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67.北欧メタルを掘り下げる④:フィンランド編 = Beast In Black

北欧メタルとはフィンランド、スウェーデン、ノルウェー、デンマーク、アイスランド出身のメタルバンドの総称です。特に現在「北欧メタル」として盛り上がっているのがフィンランド、スウェーデン、ノルウェーの3国。この3国のメタルシーンを各国の推しバンドと共に紹介し、聴き比べていきます。以前の記事はこちら。

第一回:ノルウェー編
第二回:スウェーデン前編
第三回:スウェーデン後編

さて、このシリーズもいよいよ最終回、今回はフィンランド編です。第一回も書きましたが、企画開始前の時点ではフィンランドが個人的には一番思い入れがあったんですよね。一番好きなバンドが多かったというか。さて、この企画を通じて各国のバンドを聞いてきて企画後はどんな印象になるでしょうか。まずはプレイリストをどうぞ(こちらをバックグラウンドで流しながら読んでいただければ各バンドの音と情報が一緒に手に入ります)。

それでは本編です。

一組目、何度も取り上げていますがBeast In Black(BIB)。昨年のベストアルバムは彼らの2nd「From Hell With Love」を選びました。今、メタル入門として何か1枚人に勧めるとしたらこのアルバムにします。個人的にメタルに求める要素がすべてバランスよく入っているバンド。こちらは1stアルバム「Berserker(2017)」からのナンバー、哀愁かつ勇壮かつポップなメロディで胸に来ます。アグレッション、メロディ、パフォーマンス、プロダクション、どれをとってもバランスがいいんですよね。昨年のベストアルバム評にも書きましたが、個人的にはHelloweenの守護神伝二章(初めて聞いたのは30年近く前)以来の衝撃。私にとってフィンランドメタルといえばBIB! というわけで一組目はこのバンドからスタートです。

二組目はライバルというか因縁というか、Battle Beast。BIBの中心人物であるGtのアントン・カバネンはもともとこのBattle Beastのメンバーでメインソングライターでした。ただ、バンドと袂を分かち、BIBを結成。Battle Beastの方も引き続き活動を続けています。本国では人気が高いバンドでナショナルチャートの1位を獲っています。2008年結成、2011年デビュー、現在の女性ボーカルは2代目のノーラ・ロウヒモ (Noora Louhimo)でいろいろなところにゲスト参加しています(Amarantheの新作にもゲスト参加していました)。BIB直系というか、もともと同根のバンドです。アントン脱退後はちょっとポップ色が強まっていますが、メロディの魅力は健在です。

続いては北欧メロデスにクサい泣きメロを大々的に、これでもかというほど導入したパイオニア、Amorphis(アモルフィス)。まぁ、泣きメロというかフォークメタル的な手法だったと思うんですが。94年の「Tales From the Thousand Lakes」は衝撃でした。北欧民族メロディとデスメタルの融合を高次に成し遂げた名盤。90年代半ばに相互に呼応するように世界中でフォークメタルの進化が進んだ気がします。70年代、ブルースの影響下にあったHRが、今度はそれをルーツとする世代によって新たな要素を取り入れた時期だったのかもしれません。こちらはAmorphisの2018の「Queen of Time」からのナンバー、スウェーデンのメロデス勢(In FlamesやDark Tranquility)と同様に音楽性は拡張していますが、基本的なデスボイス、アグレッションや民族的メロディの特長は失っていません。程よいバランスというか、頑固さがあって孤高のカリスマ性を保っています。

Mokomaはあまり日本では知られていないバンドでしょう、フィンランド語(スオミ語)で歌っているからで国際的には活躍していませんが、本国では人気の高いバンドです。1999年のデビュー以降ほとんどのアルバムがナショナルチャートで1位を獲得。ラウドパークで来日もしています。フィンランドは母国語で活動するバンドが一定数いるんですよね。最近メタラー界隈ではヒットした映画「ヘヴィ・トリップ」のサントラに使われたのでまた知名度が上がったかもしれません(私はそれで知りました)。さすがメタル大国フィンランドでトップの座をキープしているだけあってレベルが高くカリスマ性のあるメタルバンドです。

BARREN EARTH(バレン・アース)は2007年結成、2009年デビューのプログレッシブ・デスメタルバンドです。メンバーは他のバンドをさまざまに掛け持ちしており、AmorphisのメンバーやWaltariのメンバー、あとはドイツのKreatorのメンバーもいます。ある種のスーパーバンドですね。ベテラン勢らしくこなれた曲作りで適度な抒情性とアグレッションがあり、高いミュージシャンシップを感じる隠れた名バンド。こちらは2018年作「A Complex of Cages」からのナンバー。

先日新譜「Thalassic(2020)」をアルバムレビューしたEnsiferum(エンシフェルム)。そのアルバムからのナンバー。コロナ禍で作られたと思しき在宅ビデオですが楽し気ですね。メイクしてないとこんなお顔なのね(普段はコープスメイク)。グロールとハイトーンボーカルを擁し、ハイトーンがやけに本格的なのでメロデスというかだみ声バイキング/フォークメタルにメロスピが融合した(曲の中でそれが切り替わる)という独自の音楽性を発明しました。ハイトーンパートがHelloweenみたいにも聞こえるんですよね、この曲も1番と2番で落差が凄いです。面白い感覚。バイキングメタルお約束の酒ネタの曲ですね。「酒(ラム)! 女! 勝利!」とはなかなか素晴らしいですね。これをコロナ禍に在宅で撮影しているのも、とても良い。

北欧フォークメタルと言えばこの方々、KORPIKLAANI(コルピクラーニ)、フィンランド語(スオミ語)ながら世界的な知名度を得ています。1993年結成、1997年デビュー(デビュー当時はシャーマンという名前)。前述したAmorphisからアグレッションを差し引き、民俗音楽色を強めたような音楽性です。「コルピの酒盛り」とか「北欧コルピひとり旅」とか、なかなかいかした邦題をつけられるバンド。70年代、80年代のノリですね。まぁ、スオミ語のタイトルなので邦題つけないと読めないし曲のイメージもつかめないですからいい戦略だと思います。こちらは来年(なのかな)リリース予定の新作からのナンバー。アグレッションがさらに後退して伝統音楽色が強まっている、、、のかな。まぁ、アルバムを聴いてみないとわかりません。前にFaunやSkaldを取り上げたように、北欧民族音楽も好きなので個人的には好きなんですけどね、このバンドの特色を保つために一定のアグレッションは維持してほしいところ。

フォークメタルを続けます。続いてはFINTROLL、こちらはアルバムレビューもした「vredesvävd(2020)」からのナンバー。スウェーデン語で歌っている、、、はずです。この曲はタイトルが英語ですが、基本的にすべてスウェーデン語。フィンランドのバンドですが歌詞はスウェーデン語(そっちの方が話者が多いから、だそう)です。勢いがあって素晴らしいアルバムでした。こちらはフィンランドのフォークメタルの中ではアグレッション強めですね。

フィンランドの伝説、ハノイロックスのマイケル・モンロー。まだまだ現役です。時代ごとにいろいろな人と組んで新しいエッセンスを取り入れつつ(一時期ワイルドハーツのジンジャーもマイケルモンローのバンドに参加していました)、基本的にはバッドボーイロックンロールをやっています。LAメタル、モトリークルーより前にこういう音楽をスタートしているんですよね。ほぼ同時期というか。ハノイロックスのドラマーだったラズルがモトリーのヴィンス・ニールの交通事故によって亡くなってしまい解散、この辺りはモトリーの自伝映画「The Dirt」にも描かれています。その後ソロでスティーブ・スティーブンスと組むも、そちらもヴィンス・ニールのソロデビューにあたって引き抜かれてしまう、、、という因縁の関係。伝説のシンガーだけあってさすがの存在感です。

マイケル・モンローを取り上げたならこの方も取り上げなければ。アンディ・マッコイ。ハノイロックスのギタリストにしてソングライターです。ハノイロックスも時々再始動したりしていましたが、今はそれぞれソロで活動中。この人の書くメロディは哀愁があっていいんですよ。ちょっとジプシー的というか。北欧の美しさ、もの悲しさはあるのだけれどそこにジプシー音楽の色が少し加わるのが特長。ギタリストなのでボーカルとしては音域は狭めですが哀愁のある声。キースリチャーズやマーシー(ブルーハーツ)のソロ作を個人的には連想します。

女声ボーカルによるシンフォニックメタルバンド、Dark Sarah。元AMBERIAN DAWNのHeidi Parviainen(Vo)を中心にしたバンドです。2020年リリースの「GRIM」からのナンバー。良質なメロディですね。女声シンフォニックメタルの大御所Nightwishがフィンランド出身なので、フォロワーというか一大ジャンルとして女声ボーカルの(良質な)シンフォニックメタルバンドがフィンランドには多いのかな。この曲も良い曲です。なお、新ボーカルを迎えたAMBERIAN DAWNの方はちょっとポップ色が強くなりすぎているので今回のリストには含まず。主要メンバーが抜けて新バンドをやるとアグレッション強めになり、残ったバンドはポップ色が強まる、という傾向がどうもある様子。勝手に「お前らがポップになるなら俺(私)は一人でメタルを追求するんだ!」みたいな物語が浮かびます。そうはいってもフィンランド(および北欧)のメタルシーンは狭いコミュニティなので、いろいろなバンドメンバーがくっついたり離れたり、プロジェクトを一緒にやったりするのでまたそのうち合流するのかもしれませんが。

さて、メロディアスな曲が続いたので一曲アグレッション強めの曲を挟みましょう。ORANSSI PAZUZU(オランシ・パズズ)。2020年作「Mestarin kynsi」からのナンバー。クラウトロックというか、浮遊する反復フレーズとブラックメタル的なアグレッションが整然かつ混沌とした音像を生んでいます。ノルウェジアン・ブラックにも通じるカオティックでダークな世界観ですが、バッキングがけっこうクールでミニマルミュージック的な側面もあり、この組み合わせ方が面白い。というか何か奇妙な人懐こさがあります。突き放すような暗黒感より、奇妙ながらも人懐こいというのがフィンランドらしさかも。まぁ、この音楽になつかれて、居座られても困りますが。ムーミンもフィンランドですけれど、気が付くとミーちゃんが部屋に居座ってたりする(で。ムーミンが部屋を奪われて独り立ちしようとする)じゃないですか。気が付くと部屋に居座る音楽、、、かも。

ゴシックな世界へ。ゴシックなロックンロール、The 69 Eyes。ダンジグのような渋いボーカル。1989年結成、1992年デビューのベテランです。暗黒性はあまり感じませんが、ホラー(ドラキュラなど)もテーマにしています。2019年のアルバム「Westend」からのナンバー。ピアノの響きからじわじわと沈んだ世界観が展開されていきます。去り行くもの、滅びゆく者への鎮魂歌、といった趣ですがちょっと明るさというか温もりもある音像ですね。ギターソロはけっこうギターヒーロー然とした佇まい。色気があり雰囲気がカッコいいバンド。

こちらもアルバムレビューでも取り上げたLordi。2020年の「Killection」からのリードトラックで、Jean BeauvoirとKISSのPaul Stanleyによって書かれ、Michael Monroeがサックスで参加しています。なぜゲストボーカルじゃなくサックスなんだろう。まぁ、とにかく華やかな雰囲気が出ていますね。80年代のKISSっぽさも満開。コード進行はLordiらしさもあるので編曲はけっこう手を入れているのかな。この哀愁感あるコード進行がたまりません。ルックスは怪物なんですけどね。モンスター・ロックの元祖たるKISSにも認められたということでモンスター・ロック界での大御所感が増してきました。そういえば地獄の皇太子とか宇宙人とか、それぞれのメンバーにキャラクター設定があるのかな、たぶんあるんだろうな。

女声シンフォニックメタルのパイオニアにしてトップランナー、Nightwish。フィンランドメタル界で世界的に最も成功しているバンドでしょう。アルバムレビューもした2020年作の「Human. :||: Nature.」からのナンバー。「Noise」というタイトルながらノイズ感はなくシンフォニックで美しいメロディ。この曲はアグレッションも強めですね。2枚組の大作で2枚目はオーケストラ作品というけっこうとがった作品。オーケストラの方は微妙でしたがアルバムはさすがの出来でした。一聴してわかるポップさは後退しつつ曲構成の複雑さが増しています。個人的には好きな方向性。このバンド、メロディは美麗なもののちょっとクラシカルすぎて北欧感が弱いというか、北欧ポップス的な転調感が少ないんですよね。個人的には北欧ポップスmeetsメタルみたいな音像が好きなので、このバンド=フィンランドを代表するバンドではないのですが、時々すごく印象に残るキラーチューンを生み出すバンドです。やはりこうして流れの中で聴いてもクオリティが高くて耳を惹きますね。

アップテンポへ、カッコいい! こういう純然たるカッコよさを保ち続けているのがChildren Of Bodom(チルボド)。日本にもファンが多いですね。正統派パワーメタルとメロデスのいいところどりというか、多少のクリエイティブの浮き沈みはあるものの安定した良盤を生み出している印象です。2019年作「Hexed」からのナンバー。このアルバムリリース後、バンドが分裂してしまい今までの中心人物だったアレキシ・ライホ率いるBODOM AFTER MIDNIGHTとして来年再デビュー予定。残ったメンバーでチルボドの名前は引き継ぐようですが、こちらは活動予定はなし。まぁ、ジェフテイトが抜けた後のクィーンズライクが勢いを取り戻した例もありますから、これを機に両方とも良作を出してくれるようになると二倍楽しめる、、、んですけれど。

北欧パワーメタルを語ると必ず名前が挙がるSONATA ARCTICA(ソナタ・アークティカ)、1995年結成1999年デビューのベテランですね。こちらは2019年のアルバム「Talviyö」からのナンバー。さすがの安定したクオリティです。フィンランドのパワーメタル、メロディアスなメタルと言えばStratvarius(ストラトヴァリウス)とこのバンドが双璧を成しますが、ストラトヴァリウスは2015年以降新譜が出ていないので今回は割愛。

Wintersunは2003年結成、2004年デビュー。なかなか寡作なバンドで今までに出したアルバムは3枚のみ。こちらは2012年のアルバム「Time I」からのナンバーですが、2018年のスタジオライブの模様です。アグレッションが強いパートと美しく歌い上げるパートが出てくる大曲。1曲1曲が長いんですよね。スウェーデンのSoilworkやノルウェーのEnslavedにも近い音像ですが、Wintersunのほうが展開がゆったりしているというか、プログレ的、時間をかけてドラマを築いていく印象です。あと、そのあたりのレジェンドに比べると一世代若いのでやや感性がフレッシュ、北欧メロデス、北欧的フォークメタルが誕生、発展して確立されたのは90年代後半だと思いますが、そういた流れの後に結成されているので、そのあたりの組み合わせ方や融合方法が試行錯誤がなく確信的な印象。先人のレガシーを吸収してさらに先に進めている印象を受けます。さまざまなメロディが違和感なく収められていて質が高い。かなり好きなバンドです。

最後はSwallow The Sun。2019年作「When A Shadow Is Forced Into The Light」からのナンバー。幽玄な響きと音響、哀しみを感じさせる音世界です。リーダーにしてメインソングライターのパートナーが死別してしまい、そのレクイエムを挟んでのアルバム。かなり荒涼としているというか、ノルウェジアン・ブラック的な孤独感があります。もともとはもうちょっと人懐っこいフィンランド的なメロデスバンドだったようですが、このアルバムしか今のところ聞いていないのでそのうち過去盤も聴こうと思います。BIBがヘッドライナーを務めたSuomi Festで来日してライブを観て知りました。アルバムのアートワークなどのビジュアルも含めて独特の世界観や音世界を持っていてけっこう好きです。Tシャツ持ってるぐらいには好きなバンド。

以上、19バンド、19曲。分数にして1時間42分(YouTubeの場合、音楽が始まるまでの寸劇やナパームレコードのCMが入ったりするのでもう少し長い)。今までで一番長い内容でした。改めて聞いてみると、、、いやぁ、聴いていないバンドが実はほとんどなかったという。フィンランド好きなのでけっこうフィンランドのメタルバンドというだけで聴いているんですよね。ソナタ・アークティカとかは最近追いかけていなかったので「まだやってるんだ!」という驚きはありました。あと、チルボドはやっぱりカッコいいなと。きちんと聞き直そう。ORANSSI PAZUZUはけっこう衝撃でしたね。今回の企画前にアルバムを通して聴いていたんですが、なかなか他にない音像。あと、他の国に比べるとよりメロディアスだったかもしれません。

「北欧メタルを掘り下げる」企画全四回、やり終えてみて感じるのはやはりノルウェー、スウェーデン、フィンランドは(似ているところもあるけれど)違う、ということ。ノルウェーはノルウェジアンブラックに代表されるようにけっこう殺伐とした世界観がありますし、スウェーデンはグローバルな同時代性を感じる。世界で活躍しているバンドが多いからかもしれません。フィンランドはもう少し我が道を行くというか、自国語で歌うバンドがけっこう多いのも特徴。もちろん、グローバルな同時代性を意識したバンドとかもいるんですが、フィンランド国内のメタルシーンでのトレンドとかブームみたいなものがあって、そちらが優先されているが、結果としてそのまま世界に出て行っているバンドもいくつか出ている、という印象です。この辺りは面白いですね。まぁ、スウェーデンも「Swedish Extreme Metal」と分類されるほど特異性があるわけで、世界進出したバンドが多く、時代がやや早かったのでその分世界的な同時代性を感じさせるバンドが多いのかもしれません。フィンランドもしばらくしたらそうなっていくのかも。すでにNightwishとか女声ボーカルのメタルバンドはグローバルな同時代性を意識している感じがします。しかし同時に我が道を行く、特異というかアングラというかそういう空気感が残っている、「俺(私)はこれを好きでやってるんだ」感があるバンドも多いのが魅力。ヘヴィ・トリップという映画も名作でしたが、まさにああいう人たちがやってるんだろうなぁ、と。

あと、ノルウェーとスウェーデンも魅力を十分感じたので、北欧3国の中でどの国が好き、というのはなくなりました。最初に「個人的な嗜好度から言えばフィンランド>スウェーデン≧ノルウェーかな。」と書いたんですけれど、今はフィンランド=スウェーデン=ノルウェーですね。それぞれ違うし、特長がある。特にノルウェジアン・ブラックは魅力を再発見しました。魅力というか魔力というか、がありますね。

以上、北欧メタルを掘り下げる、でした。それでは良いミュージックライフを。

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