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Schizoid Lloyd ‎/ The Last Note In God's Magnum Opus

Schizoid Lloydは2007年結成、2009年デビューのオランダのバンドです。こちらは2014年リリースのファーストアルバム。ものすごくミュージシャンシップが高いバンドで、かなり実験的ながら音楽的な娯楽性やロック・メタルの肉体性も感じさせる面白いアルバム。たまたまLPを見かけてジャケ買いしたのですが期待以上の大当たり盤でした。流して聴くとつかみどころがない音像でもありつつ、じっくり聞くとかなり緻密に考え抜かれている感じもします。

スマホで聴きながら読みたい方はこちら(noteに戻ってくればYouTubeでバックグラウンド再生されます)。

2014リリース

★ つまらない
★★ 可もなく不可もなく
★★★ 悪くない
★★★★ 好き
★★★★★ 年間ベスト候補

1 Suicide Penguin 5:28
バロック調のオルガン、エフェクトで歪んだ声、Zappa的という評もあったが確かに
歪んでディフォルメされたオペラのよう
ところどころにユニゾンのリズムが入ってくる、ディストーションギター
Queenというか、The Darknessと言うべきか
プログレ的、間奏は優雅、Genesisのような
だがボーカルは邪悪、UKか、たしかオランダのバンドだったかな
リリースはフィンランドのレーベルから
途中歪んだハレルヤコーラスが出てくる
変わった、人を食ったような音楽だなぁ
クオリティは高い、この辺りの本気かジョークか分からないがハイレベルなのはフィンランド的
そういえばオランダのバンドってあまり印象がないな
人を食ったような音楽だがきちんと終曲、妙に壮大というかきちんと完結はしたなぁ
★★★★

2 Christmas Devil 2:58
猛烈な轟音、これ次の曲になったんだよなたぶん
LPを手に入れたので曲の区切りが表示されないのだが、溝的にたぶん次の曲
間髪なく曲間がつながっていた
ややブルージーなソロが出てくる
音的にはドゥームメタルというか、そういう雰囲気もある
ぐちゃぐちゃでカオス感もあるが、和音はしっかりしている
デヴィンタウンゼント的かも
この曲はところどころクワイアコーラスで美しい音場が広がる
ややスペーシー、宇宙的な音像でもある
2014年かぁ、当時としては早かったのかな、同時代性がわからないが
2019年のデヴィンのEmpathあたりを連想する
この曲、そんなに長くないのにかなりドラマティックというか展開がいろいろあるな
Beneath The Massacreみたいに超高速で詰め込んでいるというわけではなく、むしろミドルテンポなんだが
★★★★☆

3 Avalanche Riders 4:34
妙なメロディ、ひっかかりがあるブルース、Zappaのギターソロのような
音像はドゥームでスペーシーでサイケ
変拍子なのだがプログレ的というより曲をいびつにくっつけてなんとか動いているような感じ
心地よく音が流れていく
なんだろうなぁ、音響的にはImperial Triumphantのような、遠くで響くような声
でもあまり攻撃性は高くない
心地よさがあるけれど、ポップさはない
しかし一曲一曲が長く感じる、退屈ということではなく、情報量が多いのだろう
★★★☆

4 Misanthrope Puppets 7:38
差し込むようなキーボード、女声コーラス
ギルモア期のフロイドのような始まり方
アルペジオが入ってきて雰囲気が変わる、リズムが入ってくる
リズムはメタルドラムというよりジャジーさもあるドラミング
ちょっとゆるさというか、オーガニックな感じがあるアンサンブル
メタリックなリフが暴れだす、鎌首をもたげるようなリフ
低音の、グロールというか朗々と歌う、ホラー的な声というべきか
何かの呪詛か儀式のような、ただ、ドラムは比較的軽快に進んでいく
シーンが変わり、不思議な浮遊感のある音に、演劇的なボーカル、サーカスお道化のようなシーンに変わる
ダークオペラというか、ブラックコメディ的な音像
変わったプログレだなぁ、スロヴェキアのDevil Dollとかにも近いかも、あそこまで耽美というか、、、ではないが
静かになったと思ったらヘヴィで打ち付けるようなリズムになって戻ってきた
ボーカルの発声法が独特、声楽的というか
そもそもアニメのキャラクターのようだ、ピンクフロイドのザウォール(アニメ)に出てくる奇形のキャラクター達を思い出す
歪みながらも曲構造はクラシカルというか、きちんと完結するような、音楽教育を受けた人たちなのかな
大枠のところではきちんと作曲されていて、それを崩している感じがする
★★★★

5 Film Noir Hero 4:18
ピアノの音、弾き語りのような
発声練習のような不思議な声でメロディを歌う
ピアノがやる気を出す、うーん、全体的に大枠で言えばクラシカルなんだろうか
クラシックっぽいパート、ジャズっぽいパート、ブルースっぽいパートがあり、そこにドゥームメタル的な音像が混じる
という不思議な構成
この曲はずっとピアノとボーカルが主役
★★★☆

6 Amphibian Seer 5:10
ボーカルとギター、ドラムが入ってくる
ギターポップ、ギターロックみたいな構成なのだが悪夢のように歪んでいる
水族館の厚いガラス越しに見ているような、奇妙な歪み方
曲そのものの構成はむしろポップなのだろうが、、、なんだろう、間延びしたような声
これ加工してるのかな、声だけカセットが伸びたような声
でもリアルタイムでこの声なのかな、少し溶けて伸びたような声、サイケ
ちょっとレゲエのリズムも入ってきた
歪んだチルアウトミュージック
ヘヴィブルースなのかな
これはとがってるなぁ、この1枚を残してその後音源が出てないが今もサイトはあるしFacebookも動いているようだ
これ、新作出したらどんな音出すんだろうな、凄いバンドだな
完結、きちんと「曲」として完結していく感じが強い
★★★★☆

7 Cave Painter 3:47
ノイズっぽさがありつつ曲構成はきちんとある
拘束クリムゾン的ヌーヴォメタルというべきか
和音感はけっこうある、のたうつ感じは少なく、やはり歪んだ鏡とかガラス越し
変なモノを観ているような、SepulturaのAriseのジャケットみたいな
甲殻類をくっつけて悪夢的にした感じ
Atollの夢魔の方がいいか、例えとしては
音像はプログレとヘヴィロックの中間、こういう作品が眠っているから欧州プログレは面白い
★★★★

8 Chicken Wing Swans 7:43
ゆらめくような、奇妙なビザールが続く
ジャパニメーションのサントラとしても使えそうだな、筒井康隆のパプリカとか
どこかディフォルメされた悪夢
さまざまな要素がごった煮で、メロディそのものは芯が通っている
ただ、フックがある瞬間はすぐ去っていく
ヘヴィなリフ、優雅でバロックな音像
ややゆるいドラム、うーん、こういう流れの一派があるんだろうなぁ
Imperial Triumphantもこの流れなのか
クリムゾンとか、Amon Duulとか? Gongとかもそうか
表現手法、作曲的なクリシェとしての「プログレ」ではなく、精神としてのプログレ
まぁ、エクスペリメンタル(前衛)ロックと言った方がいいんだろうな
プログレというのはスタイルに紐づき、70年代プログレ的だったものは今はエクスペリメンタルと呼ばれるのだろう
このアルバムを2014年に聴いていたらどうだったろうなぁ、かなり衝撃だっただろう
2020年の今聴いても尖鋭的だが、少しポップというか「聴きやすさ」も感じる
やはりそこまで解体していない、音楽としての構造が残っているように感じる
だいぶ先にはいるが、2020年、2021年の最先端ではない
ゆえにその聞きやすさとのバランスが正しかったのか、音楽的快楽のさじ加減が客観的に味わえる
これは良いバランスだと思う
きちんと構成された楽曲、メロディ、そこに対して味付けされるさまざまなカオス
なんだろうなぁ、何かを思い出す、この響き
★★★★

9 Citizen Herd 9:58
これ、LPだと2枚組に分かれている、それほど長いアルバムでもないはずなんだが
全部で1時間ないぐらい、1枚組にもできたはずだが2枚組にしたのは意味があるのだろう
実際、ちょうどよく感じる、音の密度が濃いから15分おきぐらいに休憩(盤をひっくり返す作業)が入るのがちょうどよい
この曲は浮遊感がある
途中からメタル的な質感のあるリフに、ただ、どことなく緩さがある
ちょっと中東的、北アフリカ的なフレージングを弾くキーボード
ユーモラスでもある、なんというかちょっと胡散臭い、変なSEも入る、ザッパ的
キーボード、ハモンド的な音でソロ
音が絡み合う、けっこう間奏で表情が変わる
これは面白いな、長尺曲なんだがいわゆるプログレの手法とはまた違う
長さを感じさせない、という点では似ているのだけれど
いろいろなパーツが出てきて世界観が変わっていく
ちょっとエレクトロニカ的というか、反復する電子音、この辺りも2020年にも通じる
こういう音像は2010年代前半にはすでにできていたのかなぁ
だんだんと盛り上がっていく、心音が停止したような、高音が続き去っていく
終わりかと思ったらまだか、静謐なパートへ
哀愁のトランペット的な音が入ってくる、ボーカルが戻ってくる
祈りのような、オペラティックというか、歌い上げる感じの声、バリトンだがそんなに「いい声」というわけではない、そういう発声法をしているだけ
この辺りが人を食った感じというか、本気だかなんだか分からない、Zappa的
ボーカルパートで終曲、やけに壮大
★★★★★

10 Prodigal Son 5:43
クラシックギターをつま弾く音、フレーズ
ところどころつっかえる感じありつつ曲が続く、何気なくつま弾いているような感じを受ける
ただ構成は引っ掛かりがある
たどたどしいギターが増えてボーカルが入ってくる
歪んだバラード、バイオリンまで入ってきた
この歪んだ感じは多分にボーカルにもよるな、オペラティックというかニューウェーブというか
けっこう情けない感じを出してくる
全体としてどういう感情を想起すればいいのか、安易にひたることが許されない
ただ聴いていていろいろな音が出てくるし、曲展開はしっかりしているので妙な心地よさがある
けっこう不快な音は多いのに、全体としてみるとそこそこ心地よいのが不思議なバランス
哀愁のメロディというか、哀愁のコーラスみたいな雰囲気になっているがボーカルとかちょっとした和音がゆがんでいてどこか笑える音像に
★★★☆

全体評価
★★★★☆
掘り出しモノ、2014年リアルタイムで見つけていたら衝撃盤
でも流して聴いたら凄いとは思わないかもなぁ、なんというかつかみどころのなさもあるアルバム
ただ、ところどころに耳を強く惹かれるパートがあるし、ちょっとレゲエっぽくなったかと思ったらロックに戻ったり
曲の表情が自在に変わっていく、アイデアが豊富でかつ自然に盛り込まれている
真面目なんだかふざけているんだか、どう受け取ったらいいか分からないパートもあるが、全体としてとにかく音楽IQは高い
かなり高度な作曲、演奏技術を持って計算されている
とはいえ偶然の効果っぽいもの(それを「選んだ」ということは計算なのだろうが)もけっこうあって、あまりかっちりした、力んだ感じは受けない
ジャムっているような気楽さもところどころに感じさせつつ、全体としてはかなり高度で前衛的で娯楽度も高め
ボーカルに好き嫌いが分かれる、曲によってはまっているところもあれば、ふざけすぎているように感じるところもある
ややそこが惜しいところではあるが、凄く奇跡的なバランスで成り立っている音像のようにも感じる
ブラックメタルとかゴシックとかドゥームメタルがいろいろな要素を取り入れているが、かなり早くいそうしたものに近い音像にたどり着いていたのかも

ヒアリング環境
夜・家・スピーカー

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