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Genghis Tron / Dream Weapon

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ジンギス・トロンはUS、NYの4ピースのエクスペリメンタル(実験的な)ロックバンドです。2004年から活動を開始し、2006年、2008年にアルバムを出した後2010年に休止。2020年に再始動し、2021年に13年ぶりのニューアルバムをリリースしたのが本作です。エクストリームロックと電子音楽を組み合わせ、催眠的リズムと重層的なシンセサウンドを生み出した、とリリースノートにはあります。早速聞いてみましょう。批評家レビューが高く、AOTYのCritic Review平均で84

活動国:US
ジャンル:Progressive Metal、Math Rock
活動年:2004〜 2010年、2020年〜現在
リリース:2021年3月26日
メンバー:
 Michael Sochynsky – keyboards, programming (2004–2010, 2020–present)
 Hamilton Jordan – guitar (2004–2010, 2020–present)
 Tony Wolski – vocals (2020–present)
 Nick Yacyshyn – drums (2020–present)

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総合評価 ★★★★☆

SF的シンセサウンドのプログレッシブロック。「エクスペリメンタルメタル」や「プログレッシブメタル」とあるが、一部の曲(3とか)を除けばメタル感はほとんどない。あえて言えば初期Devin Townsendにも近いところがあるが、もっとアンビエント、テクノ、アシッドハウス感が強い。確かに前の作品を聞くとかなり激烈なメタルバンドだったようだが、本作はボーカルも一切叫ばないし、むしろドリームポップ的なささやき声でメタル色は皆無。メタル系のレーベル(リラプス)からリリースしているが、テクノ系、ハウス系から出してもいいぐらいの内容。まぁ、あくまで生ドラムではあるのでテクノは言い過ぎとして、プログレ系のインサイドアウトか。リラプスってブルータルデスとか、エクストリーム系の印象だが、このバンドはポストテクニカルデスメタルというか、激烈さの追求の果てに違う音像にたどり着いた感じ。とはいえ近作はメロデスから脱皮してポストメタル的になったアモルフィスもリラプスだし、最近はそういう潮流なのかも。長いキャリアの中で激烈性だけの追求でなく、拡散していくバンドだっているだろう。13年ぶりのアルバムは過去作とはまったく別のバンドと言える。メタルの激烈性を求めるリスナーにはほとんど刺さらないだろうが、SF的シンセサウンド、たとえばデスメタルの中にスペーシーな瞬間が出てくることがある(Blood IncantationとかIotunnとか)。その瞬間”だけ”をアルバムにした、といえば近いかもしれない。メタルに限らなければプログレロック、スペースロック、アシッドハウス、テクノ好きにはアピールするだろう。個人的にはSF的シンセサウンドもプログレも好きなので楽しめた。

1.Exit Perfect Mind 01:11 ★★★

スペーシーなシンセサウンドが多重に折り重なって響いてくる。ジャケットのイメージ通りの音像からスタート。水音、いや、鉄道、雑踏か。空間を感じさせるSE。イントロ。

2.Pyrocene 06:13 ★★★★☆

強いヒップホップ的、いや、トライバルなリズムが鳴る。サイケでスペーシーなボーカルが入ってくる。ドリームポップ的。メタル色はない。ギターが鳴り響く。渦を巻くギター音。霞がかっているがドラムだけが前面にくっきりと出てくる。アシッドハウス、マッドチェスターとも通じるサウンド。電子音とトライバルリズムのせめぎあい。ずっとドラムが核となって進んでいく。ビートミュージック。さまざまな打撃音が降り注いでくる。クラウトロック的(クラウスシュルツとかタンジェリンドリームとか)とも言えるシンセサウンドが重なっていく。SF的ポストモダンミュージック。透き通ったシンセサウンド。

3.Dream Weapon 05:13 ★★★★★

急に音像が変わり、ドラムが激烈に。Devin TownsendのOcean Machineのような、ドラムは激烈だが上に乗る音はアンビエント的な音作り。ドラムとギターリフが反復し、インダストリアル、機械的な印象を与える。ビートパターンは性急で手数が多くなったが音像そのもののエッジはそこまで変わっていない。ただ、印象は変わる。激烈性が増した。途中からややリズムが控えめになり、宇宙空間を進むようなサウンドに。スペースロック、GojiraのAnother Worldにも近い。こういうサウンドは今のトレンドな気がする。音が積みあがっていく。テトリスが積みあがるような、だんだん圧迫されていく、音の隙間が埋まっていく。ドラムの一つ一つの音の粒立ちがいい。機械的なビートだが迫力もある。

4.Desert Stairs 02:05 ★★★

続いて次の曲、というかインタールードかな、どこか異星に降り立ったような、SF的なサウンドスケープ。ドラムはなく、無重力を感じさせる。ゆっくりと変化していくシンセサウンド。

5.Alone In The Heart Of The Light 07:07 ★★★★☆

はじけるオケヒット、シンセのコード弾き。ベロシティが変わっていく。何かの信号のようだ。ビートが入ってくる。エフェクトがかかり着弾、打撃感が強い音。ボーカルはアンビエント、ドリームポップ的。ドラムだけが容赦なく撃ち付ける。リズム、ビートもずれて組み合わさっていく。ドラムのループとシンセのループが別の回転をはじめ、噛み合う。マスロック的。噛み合う部品が増えていき、出力が増していく。躍動する力を感じる。Toolとかにも通じるのかな。音像はもっとアンビエントなシンセサウンド、キラキラとしたきらめきや揺らめきが強い。

6.Ritual Circle 10:21 ★★★★

遠くから迫ってくる波のような音。電磁波とか重力波とか。ハイハットを刻むリズムが入ってくる。シンセのリフが入る。ボーカルが入り、やや雰囲気が落ち着く。カームで催眠的な声。リズムが多層化していく、トライバル感が増していく。反復するビート、上で反復されるシンセ音。テクノ的。波のサウンド。6分ほどからテンポが変わる。マラソン、ジャーマンテクノ的な。繰り返すリズム。ボーカルはずっとつぶやくような声。攻撃性はほとんどない。もともとはメタルバンドだったのだとしたらまったく別物だな。プログレ感はあるが、SFシンセサウンド系プログレであり、メタル感はほぼゼロ。

7.Single Black Point 04:23 ★★★★

飛び跳ねる、Djentなリズム。ギターもややエッジがある。そこに空間を埋めるような、包むようなシンセが入ってくる。このシンセによって穏やかでどこか夢見る、あるいは死の空間(宇宙)のような、静止したものを感じさせる。全体として静止した世界で動き続ける機械というか。ドラムのタム回しは一部メタル的なアグレッション、エクストリーム感の片鱗を感じさせるが、ブラストビートとかそういうものはない。手数が増えドラムが次々と打ち鳴らされていく。ニールパートのような多彩な音。テンポがスロウダウンし、ブレイクダウン的なパートに。インスト曲。

8.Great Mother 08:58 ★★★★☆

ベースシンセの連打から。四つうちのベース。裏打ちでハイハットが入ってくる。マス(数学)ロック的な組み合わせ。ギターが入ってくる。ややギターサウンドにエッジがあるが、ボーカルは迷走するような、ブリットポップというかマッドチェスター的な、エフェクトがかかってどこか遠くで響いているようなサウンド。シューゲイザー。煌めくギターノイズが色濃く空間を漂っている。ゆるやかに展開していく壮大でSF的なドラマ。ビートの強さが耳に残る。6分半ほどから轟音ギターが出てくる。はじめてギターが前面に出てきた、ビートを塗りつぶす。全体が音の塊になる。大気圏突入というか、火の玉になったようなイメージ。最後、落ち着きを取り戻してまた宇宙空間に消えていく。

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