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Lordi / Killection

フィンランドの誇る怪物(メイクアップ)メタルバンド、Lordi。1992年結成で本作は2020年にリリースされた10作目。フィクションのコンピレーションアルバムという体裁をとっており、ラジオDJ的なMC、曲紹介が所々で入ります。コンピレーションアルバムというコンセプトどおり、多様な曲が入っており作曲能力の高さを感じさせます。フィンランド代表としてユーロビジョンソングコンテストに出たほど作曲能力は折り紙付きのバンドですからね。今作も卓越したソングライティング能力を堪能できる良作です。KISSのポールスタンレー(Like a Bee to the Honey)が1曲提供、80年代KISSの未発表曲だそうでまさにそんな感じのサウンドです(※今回紹介するのは別の曲)。スマホで聴きながら読みたい方はこちら(noteに戻ってくればYouTubeでバックグラウンド再生されます)。

2020年リリース

★ つまらない
★★ 可もなく不可もなく
★★★ 悪くない
★★★★ 好き
★★★★★ 年間ベスト候補

1.Radio SCG 10
架空のラジオ局、というコンセプトアルバム
ジングル的な、アルバムのトレイラー的な小曲
さまざまな曲が流れナレーションが入る
バックに様々なタイプの曲が流れるがこれ全部このアルバムに入っているのだろうか、だとしたらかなり振れ幅が大きい
★★

2.Horror for Hire
ミドルテンポの勢いのあるギターリフ、ぬけのいいギター音
歯切れ良いボーカル、KISS直伝のロックンロールメタル
シンガロングなコーラス、ハーモニーも厚め
ギターリフはアリーナロック的でノリノリだが、歌メロはよく練られている
ドライブに合うリズム、バイカーロックのテンポかも、ギターリフの刻みはエンジンの起動音にも聞こえる
間奏を経てコーラス、最後にキーボード音が残る
★★★★

3.Shake the Baby Silent
チープなサンプリングした女性の悲鳴から
インダストリアル的なリフ、ホワイトゾンビあたりを彷彿とさせるサウンドが入ってくる
低音でボーカルがヴァースをうめいた後、金切り声のブリッジ
シンガロングで振り下ろすようなコーラス、ホラーロック
リフは横ノリ、ロックンロールリズム
ヴァースは低音でちょっと読経的
サビはシンプルだがノリが良い
★★★☆

4.Like a Bee to the Honey
80年代的なキーボード音、煌びやかな音、ディスコサウンド的だが低音のヘヴィリフがゆっくり刻んでいる
音像としてはポップ
サビは北欧的、ABBA直伝の美しく転調感のあるメロディ
コーラス、ハーモニーが多重に重なり合い、ボーカルラインが巡る
ベタに良い曲、確かにラジオ局と言うコンセプトに沿っているのだろう
ラジオで流れてきそうな曲
ソロがサックス、アダルトな感じ、パロディではあるのだろうが単純に曲のクオリティも高い
ボーカルはダミ声なのでそこのいびつさは面白みがある、メロディの美しさはGhostにも近いか
もっとはかない音像、このアレンジをやりきるとは振れ幅は大きい
★★★★

5.Apollyon
ピアノの和音とブラス隊からのスタート、さわやかなブラスロックという趣
ギターも入ってくるがそれほど歪んでいない
だんだんと音階が下降していき、悲し気でホラーな雰囲気になる
と思ったらまた明るいコードに戻り、ボーカルが入ってくる
これもディスコサウンド的、ドラムは四つ打ちとタメ
不思議な曲、70年代後半~80年代ハードロックとディスコサウンドと00年代ショックロックが混ざったようなキメラ感
リフが何かを思い出すと思ったらASIAのヒートオブエモーションか
ああいう洗練されたハードロック感がちょっとある
間奏を経て展開、ヘヴィメタルの語法とポップス寄りのロック、エルトンジョンとかあのあたりの語法が混じっている
これは面白い、こんなバンドだったっけ
新機軸だとしたら発明
メロディセンスはもともと印象深いものがあったが、アレンジにここまで大胆にポップス的語法を取り入れるのは聴いていて面白い、次がどうなるのか読めずワクワクする
★★★★

6.Scg10 the Last Hour
ふたたびMCが入る、バックにさまざまなスタイルのハードロックが流れているがこれはアルバムに入っている曲ではないのかな
声やノリからして演奏しているのはLordiっぽいが
MCで寸劇、男声とかけあっていた女声がモンスターの声に変化していく
★★

7.Blow My Fuse
さらにレイドバック、70年代ハードロック的なリフ、T-Rexあたりのシンプルだが太いリフ
もっと古いか、60年代後半の黎明期のハードロックを思い出す、ジミヘンやクリーム
歌メロはそれなりにフックがある、60年代だったら衝撃、70年代でもヒットしていてもおかしくないポテンシャル
こうして考えるとロックの語法は進化してきたのだな
ジミヘンとかレニークラヴィッツとか、あのあたりのリズムアンドブルース感もある
★★★☆

8.I Dug a Hole in the Yard for You
少しヘヴィなリフと勢いのあるボーカル、急に現代のメタル
ヴァースはギターがメロディを奏で、ブリッジを経てシンガロングでフックの効いたコーラスへ
コーラスがかなりフックが効いていると思ったらさらに大サビがあった
こういう曲を作らせるとうまい、Lordiらしさといえばこういう曲をイメージする魅力的な曲
ひねくれ具合が濃い、やはりフィンランドのバンドはいいなぁ、本気だがギャグだか分からない瞬間がある
間奏を経て大サビへ
コント的な終わり方
★★★★☆

9.Zombimbo
いきなりのディスコサウンド、モニョモニョした音が出てくる
前曲の終わり方からこの曲か、思わず笑ってしまう、フィンランド的ユーモア
どうとらえたらいいのか分からないぐらいポップ、これもしかしたらカバーアルバムなのかな
どの曲もポップスとして妙に完成度が高い、普通にヒット曲集なんじゃなかろうか
ニューアルバムだと思って聞いているのだけれど
曲名はゾンビンボーだろうか、タイトル通りのつかみどころがないがコミカルな曲
Beast In Blackといい、メタルバンドがディスコサウンドを取り入れるのが今のフィンランドシーンのマナーなのか
ミラーボールが見える、ベースが特にノリノリで完全にディスコ
これをダミ声でやり切ってしまうところが本気だかギャグだか分からない
★★★★

10.Up to No Good
ドラムとコーラスからスタート、ありがちなシンガロング系の始まり方
モトリークルーのルックスザットキルっぽいギターリフが入る
メロディもLAメタル的、クワイエットライオットとかあの辺り
途中からメロディが展開し、北欧的な美しさが入る、オマージュで終わらず独自性を入れるところはさすがだ
そこから間奏へ、女声ハーモニーが入ってきてツインリード、この辺りはザ・北欧
ふたたびLAメタル的なコーラスへ、ドラムと声のみ、ベースが入ってくる、ベタなアレンジで笑いがこぼれる
テンションが上がりスクリーム、シャウトに、ノリノリ
★★★★☆

11.Scg10 Demonic Semitones
ふたたびラジオの語り、今度は若者が出てきて何か話している、会話中に事故があったようだ
リアルタイムで意味が分かるほど英語力がないのが悔やまれるが、ホラーでコミカルな小芝居をやっているようだ
そういえばRIOTにも架空のラジオ局のコンセプトアルバムがあったな
★★

12.Cutterfly
爽やかなキーボード音、コーラス、TNTとかの北欧メタル感かも
声はクリアなハイトーンボーカルではなくダミ声なのでそこの質感はだいぶ違うが
得も言われぬ哀愁がある、透明感あるメロディとコーラス
リフはキーボード主体、ヴァンヘイレンのキーボード音みたいな音
ブリッジからはピアノ音に変わる
コーラスはフィンランド的
こういうメロディはフィンランド的で同じ北欧でもスウェーデンやノルウェーとは何かが違うと思うのだが何が違うのだろう
ちょっとまだ分析しきれない
間奏へ、ちょっとギターオーケストレーションっぽいツインリードが入る
マイナーからメジャーへの切り替えがせわしなく入れ替わるのがフィンランド的だと感じているのかな、うーん、それはスウェーデンにもあるしな、頻度の問題だろうか
そう考えていたら終曲
★★★☆

13.Evil
急に邪悪なメタルリフ、ドゥームだがアップテンポ、悪魔的
ボーカルが映える、モンスターの面目躍如
コーラスはツーバスでシンガロング、リフが低音と高音が混じっていて良い感じ、ちょっと人間椅子的、ルーツが同じなだけだろうが
ヨーロピアンメタルの薫りが強い
コーラスはしっかりフックがある、歌えるメロディなのはこのバンドの特性
キングダイアモンド的歌唱法で突然金切り声が入ってくる
間奏、ヘヴィなリフでブルドーザーのように刻む、ブレイクが入る
リズムを切り刻んだ後は正統派でメロディアスなツインリード
こういう曲順の中に入ってくるとこの音像の特長が引き立つ
★★★★

14.Scream Demon
ねばっこいからみつくような爬虫類的な歌い方、アリスクーパー的と言うか
バックはハードロック、LAメタル的な80年代アリーナロック的な音像
コーラスはメロディが展開するが独特なコード進行、やはりメロディセンスがある
ヴァースに戻る、コード展開の巧みさからメロディの説得力が1回目のヴァースより増している
コーラス部分との対比でメロディがどんどん展開していく感じがする
サビのメロディは爽快感があるようなちょっと煮え切らないような不思議なメロディ
半音階で下がるところが効いている
間奏、ものすごく80年代的なドラム音、オケヒット音が入る
全体としてシュガーコーティングしたような、甘めで靄のかかった音像ながらちゃんと毒を感じる
★★★★

15.Scg10 I Am Here
またラジオのMC、後ろで軽快にリフがなっている
今度はメインの男性MCが一人で話している、スタッフっぽい笑い声が多少入る
リスナーにつなぐという構成なのかな、何か変なものにつながって「I Am Here」と呻かれる
変なのがラジオ局に来たということなのかな、無音
曲が流れたと思ったらドアが開く音がして悲鳴、MCがやられたらしい、お約束
★★★

全体評価
★★★★☆
架空のラジオ局、確かに幅広い曲がかかった
オールディーズやポップの語法が入っている曲が印象的、前に他のアルバムを聴いた時はこういう感じの曲はなかった気がする
新機軸だとして、それをラジオ局というコンセプトで体現したとしたら見事な戦略
ラジオのMC部分も適度な短さでしっかりオチもあって良い、あまり長いとSEとかは間延びするので
あと、曲間が短い、さまざまなタイプの曲が次々と出てきて楽しめた
作曲能力がやはり高い、いろいろなスタイルがあったがどれもしっかり元ネタが分かりつつ独自性、Lordi印のメロディが入っている
ダミ声とホラーテイストが一貫したエンタメ性とユーモア感を出しているのも素晴らしい
娯楽度の高い良作

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