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AT THE GATES / The Nightmare of Being

1990年、スウェーデンのイェーテボリで結成されたAt The Gatesはメロディックデスメタルの源流の一つとされるバンドです。1996年に一度解散したあと短い再結成を経て2010年から本格的に再始動。本作は3年ぶり7枚目のアルバムで、リードギターがJonas Stålhammarに変わってから曲作りをした初のアルバム(前作リリース前にメンバー変更はされていたが作曲に関わるのは初めて)です。90年代にデビューしたスウェーデンのメロデスバンド群はほとんどがポストメロデスというか、音楽性を拡張・変化させてきました(対照的に、ノルウェーはあまり変化がないバンドも多い印象です)。このバンドはどんな音楽性になっているのでしょうか。

活動国:スウェーデン
ジャンル:メロディックデスメタル、デスメタル
リリース:2021年7月2日
活動期間: 1990〜 1996年、2007〜 2008年、2010〜現在
メンバー:
 Tomas Lindberg − vocals (1990–1996, 2007–2008, 2010–present)
 Adrian Erlandsson − drums (1990–1996, 2007–2008, 2010–present)
 Jonas Björler − bass (1990–1992, 1993–1996, 2007–2008, 2010–present), drums (1990)[24]
 Martin Larsson − rhythm guitar (1993–1996, 2007–2008, 2010–present)
 Jonas Stålhammar − lead guitar (2017−present)

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総合評価 ★★★★★

従来のメロデスの疾走感、暴虐性が強めの前半3曲。その後やや実験的というか音楽性が拡張していく。さまざまな楽器や音像を取り入れていく中盤4~6曲目。実験的ながら滑った感じはなく、見事にそれらの要素を活かしている。7~8曲目で少しメロデス感が戻り、このまま最後は疾走して終わりかと思ったら9~10曲目はさらなる実験性、新しい音楽性の開拓に成功している。さすがメロデスの開祖的なバンドであり、クリーンヴォイスを多用してメロデスを離れるのではなく、あくまでデスヴォイス、不穏な空気感にこだわりながらも音楽性を拡張していく。音楽性を拡張しながらも散漫になることなく緊張感が持続している。むしろ、疾走パターンだけではもう難しい、マンネリズムに陥るところをさまざまな要素を入れてうまく回避している。2020年代のデスメタルシーンに大きな影響を与えるであろう名作。

1. Spectre Of Extinction ★★★★

地響き、地鳴りのような音。アーシーなアコギのアルペジオ、そのままフレーズを引き継いでギターとドラムが入ってくる。音の手触りに不穏な感じがある。だんだんと和音が崩れていく。イントロを経て疾走へ。おお、昔ながらのメロデス感が失われていない。ただ、最初はブラストビートだったがボーカルが入るとエイトビートに。ちょっとDeth'n'Roll味もある。途中スラッシーなツービートと切り替えながら進む。

2. The Paradox ★★★★

続けても疾走感がある曲。ゴツゴツした手触りがある。これはツービート。前のめりでスラッシー。ブリッジでメロディアスになり展開していく。ベテランらしい安定感があり、各パートの音像がイキイキとしている。ベースもブリブリとしていて心地よい。ボーカルを含めて、どれかの楽器だけが突出しているというよりアンサンブルの妙を感じる。さすがに初期のころに比べると暴走感は減り、コントロールされているが硬派な音像。後半、リフを刻む辺りはTestamentの近作との類似性も感じる。

3. The Nightmare Of Being ★★★★

アルペジオからスタート。音がなだれ込んでくる。ややミドルテンポ。ブラストでじっくり攻めてくる。音圧、音の壁が厚く重厚感がある曲。抒情性の強いギターソロ。メロディアスだがコードが展開する時も不協和音的なコードが混じり不穏な雰囲気が保たれる。北欧メロデス感があるのはもちろんなのだが、USスラッシュ、SlayerTestament辺りの感覚に近いものがある。

4. Garden Of Cyrus ★★★★

ややスロウなナンバー。たたきつけるリフパートの後は静謐さがあるソロパートへ、サックスが入ってくる。メロデスと北欧ジャズの融合というか。ボーカルが入ってくる。ややゴシックな雰囲気。サックスとボーカルが絡み合う。面白い。だんだん音像が変化してきた。

5. Touched By The White Hands Of Death ★★★★☆

古い映画のサントラのような、すこし褪せた音色のオーケストラ。ホラー映画のサントラというか。イントロを経て激走へ。このイントロのつかみは上手い。激走パートは歌い方こそデスボイスだが吐き捨てる感じもあり、音像全体としてはかなりスラッシー。ザクザクしたリフもかなりかっちりしている。短いブレイクを挟んで再び疾走へ。ブレイクを挟むことで疾走感が増す。緩急のつけ方もさすが。かっこいい。

6. The Fall Into Time ★★★★★

Iron MaidenHallowed Be Thy Nameのようなスタート。荘厳な世界観。クワイアコーラスも入ってきて北欧らしい感触が濃くなっていく。デスボイスが司祭のように鳴り響く。リフが入ってきて暴虐性が上がるがスロウでゴシックな雰囲気が漂っている。疾走感は少ないが世界観がしっかりとある。曲調は違うものの同郷のGhostにも世界観は通じるものを感じる。途中からテンポチェンジして景色が変わる。ややプログレ色が強い曲。楽曲構築力が高い。

7. Cult Of Salvation ★★★★☆

メロディアスなツインリードからスタート。お、リフもカッコいい。煽情力が強いリフ。Djent的な不協和音の入れ方もうまい。不安定なパートと勇壮にコード展開していくパートが切り替わる。褪せたピアノソロのブレイク。運指練習のような音が飛び散ったギターフレーズ。そこからメロディアスなコード進行に収斂していく。メロデスの王道を鳴らしながら新しい要素も足している曲。テンポとしてはミドルテンポ気味。メロディが浮き出る。

8. The Abstract Enthroned ★★★★☆

再び疾走に。ただ、リフは疾走感があるがボーカルが入ってくるとどっしりとしたミドルテンポに。ドラムの音数は多い。途中からまたツービートで疾走。総じて音のテンションが高い。沸き立つ噴火が次々と起こっている活火山のよう。クラシカルな、チェロだろうか、怪獣映画のような低音成分が多い弦楽器隊の音のシーンが出てくる。こういう場面の変え方が上手い。

9. Cosmic Pessimism ★★★★★

呟くようなボーカル、一定のドラム、ベース。不確定なギター。ポストパンク、ニューウェーブ的な音。やや音の隙間があるが不穏な雰囲気は強い。だいぶ音像は違っているのだけれど流れで聴ける。ORANSSI PAZUZUにも近いものを感じる。途中からこのバンドらしいシャウトも出てくる。カッコいい。後半、印象的なリフが出てくるパートはLordiのようだ。

10. Eternal Winter Of Reason ★★★★☆

これも実験的な要素が入っている。よりオーソドックスなメロデス感がありつつ、前の曲のやや空間がある音作り、音響的な実験も続いている。コーラスは開放感、ギターの壁にシューゲイズ的な高音の煌めきがある。このギターの高音は他の曲にはなかったものだ。音の重心が全体的に上がり、上昇感がある。曲調だけではなく音響、音域も使って表情に変化をつけているのは上手い。Deftonesもこういう手法を使っていた印象。余韻を残して終曲。

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