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Cynic / Ascension Codes

総合評価 ★★★★☆

作りこまれたアルバム。囁き系テクニカルデスメタルというか、暴力性を極力除去したテクデスとでも言った音像。ボーカルは基本的にウィスパー系で、アンビエント的な響きに徹している。音作りもジャズロック寄りのプログレというか、それほど耳に刺さってこないし暴力性は感じないのだけれど曲構造そのものはかなりテクニカルでメタリック、激しく各楽器隊がせめぎあっている。なので、聞いていると耳には刺さらないし暴力的な感じは受けないのにだんだんとテンションが上がってくるという不思議な感覚。遠赤外線でじわじわ熱されるようなアルバム。かなりユニークな音像だなぁと思うけれど、改めて考えてみるとこういうサウンドの一群がいるような気がする。USオルタナ、インディーズロックのトレンドへの接近も感じられ、これが今のUSメタル界のミクスチャー感覚なのかもしれない。心地よく聞けるけれど演奏が白熱しているので気が付くと熱が入ってくる、集中用BGMにもよさげなアルバム。


1.Mu-54* 00:31 ★★★

イントロ、夢幻な音の泡。アンビエント的。神秘的な女性の声。

2.The Winged Ones 05:08 ★★★★☆

クワイア、天からの光のようなコーラス。だんだんとシンセギターっぽいフレーズ、デジタルな音像がフェードインしてくる。手数の多いジャジーなドラムが入ってくる。浮遊感のあるギター、揺れるベースとドラム、ジャズロック的な始まり方。ビートが加速し、80年代的フュージョンのような軽快さを持つ。だんだんと展開しサウンドレイヤーが重なっていくが爽やかな雰囲気は変わらず。手数が増えていきプログレ的に。イタリアンプログレのアルティ・エ・メスティエリとか、あんな雰囲気もちょっとあり。インスト曲のようだ。あれ、インストバンドだったっけ、ボーカルいるよね。後半になってちょっと刻みリフが入ってきてメタル色が出てくる。ギターはクリーントーン主体。パキスタンのFaraz Anwarとかにも近い、爽やかで透明感がありつつかなり複雑な曲構成。2020年代のアジアンプログ(インド、パキスタン)あたりはこういう音像が多い気がする。

3.A'-va432 00:27 ★★★

1曲目のような、夢幻の泡立つような音、神秘的な女性の声

4.Elements and their Inhabitants 03:09 ★★★★☆

ノイズのような音、飛翔するギター、プログレ的な音。メタル感より純粋な「プログレッシブロック」感が強いな。こういう音像だったっけ。テクデス的な音像だった記憶があるが、キャリアが長いと音像は変わっていく。このアルバムからなのか、前からなのか。2008年の再始動以降はどうもこういう音像みたいだな。テクデス系のつもりで聴き始めたが、こういうプログレ的な音像も個人的にストライク。浮遊する音像でちょっとジャズロック的な感じもある。これもインストなのかな。かすかにスクリームが入っている。

5.Ha-144 00:29 ★★★

夢幻の泡のような音。1曲おきにこうしたイントロというかアセンション(遷移)シーンが入るな。

6.Mythical Serpents 06:24 ★★★★☆

ドラムが入ってくる。バンドサウンド。お、グロウルも入ってきた。全体の雰囲気はどこか神秘的な音像ながら、そこに潜む獣のようなものを感じさせる。白っぽい、雪原とか、寒々しく神秘的な風景が浮かぶ。ボーカルが入ってくる。というか、透明感のある、シガーロスみたいな感じのバッキングに溶け合う声。ミックスも小さめで楽器隊の一つとして処理されている。これはモダンな「プログレ」だな。やっぱりUSの音楽シーンは広い。かなりドラムは手数が多い。これ、グロウル入れればテクデスなんだけれどそれをけっこうクリーントーン主体で演奏している感じだな、面白い音像。ミュートをかけてどこか抑えてテクデスをやっているような。ウィスパー系テクデスとでも言おうか。終盤はミニマルテクノ的。

7.Sha48* 00:18 ★★★

アンビエント。

8.6th Dimensional Archetype 04:06 ★★★★★

クリーントーンでにじむようなギターサウンド。歌が入ってきた。モダンなプログレだが透明感が強め。最近の辺境プログメタルにも近い透明感があるけれどやはりUSのベテランらしく、どこか解放感があるしメロディにしつこさがない。アクが弱い、とも、洗練されている、とも言える。ただ、各楽器パートの重ね方はかなり濃い。音響、各楽器の音作りですっきり聞かせているがかなりぶつかり合っている。この曲はややベースが強め、ドラムの手数も全体的に多い。面白い音像だなぁ。なんだろう、さっき「ウィスパー系テクデス」と書いたが、他の言い方を試みると「暴力性をなるべく除去したテクデス」というか。曲構造そのものはほぼテクデス。それをジャズロック寄りのプログレ的な音作りで演奏している。

9.DNA Activation Template 05:25 ★★★★

この奇妙な音像を聞いているとだんだんと熱量が高まってきた。曲構造そのものはかなり熱量があるけれど音作りでごまかされている気がする。遠赤外線で温められる、というか。聴感としてはそこまで激しい音楽を聴いていないのだけれど、気づかないうちにかなりの熱量を浴びている感じ。これはテクノ的というか、デジタルなアンビエントの中に加工された声が舞う。その音世界が長めに続く。これはインタールードじゃなくて5分台の曲なんだな。かなり長くアンビエント的な音世界で引っ張ってから、ビートが効いたプログレ的なリフが出てくる。マニュエルゴッチングみたいな爽やかで反復するギターフレーズにしっかりドラムとベースがついてくる。「DNAを活性化させるひな型」というタイトルの曲。

10.Shar-216 00:22 ★★★

このインタールードはだいたい同じような構成だな、夢幻の泡のようなアンビエント音に少しの声が重なる。何か物語が進行しているのか。

11.Architects of Consciousness 06:20 ★★★★★

突っかかるようなリフ、変拍子が出てきてプログ的。超絶技巧だなぁ。相変わらず音作りはジャジーというかクリーントーンやリバーブなどの静謐さを想起させる音作りが主体。ディストーションはかかっているのだけれど控えめ。不思議な感覚。アンビエントテクデスとでも言おうか。Devin Townsendのオーシャンマシーンにも不思議な感覚があったが、あれをもっと音作りを細めにして、かつ演奏技術は超絶化(デヴィンも超絶の部類だけどあのアルバムはほぼ一人制作だから楽器隊同士のせめぎあいは希薄)したような。これ、ライブでみたら熱量が高そうだなぁ。ああ、最近のキングクリムゾンにも近いかもしれない、ヌーヴォメタル。まぁ、比較するとこちらの方がだいぶ性急だし、ドラマの展開が高速だけれど。ささやくようなヴォコーダーのボーカルが入ってくる。一部だけ切り取るとUSオルタナ、インディーズな音作りでさえある。まぁ、大きく言えばUSオルタナティブロックシーンのバンドなんだろうな。メタルって「オルタナティブ」の中でもまた浮いているけれど、案外このバンドはそうしたUSオルタナの音作りとかトレンドも意識しているのかもしれない。ユニークな音像。

12.DA'z-a86.4 00:33 ★★★

お、音程が出てきた。ピッキングハーモニクス。

13.Aurora 04:33 ★★★★☆

ネオクラシカル、大仰なイントロ。ちょっとメタリックなイントロだったが、すぐにオルタナ、インディーズ的な音作りに変化する。だけれどドラムはジャズ的というか隙あらば叩きまくろうという感じ。だんだん手数が増えてくる。この曲は静と動のダイナミクスの差があるな。グランジ的なフォーマット(静ー静ー動ー静)とも言えるかもしれないが、メロディ展開はメタル的。あと、ボーカルで動をつけるのではなくボーカルはずっと静、演奏隊が静と動を動く。比較的ストレートなわかりやすさがある。リードトラックに向きそうな曲。

14.DU-*61.714285 00:30 ★★★

スティーヴヴァイっぽいギター音。

15.In a Multiverse Where Atoms Sing 03:48 ★★★★☆

コードストローク、からの比較的メタリックな展開。これはモダンプログっぽい。歌メロは相変わらずダウナーというか囁き系。そういえばこういう囁きボーカルの元テクデスバンドを他にも聞いたなぁ、バンド名なんだったか…。だめだ、思い出せない。これ盛り上がる曲。このアルバムは作業BGMにもよさそう。あまり極端に耳に突き刺さってこないけれど熱量があるから集中できそう(個人の感想です)。

16.A'jha108 00:27 ★★★

アンビエントな繋ぎ。

17.Diamond Light Body 05:42 ★★★★☆

ベース音が強め、スペーシーな印象を受ける曲。デジタル加工された声が入ってくる。インベーダーゲームっぽい。クラウトロック的、70年代のジャーマンテクノ的な要素も入っている。このあたりのクラウトロック再評価は2000年代のUSオルタナの一つの潮流だと思う。それがデスメタル界隈にも来ているよね。Blood Incantationとかもそうだし。ああ、そういえば最近のテクデスだとAvtmもちょっとジャズロック的な音作りをしていたな。あちらはボーカルはグロウルだったから全体としてもっとデスメタル感は残っていたけれど。最後、クリアトーンのボーカルが入ってきて声が耳に残る。「声」が前面に出てくるのはこのアルバムで初かも。「Diamond Light Body」の声が残る。

18.Ec-ka72 00:45 ★★★

アウトロ。

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