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LA FEMME / Paradigmes

ジャケットに惹かれて聞いてみた一枚。LA FEMMEは来日公演も行っているバンドのようです。フランスのサイケ・パンク・バンド、だそう。ヴェルベットアンダーグラウンド&ニコなんかも引き合いに出されつつ。2ndリリースの後、来日公演時の記事がありました。

■フランス屈指のサーファーの聖地ビアリッツでサーフ・ミュージックとヴィンテージ・ロック好きのSacha Got(ギター)とMarlon Magnee(キーボード)が出会い結成、パリ移住後、Sam Lefevre(ベース)、Nunez Ritter(パーカッション)、Noé Delmas(ドラム)、そしてフランス・ギャルやフランソワーズ・アルディなど往年のフレンチ・ポップ・シンガーを彷彿させるClémence Quélennec 嬢が加わり今の布陣となったラ・ファム(フランス語で「女、女性」)。2013 年のデビュー・アルバム『Psycho Tropical Berlin』がフランスのデジタル・チャート1位に登りつめ、多くの雑誌の表紙を飾り、数々の有名フェスにも出演、CMに楽曲が使用されるなど、フランスでいま最も注目を集めるバンドのひとつとなった。

サイケでガレージでサーフ。クルアンビンとかとももしかしたらリスナー層が被っているのかな。フランス語の響きが面白いです。これは2021年作の3rdアルバム。

バンドの音楽は、ヴェルヴェットアンダーグラウンド、クラフトワーク、コールドウェーブ(ポストパンクの一種)、パンク、イェイェ(フランスのポップス)のミックスに影響を受けたミクスチャーでサイケデリックなものです。


1.Paradigme 03:36 ★★★★

温かみのあるノイズというか、懐古的な雰囲気もあるちょっとジャジーな音。少し荒れたサウンド、ラジオノイズのような。遠くでなる50年代的ビッグバンドジャズ。ベースがうねっているあたりはモダン。サーカスの始まり的なエンタメ感も少しある。声が入ってくる、ボーカルは複合ボーカルというかコーラスが揺らめく感じ。フランス語の独特な響き。キッチュな感じがする。いろいろな楽器が出てきてチンドン感もある。

2.Le sang de mon prochain 03:29  ★★★☆

ささやき声、シャンソン的なポップからスタート、ジェーンバーキンとかヴァネッサパラディあたりの感じ。あそこまで妖艶だったり小女性は強くないが。曲が進むと比較的強い低音ビートが入ってきてクラブ仕様に変わる。スパイ映画的というか。そのビートの上には優美で幽玄な、どこか浮世離れしたシンセが漂う。ホーンテッドマンションの効果音みたいな。この辺りがサイケ感か。ちょっとトルコ(アナドルロック)感もありますね。

3.Cool Colorado 03:52 ★★★☆

優美で緩やかなメロディがバックでずっと流れ、そのうえで展開していく曲。フレンチポップ感。

4.Foutre le bordel 02:09 ★★★☆

パンク感が出てきます。男性ボーカル。いい感じのコーラスでサクッと終わる短めの曲。雰囲気が変わります。

5.Nouvelle Orleans 03:53 ★★★★

再びフレンチポップスな感じに戻ります。ちょっとドリーミーなシンセサウンド。どの曲も揮発性が高い、純度が高いポップス。さらっとしている。なんというかミニチュアハウスというか、キッチュで作りこまれているけれどかわいらしい感じ。ボーカルに合っています。音数は少なすぎず、多すぎず。けっこう音の余白はあって、一つ一つの骨組みが見えます。レトロフューチャーというか。けっこう電化されて揺れる、音響的には実験的なこともしているけれど一つ一つの音色はレトロという。

6.Pasadena 03:48 ★★★★

ラップからスタート。Orelsanみたいな。フレンチラップはメロディアスというか、メロウな感じがして好きです。アメリカのブラックなメロウラップとは全然空気感が違うんですよね。もうちょっと内省的というか、諦念というか。残酷さは残酷さとして受け入れるような感じがあります。極端に悲劇を訴えないけれど、実はけっこうヘヴィな感情だなぁ、的な。コード進行はマイナー感はありつつメジャー。こういうのはアメリのサントラでも感じますね。フランス感。ベタベタしすぎない。

7.Lacher de chevaux 02:31 ★★★☆

ゴシック調にしたディスコサウンドのような。ジンギスカンのようなノリのよいテンポとサウンドながら、上に幽霊的なヒョロヒョロしたシンセサウンドが漂っています。モダンな感覚でレトロな曲作り。途中で馬がいななくような音。ウェスタン・西部劇サウンドといえばそう聞こえるか。馬駆けリズムのインスト曲。

8.Disconnexion 03:21 ★★★★

キレのいいバスドラ、シンセキックからスタート。ディスコサウンド。ただ、ちょっとサイケでダルい感じ。シタールのようなたわんだ音が入ってきます。やや脱力したコーラス。サイケですね。そこからうめくような男性ボーカルが入ってくる。つぶやき系ラップ。女性のハミングがループしていく。ちょっとヴェイパーウェーブ的なチルな空気感をアッパーにした感じ、、、と思っていたらいきなりバンジョーが入ってきてカントリー的に。おもしろい構造。さまざまな音楽的要素をテクスチャとして貼り付けてレトロな音像で統一した感じ。YMO的なサウンド(英語版wikiだとクラフトワーク的と書かれている)。まぁつまり80年代テクノポップ感。後半、ちょっとテンポアップ。

9.Foreigner 03:32 ★★★★

テクノポップな始まり。ループするコード。なんだろうこの感じ、懐かしいな。そこに男性ボーカルで明るめのボーカルが乗る。モンキースみたいな、、、いや、何だろう。まあ、青春ポップス的、若いロックバンド的な。ただ、どこかZappa的な批評眼、対照的に「こういう感じでしょ」というメタな視点も感じる。テクノパンク感。いわゆるニューウェーブか。男性ボーカルの曲。かっこいいです。

10.Force & Respect 02:08 ★★★☆

リズムで遊ぶイントロ、少しづつずれた音が重なってリズムパターンを作る。そこに女性ボーカルが乗ってくる。やや中近東的な、エキゾチックなメロディ。短めの曲。次々曲が展開していく。

11.Divine créature 05:07 ★★★☆

今度はEDM的な、ちょっとトランス的なキック音。そこでうごめくような男性ボーカル、つぶやき声。エフェクトがかかって割れた声。Zappaのジョーのガレージの中央監視官("The Central Scrutinizer")のような。じっくりと曲が進んでいく、このアルバムは次々と場面は変わっていくけれど、全体の空気感は統一されている。楽曲のスタイルはけっこうバラエティがありますが、音色や音階には共通項があります。全体としてはパーティーアルバム。だんだん体が動き出す、めちゃアッパーではないけれど静かな熱量、この曲はだんだんフロアが熱狂してくる頃合いか。無表情にならされる四つ打ちのキックが通底して流れていきます。

12.Mon ami 02:37 ★★★

低音、ベースが聞いたシンセ音。そこに男性ボーカルが入ってきて、急に軽快なリズムに変わるけれど、どこかつかみどころのないメロディ。ちょっとクールダウンするような。ドリーミーな感じ。途中から女性ボーカルも入ってきて開放感が増す。

13.Le jardin 04:00 ★★★★

キーボードのアルペジオから、女性のコーラス、多重ハーモニーによる美しいメロディに。バラード調。ロックバラードというか、こじんまりしていない、スケール感がある展開。途中からラップ的なヴァースへ。大げさすぎず、自然に流れていきます。ボーカルの音域はけっこう狭いというか、声を張り上げる、高音はあまり使わない、全体として中低音域で、日常(話し言葉)と非日常(技巧的な歌声)のはざまぐらいの、「日常だけれどちょっと違う世界」感があります。そうした一過性のテンションに頼らず、アルバムを構成するのは見事。けっこう限定された振れ幅の中でバラエティを出しています。コードはいわゆるカノン進行。ドシラソファミ(ファソ)とベース(ルート音)が下りていく。

14.Va 04:19 ★★★★

急にアラビックに、世界が変わる。こういうちょっとワールド的というか、いろいろな音楽要素(前の曲は突然カントリー的なソロが入ったり)がミックスされているのは面白い。イントロはアラビックながら、ボーカルラインはそこまで極端ではなく、節回しが少しそれっぽい。ただ、砂漠的な乾いた感じはなくウェット。ドリーミー。不思議な感覚。色で言えば紫というか、いわゆる紫の煙、サイケですね。Altin Gunにも通じる。これはいいアルバム。

15.Tu t'en lasses 06:02 ★★★★

最終曲。さまざまな音が重なっていく。赤ん坊の笑い声のような、海鳥が鳴くような不思議な音もする。そこから男性ボーカルが入ってくる。フレンチ感あふれる洒脱なバラード。オシャレなだけでなくちょっと歪んだ、一筋縄ではいかないズレ感もあり、不穏さも隠し持っています。アルバムの大団円を飾るスケール感のある曲。

全体評価 ★★★★

次々と新しいアイデアが出てきて飽きない。15曲ありますが長い曲、短い曲があり、いろいろな展開をしていきますが音色や音域、音階展開には共通項があり、アルバムの統一感があります。飽きずに浸っていられる。心地よい時間が流れる良盤。センスがいいですね。



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