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Emma Ruth Rundle & Thou / May Our Chambers Be Full

衝撃盤ベスト10に選んだ作品。Emma Ruth Rundleはオルタナティブフォークに分類されるアメリカの女性SSWで2008年デビュー、Thou(ザウ)はスラッジメタル、ドゥームメタルに分類されるアメリカのバンドで2005年にデビュー。この2者のコラボ作品です。

けっこう穏やか目の女性ボーカルと哀切感漂う絶叫系のボーカルの絡み合いが面白い。なんというか、他者から見ると平熱・平静を装っているけれど内心では慟哭している、みたいな内面を感じたり。孤独感とか怒りとか、日常の中に潜むさまざまな感情、内面の機微を見事にアルバムを通じて描き出しているなぁと感じた作品。感情の起伏に寄り添うというか、感情の起伏が生み出されるというか。すごくパーソナルでありながら開かれた感じも受けました。アルバムを通して聴く時間を通して、自分自身の感情の変化が起きる音楽。

スマホで聴きながら読みたい方はこちら(noteに戻ってくればYouTubeでバックグラウンド再生されます)。

2020リリース

★ つまらない
★★ 可もなく不可もなく
★★★ 悪くない
★★★★ 好き
★★★★★ 年間ベスト候補

1.Killing Floor 6:46
どこか遠くから何かが響いてくるような、声だろうか、SEからスタート
ゆるやかにリズムがはいってくる、たゆたうようなアルペジオ、揺れるギター音、リズム
声が入る、スロウだがそこまでヘヴィではない
女声ボーカルは比較的静かで感情は抑え目だが、後ろに微かなコーラスでスクリームが乗っている
それが情念を感じさせる
音は柔らかいが、音程や構成はヘヴィ、重めで暗鬱としている
メロディは和音感はあり、展開はしていくがやや哀切な感情を感じる、恨みと諦めが混じったというか
ドゥームな音像、ギターはノイズはかなり乗っている、ゆがんでいるというよりノイジー
静かなボーカルが背面に引き、コーラスのスクリーム、怨念のような声が前面に出てくる
コード進行自体は穏やかで静謐さも感じさせるがところどころ不協和音が混じり、平穏をかき乱す
後悔、慟哭、取り繕う平然、隠しきれない感情、そうした揺れる心情が音になっているかのようだ
ジャケットは顔のない人物、性別や年齢ははっきりしないが背は高い
この人物の声だろうか
メロディやフレーズより質感、訴えられた情感が印象に残る
★★★★

2.Monolith 3:23
少しアップテンポに、とはいえ軽快さはあまりない
ところどころ明るめのコードはあるのだがギターノイズと、どこか不協和音が混じっていて爽やかさはない
やはり二面性がある
ボーカルはややスクリーム気味、少しやさぐれたパンキッシュな声、コーラスに微かに慟哭も入っている
前面にあるのは怒り、あるいは反抗と、それを斜に構えてクールに気取っている風のペルソナか
バンドサウンドは全体として緩急、感情の波を感じさせる
ノイズが多く、ブラックメタル的なローファイな感じ、ただ、ブラストビートやトレモロリフはない
ブラックメタルというよりシューゲイザーか、ノイジーなギターのコード
★★★★

3.Out of Existence 3:42
歌メロが入ってくる、歌メロはグランジオルタナ系というか、フックがないわけではない
ちょっと耳に残る感じ、バンドもリフらしきものを音の塊、ユニゾンで奏で始める
ボーカルがスクリーム、慟哭、調性された絶叫
この辺りはデス/スラッシュ的な歌唱法、コントロールされた叫び
泣きメロではない、どこか泣き切れない、自己陶酔(耽美)しきれないメロディ
なんだろう、少しゲルニカ(戸川純)も思い出すがああいう素っ頓狂なメロディというわけでもない
もっと余裕がある、より自然体というか、狙った前衛や表現の枠を破ろうとするあがきは強く感じない
もっと自然な感情の発露を感じる
★★★★

4.Ancestral Recall 3:54
節回り、こぶしが効いた歌い方、「歌」としての表情が強まる
途中からスクリーム、絶叫に変わる
なんだろう、バランスが良い、ノイズや絶叫など聞き苦しい音の集合のはずなのだがそれほど耳に刺さらない
適度にメロディがあり、展開があり、娯楽性も感じる
演者、音楽との間にそこまで距離を感じない、距離が近い
自分ごととして感じられるような、感情の描写が極端に大げさとは感じない
取り残されない、これはなかなか面白いバランス
つかみどころがない音楽、音像とも言えるのだが、遠く突き放されている感じはしない
自分のこと、とも感じないが、何かしら共感できる
感情の揺れ幅というか、シーンごとの感情の揺れ幅が理解の範囲というか
だんだん曲を重ねるごとに振れ幅は大きくなってきている
★★★★☆

5.Magickal Cost 4:10
少しルーツミュージック、中央アジア~アラブ~北アフリカ的な歌いまわしが出てきた
マイナーでもメジャーでもない音階、オリエンタルな響き
静かな曲、ギターのノイズも抑え目、太めのクリーントーン
途中からノイズが入り、スクリーム
これはもう少し今のまま行ってほしかった、違うシーンが入っても良かったがまた同じ展開に行くのは惜しい
アルバムの表情を変える、バリエーションを感じる曲だったのだが
ブラックメタル的な表情が強まった、絶叫とブラストとトレモロリフ(単音リフ)が出てくる
テンション高くなり終曲へ
★★★★

6.Into Being 5:16
これ、どういう背景のミュージシャンなのだろう、前情報なしで聴いているが好奇心が沸く
こちらもやや民族的な歌いだしからヘヴィなパートへ、ヘヴィパートへ行くと民族感はなくなる
ただ、欧州のバンドな気がするなぁ、もしかしたらアメリカなのだろうか
今の活動はアメリカで行っている気もするが移民か多国籍バンドなのだろう
サウンドプロダクションとか、洗練度合いがアメリカっぽいのだけれどメロディとか節々が欧州的
欧州のどこか、まではつかみどころがないなぁ、UKとはちょっと違う気もするが、、、
類型化しづらい、いろいろな音像、表現方法を取り入れているが異形感がある
「新しいもの」を聴いている感じがある
メロディが増えてきたのか、耳が慣れてきたのか、メロディの感覚が強くなってきた
スクリームが多用される、静かな歌い方とスクリームの多重構造は解消されたようだ
スクリームはスクリーム、クリーントーンはクリーントーンで歌が場面ごとに分かれる
★★★★☆

7.The Valley 8:58
かすかな和音、響いてくるドラム
かすれた音で弦楽器が入ってくる、バイオリン、フィドルだろうか
くたびれた、疲れた、何かの後のような、帰路
つぶやくような歌、慰撫するような
中世音楽、欧州ルーツミュージックを感じさせるメロディ
静かで哀切な情感、情景
レクイエムほど暗黒、慟哭ではないが郷愁よりは強い、何かしらの喪失感
長尺の曲なので展開がゆるやかながら感情が落ち着き、盛り上がり、緩急が付く
ふたたびクリーントーンとスクリームのコーラス
前面と背面、多重人格のような、顔で笑って心で泣いて、というか
感情を揺さぶるドラマ
★★★★★

総合評価
★★★★☆
感情の起伏に寄り添うというか、感情の起伏が生み出されるというか
ボーカルの存在感が強い、メタルボーカルの語法を超えている、民族的、伝統音楽的な歌唱法とスクリームが混じる
ツインボーカルなのだろうか、同じ声のようにも思うが
ヤーマンタカ/ソニックタイタンのような、アート集団的な、いろいろなルーツや影響がごちゃ混ぜになった新しい表現
フレーズやメロディ単位というより曲の情景や全体の流れが印象に残る
単曲単位だとどれぐらいフックがあるのかは分からない、普遍性は分からないが、すごくパーソナルでありながら開かれた感じも受ける
音楽そのものはかなり開かれている、閉じた感じは受けない
ただ、分かりやすさは少ないし、のめりこめるほど煽情的でもない、そのあたりが評価が難しい
他にない聴感、質感の音楽なのは確か

ヒアリング環境
夜・外・ヘッドホン

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