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Big Thief@恵比寿ガーデンホール 2022/11/18

やってまいりました、恵比寿ガーデンプレイス。イルミネーションが華麗。この季節は毎年恒例のようです。

今回はビッグシーフの来日公演。もともと2020年に来日予定だったのが延期となり、2年越しの初来日が実現。

19時開演、18時開場ということで18時ごろに会場につくとすでに黒山の人だかりができています。ガーデンホールでライブを観るのは久しぶりだなぁ。以前、何かのイベントで来た気がします。De La Soulとヤン富田が出て、ヤン富田のバックバンドにコーネリアスがいました。あの時は何のイベントだったかな。

入場。そこそこ早めに入れました。今日はスタンディングか。ここって体育館みたいな作りですよね。飾りがない。音響設備は備え付けなのか、レンタルのたびに設営しているのか。Zeppとかリキッドルームとかライブに特化したイベントスペースやライブハウスは音響設備が備え付けてありますが、ガーデンホールはどうなんでしょうね。ライブイベント以外で来たことがありませんが、どうも音響に特化した作りではない気がします。

スピーカーは左右に1系統ずつ、二つのラインアレイスピーカーがぶら下がっています。だんだんと客が入ってきて、19時ちょうどになるとサポートアクトの食品まつり a.k.a foodmanがスタート。

ひとりで出てきてラップトップと機材をいじる。ジャンルで言えばミュージックコンクリートやサウンドモンタージュといったところか。

こんな感じで、ビジュアルもなく延々とアンビエントというか「音」を重ねていくスタイル。10分ぐらいたった時にギターアルペジオの音が出てきたのでここから展開していくのかと思ったけれどまた自然音とか環境音の組み合わせに戻っていきました。なんというか、効果音を延々と組み合わせる感じ。一つ一つの音に拘りがあるのは分かったんですが、ちょっと今回のライブにはミスマッチだったかなぁ。会場も特に音響がいいわけではないし、映像もなかった(もともとビジュアルをあまり使わないタイプの人なのか、今回スクリーンがなかったからか)ので、かなりストロングスタイルなんですよね。スタンディングでほぼソールドアウトだから踊れるわけでもないし、ただ突っ立ってじっくり見るには集中力の維持がかなり辛い。どうもメンバーにファンがいて(ドラマー?)そのオファーだったようですが、もうちょっと音響とか観客の状態とかも考えて組んでほしかった。ミスマッチだったと思います。最後、延々と低音を流すパートがあって「さまざまな音の快楽性の追求」という意味ではクライマックスだったんだろうけれど、そのあと左スピーカーにいた人が一人倒れて係員が呼ばれていましたし。2系統しかないスピーカーで全体にいきわたらせるには音量が大きくなるし、超低音が直撃したら人によっては酔いますね。硬派なスタイルで音の快楽を追及しているストイックなアーティストだと思いましたが、今回はいろいろ環境等のかみ合わせが残念。野外フェスの小さめのステージで夜に聞いたら幻想的だったと思うんですけど。

7時半にサポートアクト終演、30分経って20時にビッグシーフのライブがスタート。

ステージ全員の動きがキャラが立っていて面白い。メンバーは4人。

エイドリアン・レンカー(Adrianne Lenker) - ボーカル、ギター
バック・ミーク(Buck Meek) - ギター、バッキングボーカル
マックス・オレアルチック(Max Oleartchik) - ベース
ジェームズ・クリヴチェニア(James Krivchenia) - ドラムス

それぞれ動きに癖があります。

レンカー:マッチョな女子、意外と動きがパンク
ミーク:シューゲイズ、ちょっとナヨナヨしていてナード的
オレアルチック:ちょっとディスコな感じ、いかにもUSのカントリー(田舎)にいそうな朴訥感
クリヴチェニア:爬虫類的ジャズドラマー、蛇が舌を出すみたいな動きでドラムをたたく

この動きのバリエーションが絡み合ってステージが面白い。レッチリみたいな「違う個性が集まった感じ」があります。

レンカーは紅一点の女性ボーカルながらタンクトップで筋肉質。エイリアンの頃のシガニーウィーバーみたい。もともと空手のチャンピオンだったりマーシャルアーツやっていたりと武闘派の様子です。あと、バイセクシャルを公言しています。アーティストビジュアルを見ているとデビュー当時は女性的だったのに年々ルックスが男性化している気がします。

最初のころはけっこうハーモニーがキレイなフォークロック、USロックという趣。The Bandとかもちょっと思い出しました。ボーカルがそこまで強い(前面に出てくる)わけではなく、全体のハーモニーやグルーヴで酔わせるタイプ。

これは心地よいなぁ、と思っていたら機材トラブルが発生、レンカーのギターが音がでなくなります。音が出てもノイズ交じり。曲の途中でそうなってしまったのでなんとかその曲はレンカーのギターなしで乗り切り、ギターテックがステージに来ます。いろいろいじる間「少しまってねー」とハミング。とっさの対応力を見せます。

ところがこのトラブルが思ったより長引く。解決したかと思っても解決しないんですよね。どうもエフェクターが一つダメになり、ギターも1本ダメになった様子。日本は欧米と電圧が違うからそのせいでしょうか。

ここから数曲、かなり厳しい状態が続きます。このアクシデントでよりはっきりわかったんですが、ビッグシーフの核ってレンカーの弾き語りとドラムなんですよね。曲の骨格となるギターはほとんどレンカーが弾いている。ソロもほとんどレンカーです。もう一人のギターであるミークはアンビエントというか、空間エフェクトみたいな音が多い。

もともと、ビッグシーフはレンカーとミークのギターデュオとしてスタートしています。レンカーの弾き語りに対してミークが即興でソロを入れていく、といったスタイルだったのでしょう。そのスタイルが残っている。なので、レンカーのギターがトラブルが起きると曲の骨格がかなり崩れてしまう。レンカーの穴をミークが弾けばいいじゃんと思ったのですが、たぶん弾けないのでしょう。レンカーのギターはかなり癖があり、リズムギターといいながらアルペジオを駆使したソロやリフのようなもので、ギタリスト2人の役割が完全に分かれている。なので、レンカーのギターの音量が小さかったり、エフェクトが効かないと曲のパーツの大半が欠けるんですよね。それに引っ張られてバンド全体が動きがきしみ始める。ドラムはタイトにリズムを刻んでいましたがベースも入りのタイミングが分からなくなるし、ミークは基本的にレンカーのギターに合わせて即興で弾いているようでほとんど弾けなくなる。

また、これに拍車をかけたのがチューニング。ビッグシーフの音の響きは独特ですが、これって曲ごとにギターのチューニングを変えているっぽいんですよね。で、レンカーのギターは2本あり、本来はそういう曲の時はスタッフがチューニングして持ってくるはずが、ギターが1本使えなくなりステージ上でチューニングしなければならなくなった。かつ、チューナーはダメになったエフェクターについていたようで、チューニングも耳で行わないといけなくなった。これはかなりのプレッシャーです。ベースに音を出してもらって音を合わせていましたが、ステージ上の大音量でベースの音にギターを合わせるというのはかなり難易度が高い。しかもチューニングも変則的だから音を探りながらチューニングしていく。

機材トラブルから始まったこんな時間が20分は続いたと思います。レンカーはかなりのプレッシャーがあったのでしょう。途中涙ぐんでいるように見えました。けっこう会場の空気も弛緩気味。この日の観客は暖かい雰囲気だったので拍手したり歓声を上げたりしながら待っていましたが延々とチューニングされたり、音が途切れたりするとどうしても間延びしてしまいます。ステージ上もレンカーの緊張が移ったのか、グルーヴがちょっとずれたように感じる。バンドとしての集中力が下がっていく。

そんな時間が過ぎ、すこしづつレンカーのギターの音が出始めます。たぶん、「使えないエフェクター」を切り離して、「今出せる音」だけでやり始めたのでしょう。おそらく普段と少し違うであろうディストーションの効いたギターソロがいきなり出てきて会場が湧きます。

そしてもう1本のギターがようやく戻ってくる。多少調子は悪そう(ノイズが出たり)だけれどギターの音が出るようになる。ここからもう一度会場の空気を取り戻しにかかります。これが凄かった。

それまでのフォーク的な世界観をぶっ飛ばして、めちゃくちゃパンキッシュというか、まるでピクシーズかニルヴァーナみたいな歌い方になります。

絶叫して吹っ切れたのか、涙を捨て去るようにしてステージアクションが激しくなる。ほかのメンバーの動きも出てきます。蘇生。

そしてグランジ色が強いこの曲へ。レンカーがかなりハードロックな弾き方をして驚きます。ライトハンドでソロを弾きまくる。もともとハードロックな人なの?

ああ、ビッグシーフというバンドは70年代的なザ・バンドやボブディランを通過し、そのあとのグランジオルタナ(ニルヴァーナやピクシーズ)を通過して今を生きるUSのバンドなのだなぁと感じました。底のテンションからいっきに会場のボルテージを上げていった力量はすごい。

そしてまたアコースティック色の強いセットに戻り、アンコールまで駆け抜ける。体験に関して、人は「最高点」と「終わり」が一番印象に残るらしいんですよね。今回のライブで言えば、途中テンションが低いところもあったけれど、そのあと一気にテンションが上がった最高点と、終盤取り返した部分が記憶に残る。ライブ評もTwitterを見る限り「すごかった」という評判が多いようです。僕も「これはあとあと語り継がれるライブかもなぁ」と思いながら見ていました。あそこまでのトラブルってなかなかないだろうし、バンドとってもかなり楽しみにしていた来日公演(彼らの活動規模からすると、海外で数千人規模の単独ライブってすごく気合を入れた一大イベントだったと思います)で、アーティストとしては痛恨のミス(機材ミスの連発)は記憶に残る可能性が高い。あとあとインタビューとかで「肝が冷えた思い出」とかでネタになりそうな一日です。ライブ終盤、レンカーが「今日は本当にすばらしいオーディエンス、ありがとう」とMCで言っていた通り、観客の暖かい態度とライブバンドとしての地力がライブを後半盛り返した。そんなドラマを感じた1日でした。こういうアクシデントがあるライブというのがインディーズロックの醍醐味かもしれませんね。

でもミークって不思議なギタリストですね。そんなにテクニックがないというか、見ているとけっこう指が泳ぐ。基本的に即興主体なのかな。その場で音を探していく、グレイトフルデッドみたいなタイプなんだろうか。全員バークリー卒だから一定以上の演奏技術はあるのでしょうが、なかなか独特なスタイルのギタリストです。ただ、音色は特色があるんですよね。曲の最初の方は何も弾いていないことも多いし、弾くとしても効果音みたいなフレーズが多いのだけれど、彼がいないとサウンド全体が寂しくなる。ピンクフロイドにおけるリックライトみたいな立ち位置なのでしょう。バンドは人間の集まりだから、人間関係が垣間見えるのも面白い。度重なるトラブルでレンカーがややパニック気味の時、ベースが心配そうにしていたのが印象的でした。逆にギターは淡々と一定の距離感。「元夫婦」の距離感ってどんななんだろうな。

外に出たらイルミネーションがキレイ。いろいろな感情が動いたいいライブでした。音楽を通じてバンドメンバーと、また、自分自身とも対話をした気がします。また見たいバンド。

それでは良いミュージックライフを。

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