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「お屠蘇」


元旦は八時頃に起きて
私とあいつのお節の準備

でも私とあいつの好みは似ていて
お餅に海苔を巻いて砂糖醤油を付けて
後は黒豆、栗きんとん、蒲鉾、ハム
そんなもんかな

でもなんで正月用の蒲鉾ってなんで高いんやろか?
本物の美味しい白身魚を丁寧に作れば
この時代に高くなるのは分かるけど
じゃあ、いつも食べている蒲鉾は何なの?
そういう気になるわ

そろそろあいつも起きて来るかな?

あっ起きてきた

おはようのチューやて
うふふ

そんなちょっとしたことで
なんとも言えない幸せを感じるのは
私も年かな

顔を洗って来たあいつと一緒に
ソファに腰をかけてお節を頂くことに

お屠蘇はあいつの好きな純米吟醸
少し旨口で飲みやすいのが好みなんよ

買っていた小ぶりの漆器の屠蘇器で頂く

そうそう
あいつとの元旦のBGMは
いつも決まってるんよ

モーツァルトの室内楽曲
アイネクライネナハトムジークなどの曲を
古楽器の小編成アンサンブルで演奏した盤

なんでもあいつがレコードで聴いていた時からの
正月の十八番らしい

私も何年も聴いてるから
不思議と元旦はこの曲やないとなぁ
そういう気になってきたんは
不思議やなぁ

二人で乾杯をしてお屠蘇を飲む

あいつの乾杯はいつも
“Here’s looking at you, kid!”や

うふふ
ハンフリー・ボガードの真似しとるんよ
そんなら私はイングリッド・バーグマンかな

でも
私の目を見つめながらそう言われると
本当に「君の瞳に乾杯!」
そんな感じで悪い気はせんなぁ

おせちを食べながら
取り留めのない話をしながら
時々あいつは私の身体を触ってくれる

うふふ
これはあいつなりの合図やな

「お前のことを抱きたい」
そういうサイン

30日と昨日の大晦日
いっぱい二人でえっちなことしたのになぁ

私からのサインのお返しは
右手の人差し指の指先の腹で
彼の下唇を左右にそっとなぞること

それすると、あいつはスイッチ入るんよ
それは私もそうかな・・・

それから?
それからは朝陽を浴びながら
ソファの上で
その後はベッドで
二人して幸せな時間を過ごしたんよ

あぁ
今年も幸せなお正月やった

(Fin)

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