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筋肉少女帯プレイリスト - あたしの胸を打つんだもん、誰の胸にも届くのよ

先日新譜「君だけが憶えている映画」が出た筋肉少女帯。まさにこのタイトルの通り「短編映画/小説みたいな曲」、且つちょっとマニアックな曲を集めたプレイリストを作りました。筋少ファンの中でも全曲知っている方は2000年代以降もオーケンを追ってきている熱心なファンでしょう。とはいえ、一度聴いたら忘れられない奇妙な感触がある曲ばかりです。タイトルから内容が想像できない曲ばかり。筋肉少女帯のディープな魅力に触れてみたい方、また、単純に「奇妙な音楽」を聴いてみたい方におススメのプレイリストです。

なお、今回のリストは2000年以降に絞っています。90年代も「奇妙な物語の曲」はたくさんあるのですが、全年代を網羅すると音質のバランスがとりづらいので、90年代以前はまたの機会に作ろうと思います。また、筋少だけでなく特撮、オケミスからも選曲しているので、正確には「筋肉少女帯プレイリスト」というより「大槻ケンヂが紡いだ奇妙な物語プレイリスト」です。

1.ベティー・ブルーって呼んでよね


from キラキラと輝くもの(筋肉少女帯 1996)

00年以降から選んだ、と書きつつこの曲だけ90年代筋少の曲。オープニングです。プレイリストのタイトルになった曲。この曲で描かれたシーンが心に残っているんですよね。90年代以降もオーケンが歌を歌っていく上での根底に流れていたテーマな気がする。なぜ歌い続けるのか。そりゃ今更ほかのことできないし、っていう部分もあるんでしょうが、「創作の裏側」そのものを歌詞にしてしまうという試みを実現した曲。

2.企画物AVの女

from ヌイグルマー(特撮 2000)

ここからが本編。この1曲目にこのプレイリストのすべてが詰まっています。それまでも奇妙な物語はたくさんありましたが、こうして曲の中で完全にフィクションの世界、しかもとても奇妙な、どういう感情を持ったらいいかよくわからない題材を持ってきたのは初。特撮の1st「爆誕(2000)」にも「文豪ボースカ」とか、「奇妙な物語の曲」はあったんですが、この曲は私小説から脱却してマニアックな映画のような趣が出てきます。つまるところ、このプレイリストは「企画物AVの女」のような曲を集めたプレイリストです。

3.揉み毬

from Agitator(特撮 2001)

ポリス、「見つめていたい」のサウンドパロディに乗せて展開される世にも奇妙な物語。タイトルからまさかこんな曲とは思わない好例。本当に揉み毬の歌です。温泉に行くたびに思い出します。

4.デス市長伝説(当選編!)

from 綿いっぱいの愛を!(特撮 2005)

選挙のたびに思い出す曲。

5.その後 or 続き

from 新人(筋肉少女帯 2007)

ここから筋少が再始動します。「仲直りのテーマ」とか「新人のテーマ」とか、「新人」自体が「再結成」をテーマにしたメタなコンセプトアルバムだったのですが、その中でもこの曲はシンプルなラブソングながら描写が細かくて面白い。この後出てくる「父と子供シリーズ」はこの更に「その後 or 続き」の話なのでしょうか。

6.あのコは夏フェス焼け

from 蔦からまるQの惑星(筋肉少女帯 2010)

「父と娘」シリーズの第一弾。この当時、フェスに筋少が出るようになってその衝撃をいろいろと歌詞にしていますが、その中でも想像力が自在に飛び回ったこの曲は素晴らしい。なんとなくオーケン本人や、「周囲にこんな人いるんだろうな」という「(元?)バンドマンの父」と娘、あるいは子供を描いたシリーズがこのあたりから出てきます。このシリーズ、好きなんですよ。

7.若いコとドライブ〜80'sから来た恋人〜

from 蔦からまるQの惑星(筋肉少女帯 2010)

タイムトラベルもの。物語が作りこまれています。青春と、年老いた自分の対比。青春の追憶を描くのにSF物語を描いて見せるのは星雲賞作家大槻ケンヂの面目躍如。2007年、筋少再始動以降、大槻ケンヂは小説家としての活動は封印し、その分歌詞世界が豊穣になりました。

8.タイムトランスポーター2「最終回ジャンヌダルク護送指令・・・放棄」

from パナギアの恩恵(特撮 2012)

バンドとアルバムをまたいでタイムトラベルもの。繋がっているようで繋がっていませんが、平行世界のような、同じモチーフを用いて違うテーマ、違う情景を描いて見せた曲。筋少再始動後眠っていた特撮が「5年後の世界(2011)」で再始動し、続くオリジナルアルバムとしてリリースした「パナギアの恩恵」からのナンバー。このアルバム、地味ながらNARASAKIのメロディセンスが明らかに向上していてバンドとしてのスケール感が出ています。ももクロとの仕事とか、NARASAKIの活動規模も大きくなったのが良い方向に出ている。

9.鬼墓村の手毬歌(Short Edit Ver.)

from パナギアの恩恵(特撮 2012)

途中まで普通の歌。途中から怪奇ホラーサスペンスを映像化。短編小説のような曲。オーケンならではの「日本的なロックオペラ」。

10.月に一度の天使(前編)

from The Show Must Go On(筋肉少女帯 2014)

「父と娘シリーズ」、前後編に分かれ、途中にシャンソン「愛の賛歌」のカバーを含むという壮大な出来。幼年期から思春期へ。曲調は完全に物語フォークなのだけれど、物語が胸を打つ。オチの悲哀よ。オリジナルアルバムではこの後「愛の賛歌」を挟んで後編へ。

11.月に一度の天使(後編)

from The Show Must Go On(筋肉少女帯 2014)

その後 or 続き。「言わないこと」による雄弁さ。最後、バンドブームのパンキッシュな音像になるのが「あの頃」感が強い。この娘はもしかしたら香菜なのだろうか。

12.シネマタイズ(映画化)

from シネマタイズ(特撮 2014)

オーケンの小説「ヌイグルマー」が映画化される、ということで作られた主題歌。そのままのシチュエーション「映画化」をテーマにしたメタ的な物語。NARASAKIの成長したメロディセンスが炸裂。ちょっと出だしがHelloweenのFuture Worldっぽい曲です。

13.枕投げ営業

from おまけのいちにち(闘いの日々)(筋肉少女帯 2015)

ダジャレかと思いきや、そのまま物語が進行していって、最後妙な感動が残る。想像力が飛躍しまくる曲。トベデレベルサの失敗で命を落とした少年が与えられたおまけの一日はまだ続いていたのか、というアルバムタイトル、ジャケットはオモイデ教。90年代前半の筋少をモチーフにしながら、中におさめられた曲は00年代以降のストーリーテラーオーケンの面目躍如。

14.荒井田メルの上昇

from ウィンカー(特撮 2016)

SFから再びオカルトへ。90年代はオカルト本を出したり、オカルト番組に出たりとオカルトづいていたオーケンが一時期封印(好きではあったのだろうけれど、オカルトの話をしすぎて橘高に怒られたりしていた)していたオカルト色を解禁し始める時期。奇妙な物語が紡がれています。メルちゃんとは人形なのか。

15.3歳の花嫁

from Future(筋肉少女帯 2017)

「父と娘」シリーズ。今回はそうきたか、というシチュエーション。途中の「永遠も半ばを過ぎて」というフレーズは中島らものエッセイ集のタイトルから。Queenばりのギターオーケストレーションで壮大に盛り上がります。明るく振舞っているが切ない物語。セルフカバー曲を含まない、再始動後初の全曲オリジナルアルバム「Future」からのナンバー。

16.オカルト

from ザ・シサ(筋肉少女帯 2018)

オカルト解禁、そしてオカルトを前面に出した曲。オカルトブームをセルフパロディしたかのようなメタ的な物語。神様が出てくるのはレティクル座妄想も想起させますが、しっかり壮大なオチがつきつつ、ちょっとホロっとする、いい話なんだか悪い話なんだか分からない物語。この曲はMVも秀逸でした。日本印度化計画以来のヒンドゥースケール導入曲。

17.なぜ人を殺しちゃいけないのだろうか

from ザ・シサ(筋肉少女帯 2018)

哲学的な問い。ちなみに哲学は神学と相性が悪く、反キリストとみなされることもあったとか。ネタタイトルではなく、真摯にタイトルについて答える曲。だんだん、周りでも人が死んでいく。寿命だったり病気だったり自死だったり。シドとナンシーにあこがれた高円寺心中のさらにifストーリーともとれるが、年月を経て「残される者」の具体的な感慨がある内容。

18.退行催眠の夢

from アウトサイダー・アート(大槻ケンヂミステリ文庫 2018)

うさん臭さ満点。「僕の宗教へようこそ」でかつて教祖の姿を描いて見せたが、この曲では催眠を実際にかけられる感じがします。ジャジーでライブ録音された大槻ケンヂミステリ文庫のアウトサイダー・アートから。00年代以降のオーケンの活動はほかに弾き語り主体のソロ、アングラロックをやっていた「電車」があるのですが、電車は残念ながらサブスク未解禁(Apple MusicにはあるけれどSpotifyにない)。

19.妄想防衛軍

from Love(筋肉少女帯 2019)

「しいたげられた者たちが闘う」という、「タチムカウ」以降、たびたび描かれてきたテーマの曲。「がんばったけれどダメ」というテーマでもあるし、現実に立ち向かい、砕け散ることをどう歌にするか。もがく姿を描いた曲。「Love」は様々な「愛」を描いたコンセプトアルバムで、愛の束縛、同調圧力、自らを抑圧するものとしての側面も描かれます。最後は「愛からの解放」で終わる。筋少らしい壮大な「ラブソング」を対象化、脱構築してみせたコンセプトアルバム。このアルバムの世界観が、次作である「君だけが憶えている映画」の最後3曲に繋がっています。

20.歌劇「空飛ぶゾルバ」より「夢」

from エレクトリック ジェリーフィッシュ(特撮 2021)

壮大なロックオペラ、説明できるような曲ではないので聞いてみてください。


以上、20曲、「僕の心に残っている奇妙な物語」を大槻ケンヂの作品から選んでみました。筋肉少女帯の新譜「君だけが憶えている映画」からこのプレイリストに足すなら「坊やの7人」ですね。

それでは良いミュージックライフを。


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