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新しい音楽頒布会 Vol.9 プログレッシブロック、オリエンタルメタル、USパワーメタル、ノーウェーブ、ジャズロック

今週は5枚です。カナダ、トルコとUS3組で計5枚。それではどうぞ。

おススメ1:Devin Townsend/Lightwork

Devin Townsendデヴィン・タウンゼント。カナダ生まれのギタリスト、ボーカリスト、マルチミュージシャン、プロデューサーで、スティーヴ・ヴァイのバンドプロジェクトであった「VAI」のアルバム、Sex&Religion(1993)で弱冠21歳にしてデビュー。そのエキセントリックなボーカルとVAIとギターバトルを繰り広げるほどのギターテクニックで一躍注目を集めた彼ももはやデビュー30年近いベテランとなりました。デヴィンはVAIの後、Strapping Young Lad(SYL)という「めちゃくちゃヘヴィなバンド」でデビューを果たし、一躍得空くストリームメタル界で注目を集めましたが、デヴィン曰く「あれはパロディのつもりだったんだ」とのこと。デヴィンが真にその創造性を発揮した真のソロデビューアルバムはOcean Machine名義でリリースされたBiomech(1997)であったと言えるでしょう。そこにあったのはシューゲイズやアンビエントメタルとでもいえる重層的なギターオーケストレーションにゴスペル的なボーカルラインが乗る荘厳なもの。ほかにない音像で、デヴィンの頭の中の音をそのまま鳴らしたような音世界が印象的でした。その音世界は内向的ながらとにかく美しいもの。Biomechからの曲のライブ映像です。

ただ、彼はあふれ出る音楽的才能というか、「自分の好きなことをつきつめても商業的成功が得られない」というプレッシャーか、各種パロディプロジェクトみたいな活動を並行します。「エクストリームメタルのパロディ」であったSYLや「メロコアのパロディ」であったパンキーブリュースター、そして「ロックメタルオペラ」たるZiltoid the Omniscient(2007)など多岐にわたる活動を行い、それぞれがそのジャンルで確固たる存在感を示すという離れ業を行いつつ、今一つ核が分かりづらいアーティストでもあった。ずっと「Biomech」で提示されたオリジナリティ、「デヴィンタウンゼントの音楽」というもののリリースは続けていて、その方向性でも進化と深化を続けていたのですがどうも内向的で似たようなアルバムに聞こえる。2000年代にリリースされたアルバム群は「デヴィン印」は明確にあるものの、バラエティに欠ける印象でした。バラエティを出すためかその合間合間に企画盤を出してきたのですが、企画盤の完成度がなまじ高く話題になってしまうのですね。かつて、Burrn!の表紙を飾った(WildheartsのGingerとのダブル表紙)ほどのアーティストで、1990年代後半のアルバムはオリコン100位以内に入ったりもしていたのですが(最高位はInfinity(1997)の29位)、2000年代に入ってから日本ではデヴィンタウンゼントの名前はあまり聞かれなくなりました。

1998年10月号の表紙

ところが、進化と深化をつづけたデヴィンはいつのまにか欧州ではプログレッシブメタルの大御所となっており、UKではロイヤルアルバートホール(キャパ5000人、ただ、UKでは格式が非常に高いホール)をソールドアウトするほどのアーティストに。2010年代に入ってから欧州で人気が高まり、前作Empath(2019)は欧州メタル大国たるフィンランド、ドイツではそれぞれ最高位2位、12位まで上がっています。また、なぜかオーストラリアでも人気が高く10位、UKでも23位。長年掘り下げ続けてきた独自の音楽性が2010年代になって花開き、2010年代後半からはマニアやメディアからの音楽的評価に加えて欧州での商業的成功も手に入れています。

僕は前作Enpathで久しぶりにデヴィンのニューアルバムをしっかり聞き込んだのですが、驚いたのは歌メロがめちゃくちゃよくなっていることなんですよね。どこか内向的に感じた歌メロがすごく外向きになっているというか、こちらに伝わってくるものが多くなっている。前作からのこの曲は2019年の個人的ベストトラックの一つです。

まさにデヴィンにしか作れない音世界。彼の歌メロ、ボーカル、オーケストレーションが一体化しており「デヴィンが目指していた音世界がどんどん具現化しているんだなぁ」と感じました。

そして、実験的なアンビエントアルバムだったThe Puzzle / Snuggles(2021)を挟んでリリースされた本作Lightwork(2022)は前作の完成度を引き継ぎつつさらに普遍的な歌メロを持ったアルバムでアーティストとしての勢いと自分なりの音像スタイルを確立した独自性を感じます。

プログレッシブメタルの枠を超えて、彼の音楽にはなにか神聖さを感じるというか”祈り”のようなものを感じます。その色が近年ますます強くなっており、本作はネオフューチャー(近未来)のゴスペルとでもいえる独特の音像に。ただ、ところどこにメタル的な歪みや荒々しさ(スクリームやギターリフなど)がさしはさまれ、歪み成分も充足。サイケデリックさやスペーシーさもあり、”聴くドラッグ”感もあります。Biomechから25年、四半世紀を経てたどり着いた到達点にして、デヴィンにとっては通過点なのでしょう。Biomechに衝撃を受けた身としては「ここまでたどり着いたのか」という深い感慨を覚えたアルバム。継続は力なり。

まだApple MusictとSpotifyにありませんが、日本では未リリースなのかな。近いうちに解禁されると思います。とりあえずTIDALをどうぞ。

https://tidal.com/browse/album/241446267

音質は劣りますがYouTubeにフルストリーミングもあります。


おススメ2:Pentagram/MAKINA ELEKTRIKA

オリエンタルメタルのパイオニア、トルコのペンタグラム。かつては同名バンドがUKにいた(ドゥームメタルのUKペンタグラム)ためMezarkabul(死地を受け入れる、というトルコ語)と名乗っていましたが、今はPentagramでストリーミングサービスで出てきますね。1980年代から活躍するベテランで、イスラエルのOrphand Landと並んでオリエンタルメタル(アラビックな音階をメタル音楽に取り入れた)のパイオニアです。彼らについて詳しくはこちら。

2017年に過去作をアコースティックで演奏しなおした企画アルバムを出していたものの、新曲によるニューアルバムとしては10年ぶりとなる本作。期待に違わぬ出来でトルコ語で奏でられるオリエンタルメタルはほかにない個性を感じます。トルコって基本的に音楽大国ながらメタルバンド不毛の地なんですよね。一定以上の規模で活動を10年以上安定して今も続けているバンドとなるとこのペンタグラム以外に思いつきません。あと、彼らの魅力って80年代、つまりグローバルメタルやフォークメタル(その一派としてのオリエンタルメタル)が台頭する前から活動しており、初期はスラッシュメタルなんですよね。そのあたりの感覚も残っており面白い。日本だとLoudnessなんかに近い感じがします。

トルコ語は日本語に母音や主語述語の位置関係が近く、同じ語族と言われています。確かに、聴いていると言葉の響きが近いんですよね。僕は日本語が母語なので客観的に日本の音楽を聴くことが難しいのですが、トルコの音楽を聴くと「ああ、非日本語話者が日本語の音楽を聴くとこんな感じなのかなぁ」と思ったりもします。トルコ音楽はどこか親近感を覚えて好きです。


おススメ3:Sumerlands/Dreamkiller

フィラデルフィアを拠点とする音楽プロデューサーArthur Rizkが率いるサマーランド、2作目となる本作はクラシックロックのような温かみのあるギターサウンドを導入した王道USパワーメタルです。Ghostの新作を思わせるところもありつつ、歌メロはちょっとジェフテイト時代のクィーンズライクを思わせたり。少し前に話題になっていてその時に聞いてその週はほかのおススメが多かったので選外としました。ただ、今月号のBurrn!の輸入盤で取り上げられ高得点を獲得。確かにいいアルバムだったなぁと改めて聞き直すとやはりいいアルバムだったので今週のおススメとしてピックアップ。全8曲35分とコンパクトながら高密度で良質なアルバムです。ベタなようで歌メロがけっこうモダンでフックがあるし、過去のレガシーをなぞっているようできちんと個性があるサウンド。ゴシック要素はないものの、レガシーをなぞりつつ新しい個性を感じるという点ではIdle Hands(旧Unto Others)にも少し空気感が近いかも。


おススメ4:Special Interest/Endure

US、ニューオーリンズのポストパンクバンド、スペシャルインタレストの3枚目のアルバム。最近UKでポストパンクバンドが盛り上がっていますがこちらはUS。ポストパンクの中でもノーウェーブ(シンセを使ったニューウェーブ的なサウンドながら商業的成功よりパンク精神を優先したようなサウンドを持つバンド群)に分類される4人組のバンドです。打ち込みのビート、シンセサウンドに絡み合うスクリームや荒々しいバンドサウンド。USのバンドながらUKのラフトレードと契約しているので、UKのポストパンクの流れも汲んでいるのでしょう。アーティスト写真からなかなか曲者感を感じるとともに、現代USシーンらしい「多様性」を感じます。

全員ニューオーリンズ出身のアリ・ログアウト、マリア・エレナ、ルース・マレリ、ネイサン・カシアーニによる4人組で、当初は70年代のユニボックス製のドラムマシーンのビート上でアリとマリアがギターと電動工具を演奏する2ピース・バンドとして活動を開始。そこへエレクトロニクスのルースとベースのネイサンが加わったという経緯。結成からしてパンキッシュなDIY精神があふれています。


おススメ5:Tom skinner/Voices of Bishara

Radioheadのトム・ヨークとジョニー・グリーンウッドが組んだ「The Smile」にドラマーとして参加していたトム・スキナーの初ソロ作。ジャズを説明する語彙をあまり持ち合わせていませんが、聴いていて心地よく、かつ探求にたるというか、深みを感じる音像。ちょっとオリエンタルな響きもあるバイオリンの響きも心地よく、UKジャズの伝統を感じます。USのジャズと違ってUKのジャズってどこかジャズロック色、プログレッシブロック色を感じるんですよね。適度な緊迫感と気品が両立した作品。EP扱いで全6曲27分。


以上、今週耳に残った5枚でした。それでは良いミュージックライフを。

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