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新しい音楽頒布会 Vol.3 Stratovarius/Survive

アントニオ猪木選手が逝去されました。ご冥福をお祈りします。死の直前まで闘病し、メッセージを送る姿には感動を覚えます。こうした「死に向かう覚悟」でいつも思い出すのがレミーキルミスター。2015年12月28日に72歳で逝去しますが、死の約2週間前、12月11日までライブを行っていました。11月20日、21日のライブはビデオシューティングもされていて、最後の勇姿を見ることができます。2015年の6月ごろのライブを観るとまだそれなりに元気なのが、そこから半年でひどく痩せて声もでなくなっている。だけれど、最後までライブステージに立ち続けた姿は「死ぬまで生きるということ」とか「老いるということ」について一つの指標を与えてくれます。そうしたロールモデルを心の中に持つことは大切なことだと思っています。

さて、今週の新譜は北欧メタル界の大物、Stratovariusの新譜が素晴らしい出来でした。どうぞ。

今週の目玉:Stratovarius/Survive

1980年代初頭から活動する北欧メタルのベテラン、ストラトヴァリウスの7年ぶりのニューアルバム。オリジナルメンバーは誰も残っておらず、デビュー時から2000年代までバンドを牽引したティモ・トルキも脱退。同じバンドでありながらほぼ中身が入れ替わったバンドです。こういうバンドってけっこう北欧にはいますね。初期のメインソングライターが抜けたインフレイムスとかバトルビーストとか。中小企業の事業承継に近い気もしますが、北欧はけっこううまくいっているバンドが多い印象。北欧以外だとメインメンバーが脱退したバンドの継承って失敗例が多い気がするんですが、何か北欧メタルシーンには特色があるのかもしれません。バンドメンバーの入れ替わりも激しいし、掛け持ちも多い。シーンが小さい分、密度や情報交換のネットワークが濃いのでしょうか。

ティモトルキ脱退後、現在のストラトヴァリウスは小ティモことティモ・コティペルトとキーボードのイェンス・ヨハンソンが中心メンバー。イェンスはイングウェイのバンドにも参加していたことで有名ですね。北欧メタルを代表するキーボーディストの一人。小ティモは1969年生まれ、イェンスは1963年生まれです。ティモトルキは1966年生まれでした。1980年代デビューのバンドなので、中心メンバーは1960年代生まれですね。

ただ、それ以外のメンバーは大幅に若返っており、ギターのマティアス・クピアイネンは1983年生まれ、ベースのラウリ・ポラーは1977年生まれ、ドラムのロルフ・ピルヴは1987年生まれです。年齢的には30代から50代まで幅広いメンバー。本作の魅力は「さまざまな年代の感性が混ざり合っているところ」にある気がします。

たとえばこの曲とか、けっこうドラムパターンはモダンなんですよね。ギターリフも勢いがある。Beast In Blackなど新世代北欧メタル群に通じる畳みかけるようなギターリフとベースの絡み合いに、けっこう手数が多くてエクストリームメタル色もあるドラム。こういうメロディックパワーメタルのドラムってけっこう一本調子(サビはツーバス、みたいな)になりがちなんですが、本作はそういうお約束的なパターンはしっかり盛り込みつつもリズムやフィルインのパターンが多彩で聞き飽きません。リズム隊、ギターリフのせめぎあいの感覚がモダンなのが本作の最大の魅力だと思います。

その上にのるメロディセンスは伝統芸というか、さすがの作曲能力。前作から7年の時を重ねたからかあまりハイトーンを多用せず、歌メロの幅も広がっています。一聴しただけでは「ああ、北欧パワーメタルか」という感じですが、何度も何度も聴けるんですよね。聞き飽きない。時間をかけただけあって、どの曲もそれぞれの経験と感性がたっぷり練りこまれています。

この曲なんかも、オープニングのパターンだけならメロデス的というか、プログよりのパターン。そこからメロディアスな北欧パワーメタルが展開していきます。2012年に現在のメンバーになってから本作が3枚目のアルバム。メンバー間のコミュニケーションも良好なのでしょう。流れるようなメロディと曲構成ながら、演奏がかなり凝っています。単に音数を入れまくるわけではなく緩急もしっかりある。一聴して耳に残る歌メロもあります。

あと、今回はアルバム全体を通して中だるみがほとんどありません。さらっと流して聞いていると似たようなテンションが続くように感じるぐらいですが、きちんと聞くとテンションが下がるところがないことに気が付きます。「王道」を進化させた驚くべき内容。プロダクションもいいんですよね。ギターリフの音もザクザクしながら不自然ではないし、キーボードソロも手数が多いけれど自然に溶け込みながらも音の粒が立っている。ほかの楽器もそうです。「メロディックパワーメタルのプロダクションのお手本」となりうる良音質のアルバム。個人的には北欧メタルの新星と思っていたBeast In Blackが新譜でちょっとディスコ寄りに行き過ぎてしまって物足りなさを感じていた空洞を本作が埋めてくれました。

でも、こういう「ベテランバンドに若手が入って生まれ変わる」みたいな例はほかにもいくつかありますね。U.D.O.とか(ドイツの)Rageとかも新しい血で生まれ変わった印象。メタルが伝承されていく一つの形なのかもしれません。


おススメ1:An Abstract Illusion/Woe

スウェーデンのメロディックデスメタルバンド、アンアブストラクトイリュージョンの2作目。1990年代生まれの3人(ベース・ギター、キーボード、ボーカル)組です。ドラマーはサポート。1990年代後半のメロデスと2022年の感性を混ぜ合わせたような音像です。The Halo Effectの結成やAt The Gatesの過去作再現ツアーなど90年代後半のメロデスの再評価の波が来ている気がしますが、その流れをさらに発展させる新世代からの新風。90年代後半のメロデス、当時のAmorphisやDark Tranquillity、In Flamesの薫りがします。7章に分かれているものの1曲60分、という壮大な叙事詩。このあたりの壮大さはブラックメタルの深遠な世界観も取り入れていますね。このアルバムの魅力はめちゃくちゃわかりやすいメロディがけっこう出てくるところ。クサメロというか、わかりやすくメロディアス。クリーントーンのギターソロも効いているし、各場面のメリハリがしっかりしている。かといって全体の世界観は統一されているので60分のドラマに飽きずに身をゆだねることができます。この辺りは00年代、10年代の進化を感じます。ちょっとプロダクションが薄目なのが珠に傷ですが、これからもっともっと大化けして欲しいバンド。90年代後半のメロデス名盤群を愛聴していた方はぜひ聞いてみてください。さまざまなメタルメディア、ファンコミュニティでも評価が高い1枚(たとえばMetal Stormではいきなり1位)。


おススメ2:Alex G/God Save The Animals

US、フィラデルフィアの宅録系SSW、アレックスGのニューアルバム。アコースティックなサウンドも取り入れ、全体としてはアットホームな感じもありつつエレクトリックで実験的な音も入ってきます。辛気臭さがなく、けっこう娯楽性が高い。メロディもいいし、聞いていて楽しいけれどしっかり熱量もあるアルバム。何か伝わってくるものがあります。「普遍的な存在(神、と呼んでいるが特定の宗教ではないそう)」について触れており、真摯さを感じる音楽。宅録がベースにありながら、各曲には多彩なゲストが参加し作りこまれています。AllmusicやPitchfolkなどで軒並み高評価で、その理由が聞くと分る1枚。派手さはないけれどリピートしたくなる心地よさ。


おススメ3:聖飢魔Ⅱ/BLOODIEST

聖飢魔Ⅱ、世界征服(1999年)以来のニューアルバム。23年ぶり、ですね。プロデビュー後に作曲したことのある過去のメンバーすべてが作曲に参加し、オールスターズ再結集という趣。まったく聖飢魔Ⅱを知らない人にどこまで届くか分かりませんが、古くからのファンには確実に刺さる内容だと思います。僕はあまり聖飢魔Ⅱは聞いてこなかったのですが、日本のバンドサウンドとメタルの融合がなされたこのバンドならではの音像。作曲者それぞれの色が出ている楽曲群なので、古くからのファンには「○○曲はやっぱりこれだな!」的な楽しみができるでしょう。それが統一感のなさや曲のクオリティの出来不出来(各員で作曲スタイルがかなり違うので好き嫌いがかなり人によって違いそう)と感じるか、豪華と感じるかで評価が分かれる1枚。下記の曲なんかはジャパニーズメタル/ハードロックサウンドの真髄だと思います。


以上、今週のおススメ盤でした。それでは良いミュージックライフを。


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