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CANVAS SOLARIS / Chromosphere

CANVAS SOLARISはUS、ジョージア州のプログレッシブメタルバンドです。1999年結成、2011年に一度解散したものの2014年から再始動。本作は11年ぶり6作目の作品です。2016年にはほぼ原形は出来上がっていたようですが、スタジオでの制作に時間がかかり3年間にわたって様々なスタジオで録音を続けたそう。2019年にミキシングに入り音源を完成させた後、古巣であるTribunalRecordsと契約し、そこからのリリースとなったようです。

bandcampのリリース文を邦訳しておきます。

5枚目のアルバムIrradiance(2010)のリリース後、インストルメンタルプログレッシブメタルの職人であったCANVAS SOLARISは2010年に静かに解散しました。バンドは2014年に再編成され、最終的に6枚目のアルバムを構成する楽曲を作り始めましたが、さまざまな個人的な問題が起き、一年以上制作は停滞しました。2016年にようやく活動が再開され、バンドは6曲/ 50分の新作Chromosphere(彩層)の作成を完了しました。
しかし、流通、個人的な義務、および時間の制約など様々な問題から、バンドはその後の3年間わたって、さまざまなスタジオでトラックを録音およびミキシングするための時間を費やしました。ドラムは2017年4月にJamieKing Audioで作成され、ギターとベースは2018年と2019年を通してChrisRushingとGaelPirlotのホームスタジオで追跡されました。追加のパーカッションとアコースティックギターは、2019年に友人のJustinPrevattの助けを借りて録音されました。プログラミング/シンセサイザーは、主にギタリストのネイサンサップの家で完成しました。その後、CANVAS SOLARISは、2019年の夏に再びJamie King Audioに戻り、ミキシングプロセスを開始しました。
Chromosphere(彩層)の方向性について、ドラマーのハンター・ギンは次のように述べています。『ネイサンと私は作詞作曲にもっと焦点を当てたいと思っていたので、ToxikRealmWatchtowerMekong DeltaTargetCoronerなどの80年代後半から90年代前半のプログレッシブでテクニカルなスラッシュバンドからインスピレーションを得ました。 DeathrowAnacrusisBelieverObliveon、およびSadusは、私たちにアイデアの深い貯蔵庫を提供しました。”Chromosphere(彩層)”はそれらのバンドのように聞こえるわけではありませんが、少なくともCANVASSOLARISは彼らといくつかのDNAを共有していると思います。』
レーベルからリリースした過去4作のアルバムの評判も良かったため、CANVAS SOLARISは本作を自主流通させようというアイデアもありましたが、最終的には別の方法でリリースすることにしました。Divebombの親会社であるTribunalRecordsが2000年代初頭にグループの1stアルバムをリリースしたため、バンドはすべてが始まった場所に戻りました。ギンは次のように述べています。『デビューフルレングスの”Sublimation(2004)”から本作の間の数年間で、TribunalはDivebomb Recordsを立ち上げましたが、Divebombだけがお気に入りのアルバムのいくつかを再発してくれました。本当に私たちの帰郷のように感じます。TribunalRecordsの創設者であるMattRudzinskiは、私たちの最も初期の支持者の1人であり、他の誰も信じなかったときに私たちの音楽を信じていました。』
CANVAS SOLARISは、”Chromosphere”を通して、技術的なミュージシャンシップの無限の表示よりも、動きと雰囲気を強調する巧妙に作成された作詞作曲へのアプローチを誇る複雑で高レベルのプログレッシブメタルの提供に大いに成功しました。ハンターはこう言います。『これは誰もが私たちに期待していた以上のレコードだろうと思います。10年の不在の後、ほとんどのリスナーはおそらくよりまろやかでより宇宙的なCANVASSOLARISアルバムを期待していたでしょう。Chromosphereにはコズミックな瞬間に不足はありませんし、これほどアグレッシブで決意のあるサウンドのアルバムを作ったことはありません...』

活動国:US
ジャンル:Progressive Metal
リリース:2021/5/14
活動期間:1999-2011, 2014-現在
メンバー:
 Hunter Ginn ーDrums, Percussion (1999-2011)
 Nathan Sapp ーGuitars, Synths, Vocals (1999-2011)
 Gael Pirlot ーBass (2008-2011)
 Chris Rushing ーGuitars (2008-2011)
 Donnie Smith ーKeyboards (2008-2011)
※現在のメンバー構成は不明。ネイサン(Gt、Vo)とハンター(Dr)が中心メンバーでしょう。最新のプロフ写真だと4名編成の様子。

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++++

総合評価 ★★★★☆

インストでプログレッシブながらかなり聞きやすい。テクニカルなこともしてはいるが単純なカッコよさを強く感じる。MegadethのRust In Peaceのインスト部分、間奏部分だけを抜き出したというか、メロディアスで緊張感あふれるメタリックな世界が延々と繰り広げられる。歌がないのでボーカル主体で聴く人にとっては物足りないだろうが、プログレメタル好き、初期Megadeth好き、あるいはSteve Vai好き(Fire Gardenあたりか)などの人はまさに好物なんじゃないでしょうか。リフもメロディも素晴らしいし、情景が浮かぶ。1曲目が特におススメ。USのバンドながら北欧感も少し感じる。あと、音作りがアナログ的な温かみ、有機的な響きがある。ストーナー的というかサイケというかそういう音色。曲調はそこまでサイケデリックでなくとも、音作りがエッジの立ったザクザク感だけでなくもっとオーガニックなアナログ感が強くなっている。最近のメタル界の一つの潮流だと感じる。アナログ盤で聞いてみたくなる音作り。

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1.Extrasolar Biosignature 10:54 ★★★★★

1曲目から10分越えの大曲。宇宙空間を浮遊するような、未知の惑星に近づくようなSEから始まる。ギターの音が響いてくる。始まりを期待させるSE。リフが始まる。やや突っかかるような、メロディアスだがどこか奇妙な反復。半人半機械のような生身感とインダストリアル感が混じった構成。音作りがけっこうオーガニック。ガレージ的な荒々しさがあるが、Mastodonなどにも通じるどこか有機的な音作り。Blood Incantationもこんな音に近かったかか。変拍子は多用されているがBPMは基本的に一定に近く、ストーナー的。同じリズムでゆったり浸れる。途中でかなり機械的な音像になり、バンドが戻ってくるとスラッシーなパートになる。リフもソロもカッコいい。MegadethのRust In Peaceの間奏部分とでも言うべきか。リズムが変わっていくがずっとノッていられる。お、疾走しはじめた。BPMも自在に変わる。メロディアスなギターソロとリフが絡み合う。これはメタル好きなら血が騒ぐ音像。インストながら小難しさは全くない。ひたすらカッコいいリフとソロが続く。リズム隊も有機的に絡み合い、単調さがまったくない。今度はアコースティックで儀式的な音像が出てきた。個人的にはBlind GuardianのTime What is Timeのオープニングを思い出す。それぞれ想起するものが違うだろうが、とにかく何らかの風景が浮かぶ音像。すごいな。インストなのにここまで雄弁とは。

2.Hidden Sector 06:00 ★★★★

次曲へ、ややテクニカルか。リフと変拍子が絡み合う。前の曲は大曲ながら一つ一つのパートは比較的ストレートな作りだった。この曲は最初のパートの引っかかりが強い。アコースティックでエスニックなメロディ(エジプト音階か)が入ってくる。また元のドラムとギターリフがずれるパターン。ストーナー的というか、音が酩酊へ誘う。スローさはなく、目まぐるしい展開なのだけれどどんどん内奥に潜っていく感覚がある。リフが次々と構築されていく。いつも思うが、こうした複雑なリフ、変拍子を聴いていると都市をタイムラプスで数十年単位で見ている気持ちになる。何もなかった場所にビルが次々と立ち並び、そして変化していく。工事車両が並び風景が変わっていく。巨大な都市が建設されて移り変わっていくような感覚を覚える。複雑で絡み合う巨大な人工物。とっつきづらかった最初のパートからどんどん潜っていき、最後は壮大さを感じさせるギターソロへ。探索から上昇し解放感がある。

3.Zero Point Field 13:24 ★★★★☆

アルバム1番の大曲。最初から音の勢い、音に込められた気合を感じる。変拍子ながらも前曲の始まりのようなとっつきづらさが少ない。すっと入れるというか、掘り進んでいく、宇宙空間を進んでいく、どこかに対して進んでいくイメージが強い。テンポがよく、鼓舞するようなフレージングだからだろうか。一通り進んで行ったあと、浮遊するような、問いかけるようなパートに変わる。さまざまな心象風景が出てくるが、全体的にSFやファンタジー感が強い。ただ、これは解説に「Cosmic(宇宙)」とあったからだな。人によっては全然違うものを想起するだろう。こちらも流れるようなメロディ。ギターのエッジは立っているのだけれど、デスやグロールボイスが無い分、美醜のコントラストというか極端な歪み成分がなく、一つの美しい物語が浮かぶ。アシモフのFaundationシリーズを読むときのBGMに最適。何かを探索する、調べたくなる。全体的にポジティブなエネルギー、前進への意思を感じる。

4.Black Drop Effect 04:26 ★★★★

比較的かっちりしたリフ、とはいえところどころで突っかかるというか変拍子で引っかかる。最初からクライマックス感が強い。盛り上がりどころだけ切り抜いたような。今までの曲に比べるとかなり目まぐるしい。酩酊感、内奥に潜る感じがいきなり途中からスタートするような。ところどころのフレーズでは音色がSteve Vai的でもある。高音のちょっと跳ねる感じ、人が歌っているような感じがするところとか。やはり4分半はこのバンドには短い。リードトラックとして短めにまとめたのだろうけれど、長尺曲の方が魅力的。

5.Renormalization 06:19 ★★★★☆

今度も最初からクライマックス感のある曲、テンション高めでスタート。前の曲のアッパーな感じを引き継いでそのまま高テンション、さらに圧を上げていく感じがある。圧といっても音が激しいというより、全体的に音の重心が高音よりというか。上昇している、高いところにいる感じ。ひょっとしたらチューニングがダウンチューニングとレギュラーチューニングを使い分けているのかな。全体的に音が浮いている。途中から幽玄な音世界に。反復が強く酩酊感が出てくる。気が付くとスラッシーな突撃パートへ。つかみどころのない音階を抜けて再び進軍。メロディアスでかっこいいソロが出てくるのがいいんだよなぁ。ベタっとしていなくて、欧州的な湿り気はあるもののやはりUSのバンドらしい潔さがある。

6.False Vacuum 08:15 ★★★★☆

勢いはあるもののつかみどころのないパート、やや混沌とした場面からスタート。ピアノフレーズが湧き上がってくる。反復が続き、次のパートへ。クリーンなハーモニーの中に不協和音、緊迫感が適度に混じる。荘厳な舞台へと変わり、メロディアスなフレーズが続く。全体としてはバラードとでも言うべきか。ややスロウで美しいフレーズが多い。ギターが歌い上げる。これはなんとなく初期Metallicaを想起させるな。結局デイヴ・ムステインということか。最後2分、アルバムの終焉を飾るコーダ。どこかにたどり着いた凱旋のようにも聞こえる。あるいは次のスタートか。フェードアウト。

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