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Kyuss ‎/ Welcome To Sky Valley

カイアス(Kyuss)は、アメリカ合衆国のストーナーロック・バンドです。1989年結成(前身のバンドは1987結成)、1990年デビュー。反復、酩酊するストーナーロックの初期シーンの中心的存在。2000年代、2010年代を通してこうした音像を持ったバンドが増えてきた気がします。本作は代表作とされる1994年リリースの3rdアルバム。グランジ・オルタナ的な内省的な音像とはまた違う、サイケでスペーシーな音世界を作り上げています。Grateful Dead(のライブ)など、サイケデリックなジャムバンドにも近いかも。このバンドのギターだったジョシュ・オムはバンド解散後の1997年にQueens of the Stone Ageを結成し、商業的にも成功を収めます。ジョシュはパリのテロで有名になっ(てしまっ)たEagles of Death Metalのメンバーでもあります。

I
1 Gardenia 6:53 ★★★★

ノイズ多めのギターサウンド、コードがじっくりと鳴らされる。いかにもストーナー的な、沈殿して煙った音。くぐもった音ながら耳障りは丸い。同じリフを反復する。ボーカルが入ってくる、それほど前面には出てこない、音の渦の中にある感じ。ゆったり横に揺れるリズム。このまま酩酊かと思ったら少しづつ熱が入ってきた。ややテンポアップ? 分かりやすいテンポチェンジではなくじわじわとテンポが上がったように感じる。全体としてくぐもった音、ノイズなども入るが和音感は強く、不協和音はない。じっくりとジャムを続ける感じでPhishやGrateful Deadにも近いかも。ああ、そうか、ストーナーはジャムバンドの系譜でもあるのかな。ああいうバンドはアメリカ特有な感じがする。イギリスにもDeep Purpleという強力なジャムバンドがいたけれど。あいうジャズ的というか、緊張感のあるインタープレイの応酬というよりはグルーブや音の響きを楽しみながら反復する、曲構造を展開させることより反復の快楽を追求する、的な。Metallicaは初期からそういう性質を持っていた(スラッシュメタルの中では特異だし、メタル界全体としても当時としてはけっこう特異な性質)。

2 Asteroid 4:48 ★★★★

LPだと「1~3」が組曲らしいが、きちんと一度曲が終わって次の曲に変わった。とはいえ、延々と左チャンネルで反復するギターリフ、なんだかお経のような低温で唱え続けるリフ。そこからバンドが入ってくるが「勢いよく入ってくる」というよりはやはり酩酊している。揺らいだ感じ。ちょっとグルーヴが出たと思ったらスペーシーなサウンド、リズムがなくなり、空間に放り出される。いろいろな音、ノイズが飛び回る。テンポチェンジをゆったりと行い、だんだんと盛り上がっていく。ピンクフロイドのような「音響でドラマを描く」曲。インスト。

3 Supa Scoopa And Mighty Scoop 6:03 ★★★★☆

ボーカルが入ってくる、細かい刻みのドラム、痙攣のような。歪んだロックンロール。ロックの王道的なリズム、グルーヴ、ブルース感。ベースがゴリゴリに割れている。ギターとベースが一体となって中低音域で渦を巻いている。けっこう娯楽性が高い、酩酊感はあるもののそれなりにアップテンポでアッパー。途中で遊泳するようなリズムに。音の海を泳ぐ。リズムが有機的に移り変わっていく。サバス的なドゥームというか、初期ドゥームのブルースからの影響がはっきり分かるリフ、パートも後半に出てくる。ユニゾンでリフを奏でる、的な。だんだんとそのユニゾンの間隔がずれていく、リズムがずらされる、「もう終わりかな」と思わせて続く。これでパート1が終了。

II
4 100° 2:29 ★★★★

ノイジーなロックンロール、という趣。ベースの音がブリブリ聞こえる。ただ、ノイジーとはいえ攻撃性が強いわけではない。それなりにノリは良いがどこか包み込むような、いろいろなうまみが詰まった音の渦。けっこう軽快、途中でファンキーなリフも出てくる。全体的な音像は統一され、どこか煙たい霞がかった音像ながら豊饒な音楽的要素が詰め込まれている。

5 Space Cadet 7:02 ★★★☆

つま弾くようなアコギ? リバーブがかかっているのか。妙に音が太いがアコースティック感のあるギター音が延々と続く。もっとギターが入ってくる、スライドギターかシタールのような音。スライドギターだろうな。カントリー・ウェスタンやギター・ブルース的。ちょっとザックワイルドのプライドアンドグローリーを思い出した。そういえばあのアルバムもこの時期だっけな。1994年リリースか。あれもサイケ、ストーナーな流れの中で位置づけるべきアルバムだったのか。つぶやくようなボーカルが右チャンネルに入っている。つぶやくようなというかお経のようなというか。だんだんとドラムなどに熱が入ってくるがそれほど高まる感じでもない、どこか気だるげな儀式といった趣。不思議と耳を惹かれる曲。

6 Demon Cleaner 5:19 ★★★★☆

ドラムがやや手数が増える、手数が多いが突進してくる感じはない、ゆるやかに揺れながら踊っている。さざめく。平温なボーカル。不思議なのは気だるげなのだがなんとなく解放感がある、閉塞感や内省的な感じより、外に向かっていく、明るく酔う感じ、うーん、ちょっとダウンテンポにしたプライマルスクリーム的(1st)な? 決してハイテンションなわけではないが、じわじわとテンションや熱量が高まっていく。エネルギーが昂る。静かな熱狂もできるし、音の渦に潜り沈み込む酩酊もできる。音色と展開していくメロディが心地よいのか。

III
7 Odyssey 4:19 ★★★★☆

ゆるやかなテンポの揺れるようなギターリフからスタート、そこからリズムが入ってきてアップテンポになる。加速感がある。あくまで「このバンドにしては」のアップテンポ感だが。ちょっと駆け足になるぐらい。夢の中で走るような。どこかドリーミーな音像なのは音が渦巻いていて、ボーカルが奥にこもっているからか。全体として音圧の急激な変化がない。じわじわと変化していくから意表を突かれない。とはいえ展開はし続けていく。けっこうこの曲はテンポチェンジや展開がしっかりあるな。そう、全体として「酩酊感」がありつつ曲構成はどんどん展開していく。聞いていて楽しい。テンポが有機的に変化する、最後の方になるとまたゆっくりになる。この「テンポを有機的にコントロールする」のが凄いな。かっちりしていないけれど、リズムが揺れているわけではなくきちんとコントロールされて緩急がついている。Led ZeppelinのStairway To Heavenはだんだんテンポが(わずかに)上がっていくことで知られているが、アルバム全体でそうした微妙な緩急をつけている感じ。

8 Conan Troutman 2:11 ★★★★

嵐のような、けっこうハードなリフ。リフというかコード、音の壁が立ち上がる。ドラムもしっかり叩いている、ハードロック的な音像。そうか、MetalicaのLoadもこういう流れ、同時代の動きに呼応していたのだな。

9 N.O. 3:47 ★★★★

これもハードロック的な曲、きちんとリフがある。Hawkwindみたいな。スペースロック。最後の第三部はノリノリのロック大会、みたいなパートなのか。アップテンポでテンション高め。スクリームや疾走があるわけではないが、プリミティブなロックの凶暴性、熱狂がある。なんだろうなぁ、この曲はニールヤング的ともいえるかも。ギターをかき鳴らして歌っていくのだけれど心地よい。だいぶブルージーでもある。

10.1 Whitewater 7:50
 10.2 (silence) 0:10
 10.3 Lick Doo 0:58

最終曲のあと空白を挟んで隠しトラック、という作り。様子を見るようなリズム、だんだんとギターが入ってくる、低空飛行、優雅なハングライダー、鳥が少し羽ばたいた後、慣性で飛行するようなリフ。そこから熱心に動き始める。飛翔。かなり遠くで響くボーカル。ひとつひとつのメロディに開放感がある。そういえば昨年のHUMのInletもこんな感じだったかもな。歌い方は違うが。Pride & Grolyのザックワイルドの歌い方を彷彿させる(声質は違う)。なんだろう、ちょっと唸る感じというか。細かいビブラートは無いがこぶしを聞かせている、顎をしゃくる感じというか。最後を「ゥォン」「--ォォォン」といった感じで終わる。ギターフレーズが飛び跳ねるように重なり、ジャムセッション的なパートが続く、音の心地よさを探りながら続けている感じ。ドラムの手数がかなり上がっている、メートルが上がるが溺れる感じはない。だんだんと満ちていく感覚。ベースが潜る、沈み込むような音が前面に出てくる。グルーヴが支える海の上をギターフレーズが頼りなげな小舟のように泳いでいく。だんだんと音が減っていき、静けさ、日が落ちるような。終曲。

少しの無音を経て、おちゃらけたような雰囲気。変なドゥーワップ、ドゥーワドゥーワ言うコーラスの上でボーカルが歌う、酩酊したパーティ感。ちょっと明るく終了。冴えてるジョークだ。

全体評価 ★★★★★

アルバム全体を通しての完成度が高い、単曲でどうこう、というより全体を通じて心地よい。ピンクフロイドの「狂気」のような。何度も聞くたびに発見がありそうなアルバム。だんだんとフレーズが耳に残り沈殿していく。ルーズで自然体な雰囲気ながらリズムやフレーズ、音響まで計算され、積み重なっている。一つ一つは何気なく聞こえるが、全体を通じて「あるべきところに収まっている」ように感じる。名盤。

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