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Dream Theater / A View from the Top of the World

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ドリームシアター、1985年にUSで結成されたプログメタルバンドで、プログレッシブメタルというジャンルを開拓したバンドの一つです。2年ぶり、15枚目のアルバム。2020年10月から2021年3月の間に録音され、20分を超える大曲で終わる7曲、70分のアルバム。「鑑賞する音楽」としてメタル音楽を再定義した偉大なバンドと言えるでしょう。コンスタントに良作かつ大作を発表し続けており、これだけベテランになっても創作意欲や音楽的冒険心が衰えていないのは素晴らしいことです。メンバーはもともとジャズも学んでいる(バークリー卒業生が主体となって結成された)ので、セッションしながら曲を作っていく、多作な感覚があるのかもしれません。

活動国:US
ジャンル:プログレッシブメタル
活動年:1985ー現在(1985-1988はマジェスティ名義)
リリース:2021/10/22
メンバー:
 ジョン・ペトルーシ – ギター(1985年–現在)
 ジョン・マイアング – ベース(1985–現在)
 ジェイムズ・ラブリエ – リードボーカル(1991年–現在)
 ジョーダン・ルーデス – キーボード(1999年–現在)
 マイク・マンジーニ – ドラム(2010年–現在)

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総合評価 ★★★★☆

「ドリームシアターの新譜」に求められる要素がしっかり具現化されている。個人的にはRushっぽい5と、歌メロや全体的な演奏のせめぎあいが魅力的な2がハイライト。なんというか、全体的にメタリックな重低音、音圧よりもっとハードロックやシンフォ系プログレの音作りに近づいている気がする。もともとそこまでゴリゴリのメタル、デスメタル的な音像を持ったバンドではなかったし、ハードロックを取り入れたフュージョン的な音作りが本質だったといえばそうなのだが、ドラムがマイクマンジーニになってからサウンドの傾向がハードロック的により変わっていった気もする。とはいえだいぶ昔の印象なので、経年でどう変化したか、各アルバムを聞き比べてみるかな。こうして良質な新譜が出ると、長いキャリアを振り返ってみようかという好奇心が湧く。ドリームシアターファンの期待に応える良作であり、トップランナーの矜持を見せたスリリングかつテクニカルな作品。このレベルに達せるバンドは数少ない。

1. The Alien (9:32) ★★★★

リードトラックにもなっていた曲。最初からマイクマンジーニのドラムが歌うように打ち鳴らされる。スリリングな演奏の掛け合いだが、ドラムソロ波に手数が多い。軽やかでタイトなドラムサウンド。ギターとキーボード、ベースが掘り下げる、探求するようなリフを奏でる。もはやお家芸というか、自らの確立したサウンドスタイルを掘り下げているが、マイクマンジーニにドラムが変わってからどこか抜けが良くなったというか、肩の力が抜けた感覚はある。演奏のスリリングさは変わっていないのでドラムサウンドの違いや、全体的な音響の違いだろうな。そこまでヘヴィネスやアグレッションを追求せず、リズムアクセントとしてのザクザク感に変わった。十分にメタリックではあるのだが、メタルよりプログレの方に比重が傾いた、というか。フュージョン的になったとも言える。本作もその路線が継続され、少し風通しが良く聞きやすいサウンドながらスリリングさ、テクニカルな応酬はむしろ高度化している。マイクマンジーニのプレイはニールパート的な、歌うドラム感がある。演奏はスリリングだが、歌メロはあまり印象に残らないな。冗長な歌メロというわけではないので緊張感を削ぐわけではないが、楽器隊の方が主役感がある。

2. Answering The Call (7:35) ★★★★☆

緊迫感が強めのリフ、けっこうスラッシーというかメガデスのような構築されたザクザクしたリフ。音響は中音域が強い、低音がそこまで強調されていないが、これは曲構造としてはヘヴィ。じわじわとコードが展開していく。歌メロが1曲目より耳に残る。歌メロと楽器隊のリフやメロディの絡み合い、変拍子を使っての盛り上げ方、全体的なドラマ性が高い。

3. Invisible Monster (6:31) ★★★★

ミドルテンポで連打感のあるビート。少し浮遊感のある歌メロが入ってくる。じっくりと展開していく。ポップなボーカルラインを主軸に曲が展開していく。クラシカルなソロが入る。ただ、比較的シンプルな構成。変拍子はそこまで入ってこないし、曲構造そのものはシンプル(コード進行やインタープレイは凝っているが)。

4. Sleeping Giant (10:05) ★★★★☆

左右から近づいてくるようなリフ。いかにもプログレなスタート。ムーグ的な、ややレトロなシンセ音が盛り上げる。変拍子で切り替わり感が多い曲。どことなくファンタジックな感じ、近未来的なSFとファンタジックな感じが入り混じる、映像的なサウンド。近未来のイメージはジャケットによるものも大きいかもしれない。歌メロもよく、プレイも適度な緊迫感を持って長尺曲らしくじわじわと展開していく。心地よいプログレ。シンフォ感も強い。ヘヴィネスより物語性、ファンタジックさ、ちょっとしたレトロ感がある。ただ、テンポは速く手数が多い、演奏の緊迫感が音に芯と強さを与えている。音色そのものは迫力重視ではない、聞きやすい音(音が薄いわけではない)になっているが、演奏力と演奏の熱量で迫力を出している。でも、最近のチャートに上がるUSメタルってこういう音作りかもな。Avenged Sevenfoldとか。メタルというよりハードロック的な音作りというべきかもしれない。

5. Transcending Time (6:25) ★★★★★

さわやかな、メロハー的なイントロ。ただ、ドラムの手数と複雑さが個性を主張している。この曲は80年代のRush感が強いな。Rushが終わってしまった今、その穴をドリームシアターが埋めてくれるのは嬉しい。ギターがアレックスライフソン(Rushのギタリスト)っぽいんだよな。全体的にRushオマージュ感。Rushは大好きなので感激。Rushのパロディというわけではなく、きちんとドリームシアターらしさもあるから(もともとRushの影響ははっきり公言している)、その融合感が胸を打つ。後半はRush色が薄まりシンフォプログレ感が増す。キーボードが前面に出てくるとRush感は減衰するよね、キーボードいないから。

6. Awaken The Master (9:47) ★★★★☆

いきなりゴリゴリしたギター。ギターアンプから風が出ている感じがする。風圧を感じる音色。ザクザクと低音をえぐっていく。そういえば7弦ギター使っていたんだっけな。6弦では出ない低さな感じがする。かなり長いイントロを経てボーカルが入ってきた。だいぶ耕した後でボーカルが入ってきた感じ。ボーカルパートはちょっとサイケでスペーシーな感じも受ける。そういえば1曲目も「Alien」だし、宇宙がテーマなのだろうか。Alienは「異邦人」だから、いわゆるエイリアン(異星人)という意味ではないのかもしれないけれど。Stingがイングリッシュマンインニューヨークで「I’m A Alien」と歌っているし。異邦人、外国人。話がそれたが、この曲はどこか宇宙的、SF的な手法として確立された音作りがな使われている。一定のリズムでの反復による酩酊感とか。

7. A View From The Top Of The World (20:24) ★★★★☆

いよいよ最後の大曲。SEから、じわじわとマーチング、軍隊の進軍のようなリズムと、勇壮なオーケストラが入ってくる。MetallicaのONE的な感じも少し受けるオープニング。雰囲気が変わり、ファンタジックで魔法のような、あるいは何かが割れるような優雅なキーボードが舞う。かなりドラマティック。流れるままにドラマが続いていく。途中で高速キーボードソロが出てきて、そこから静かなパートに変わる。アルペジオとオーケストラ、映画の中で場面が切り替わる、追憶なのか新たな出会いなのか、シーンが変わったことが分かる。全体として映画的、音だけなのに視覚的なドラマティックさがある。映画音楽的な表現を使っているので、連想するのだろう。しばらく静かなパートが続き、メタリックなパートに切り替わる。じっくりしたドラマだが、各パートが互いにせめぎあい、重なり合う、メトロポリスほどの緊張感はない。いい曲ではあるがドリームシアター史上屈指の名曲とまではいかないな。

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