですが、マッチングアプリも蟲と同じです。

確かに、通常は出会えないような人との出会いをもたらしてくれますが、トラブルに陥った際に常に助けてくれる友人や味方とは思わないほうが良いです。

ユーザーとして対応できることはあるのか?

ここまではサービサー側の目線ですが、ではユーザーとしてトラブル回避のために何に気をつけるべきか。結局自分の身は自分で守るしかありません。身も蓋もない結論ですが、これ以上の回答が無いです。

それでも、1年半がっつりマッチングアプリをやり込んだ経験から、最低限気をつけるポイントを書くとすれば、以下のとおりです。

1 : 怪しい時は即撤退

マッチングアプリを利用している時点で、既に相手の素性が分からないリスクを負っています。そのうえで、大前提少しでも違和感を感じたら撤退した方が良いです。ドタキャンは申し訳ないかなとか、そういうのも気にしなくて良いです。

本当に悪いやつは、人の申し訳ないとか、気まずい、という気持ちを利用してきます。違和感を感じたら相手からどれだけ暴言を吐かれても撤退すべきです。

2 : 相手の素性をある程度把握するまで大人の関係にならない

少なくとも、住所や本名などの素性は確定してからそういう関係になるべきです。マッチングアプリでそこまでお堅いとかどうなの?とか言ってくるやつはロクなやつじゃありません。

直球で聞きづらかったら、レンタカーを借りるデートを企画して、車を借りる際に免許証見ましょう。住所を知りたいからと言って相手の家に行くのは避けた方が良いです、家に行くということをそういう関係になる合意と見ている人もいるので危ないですし、揉めます。

3 : 自分の個人情報は必要以上に開示しない。

逆に、自分の住所などは信頼できる人ではない限り開示しない方が良いです。隠し続けるのが難しい場合、ある程度のエリアは答えても良いと思いますが、住所の詳細などは相手の素性がある程度分かって、付き合うことを本格的に意識してからにした方が良いです。

しつこく聞いてくる場合には、「こういうアプリ慣れていないので住所とかはあまり言わないようにしてるの」とはっきり言っても良いと思います。経験則上、誠実な人であれば、それで結構納得が得られました。


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マッチングアプリを取り巻く法整備や救済制度などももう少し柔軟になるべきと個人的には思いますが、やはり前述の事実認定などの点でも民間企業に多くは期待することが難しいように思います。サービサーとしてもそこは限界を感じていました。

私自身もコロナの状況のなかで出会いが減っているので、今後もユーザーとして使っていくことになるだろうと思いますし、出会いという人生を変えうるものを生み出せるマッチングアプリにサービサーとして携われたことを誇りにも思っています。一方で、サービサーとして、やはりトラブルを生んでいる状況が悲しくもあります。

今回は、記事を見た何人かの人がちょっとでも気をつけてくれたらという気持ちで書きました。

マッチングアプリで彼氏彼女ができたという嬉しい報告は世の中に溢れていますが、負の面は本人もあまり周りに言わないのもあって、あまり広く知られるケースがありません。どうか、過度に恐れる必要はないですが、慎重に使って欲しいです。

※最後に、もし今マッチングアプリによるトラブルで困っている人がこの記事を読んでいるのであれば、サービサーだけではなく警察、無料で相談を受けている弁護士、公的機関(例えば:https://www.gender.go.jp/policy/no_violence/index.html)に相談したほうが良いです。自分で解決しようと抱え込んだらダメです。話を聞いてくれるプロを探して頼るべきです。

今後も継続的に記事を書き続けていく予定です。 100円くらい投げてやっても良いかなという方がいらっしゃったら、とっても嬉しいです。ぜひよろしくお願いします!