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13歳~22歳のためのヘヴィメタル入門④

この連載も4回目。前回が王道だったので、今回はちょっと深堀したアーティストをご紹介。この連載の1回目2回目3回目を見てくれた方向けの、やや応用編的な内容です。ルールは前回までと同じく以下3点の条件でアルバムを選んでいきます。

1.リリース時のアーティストの年齢(フロントマン)が25歳以下。
2.時代・地域は問わず。1970年代~現在までのアルバムを幅広く紹介。
3.Apple Musicにあるものを紹介。

それでは今回も5組、行ってみましょう。

Steve Vaiスティーヴ・ヴァイ / Sex & Religionセックス・アンド・レリジョン:21歳

鬼才フランク・ザッパの門下生として知られ、元ヴァン・ヘイレンのデヴィッド・リー・ロスのバンドやホワイトスネイクへの参加で超絶ギターヒーローとして名を馳せたスティーヴ・ヴァイのソロ作品。彼がボーカル入りのアルバムを制作するにあたり選ばれたのが21歳の新鋭ボーカリスト、デヴィン・タウンゼントでした。デヴィンはカナダ出身で12歳からギターを始め、メタルバンドを組んでデモテープを各社に送付、その中の1社がヴァイにデヴィンを推薦し、本作に大抜擢されることになります。

当時のデヴィン・タウンゼント(左)とスティーヴ・ヴァイ(右)

本作の他のメンバーはTM・スティーブンス(ベース)とテリー・ボジオ(ドラム)という超絶技巧派で、ややファンキーというかリズムが跳ねた感じもありますが、そこに差しはさまれるヴァイの独特のギター、そしてそれに負けない存在感を持つデヴィンのボーカルが耳を惹きます。アルバム全体としてはそれほどメタリックには感じず、どちらかと言えばオルタナティブな色合いも強いアルバムですが楽器隊の演奏は聞きどころ満載。その上でスクリームから滑らかな歌声まで変幻自在な声色を使い分け、多重に重なるボーカルのオーケストレーションは圧巻。ギターソロと対になるような「ボーカルソロ」みたいなパートもあり、他にない個性を持った1枚です。


Candlemassキャンドルマス / Nightfallナイトフォール:20歳

スウェーデンのドゥームメタルバンド、キャンドルマスの2作目。年齢不詳な外見ですがこの時ボーカルのMessiah Marcolinメサイア・マーコリンは20歳。本作から加入したのでキャンドルマスのメンバーとしては本作がデビュー作です。かなり早熟なボーカリストで17歳の時には別のバンドでデビュー済。オペラティックかつ変幻自在で演劇的(シアトリカル)なボーカルスタイルはデンマークのキング・ダイアモンドの影響を感じさせます。巨躯を揺らしなまはげのように踊る様が「ドゥームダンス」と呼ばれ、一度見たら忘れられないインパクト。

当時のメンバー、中心がマーコリン。こうしてみると若々しい。

ドゥームメタルというのはDoom、意味は「運命」とか「悲運」、「嘆き」「破滅」といった意味。キリスト教の最終日とされる「審判の日」を「Doomsday(ドゥームズデイ)」と言います。音楽的特性としてはヘヴィかつスロウテンポで、ダークかつドラマティック、というもの。途中にテンポチェンジが多いのも特徴で、緩急が大きく曲の先が読めない。ブラックサバスが始祖とされるジャンルで、一見とっつきづらいですが実はかなり覚えやすいメロディも多く気が付くと口ずさんでしまう曲が多いジャンルでもあります。単曲で聞いてもドラマの予告編だけを見るようなものなので、ぜひアルバムを聴いてみてください。


Dizzy Mizz Lizzyディジー・ミズ・リジー/Dizzy Mizz Lizzyディジー・ミズ・リジー:20歳

学校の友人3人で結成された学生バンド、デンマークのDizzy Mizz Lizzy。デンマークのロックコンテストの常連となり話題を集め、期待が高まる中でリリースされたデビューアルバムが本作。新世代のロックバンドとして颯爽とシーンに現れ、瞬く間にデンマークでは国民的バンドとなりました。リリース時、ボーカル兼ギターのTim Christensenティム・クリステンセンは20歳。というかメンバー全員同い年です。

当時のメンバー、左端がクリステンセン。

NIRVANAに代表されるグランジ・オルタナティブムーブメントの影響を感じさせつつ、ビートルズの影を感じさせる卓越したメロディセンスが光るアルバム。予想外でありながら納得感がある「収まるべきところに収まる」流れるようなメロディが印象的です。3人編成というかなりミニマルなバンドながら各楽器とボーカルの絡み合いが多層的でハーモニーが巧み。自分たちのサウンド、バンドアンサンブルをしっかり練り上げて1曲ずつ丁寧に作り上げていったことが感じられる名盤。


Cathedralカテドラル / Forest Of Equilibriumこの森の静寂の中で:23歳

UK、コヴェントリー出身であり、「世界最速」と呼ばれ、グラインドコアの始祖ともされるNapalm Deathナパーム・デスのボーカリストであった
Lee Dorrianリー・ドリアンがナパームデス脱退後に結成したバンドのデビュー作。世界最速の次は「世界最遅」を目指し、ひたすら重くうねるようなヘヴィネスが続きます。もともとドリアンはパンクのファンマガジン(ファンジン)の編集者であり、地元のパンクプロモーターからキャリアをスタート。その後ナパームデスでハードコアをさらに過激化させた後に脱退。脱退して収入が途絶え、失業手当からの脱却を目指してこのアルバムを制作します。当時23歳。

当時のメンバー、右から2番目がドリアン。

「遅い、重い、暗い」のドゥームメタルのイメージをまさに具現化したような音。先にCandlemassの項で書いたようにドゥームメタルって妙なキャッチーさがあり、意外とノリが良い(サイケなロックンロール感もある)ところもあるんですが、本作はゴリゴリの重苦しさを誇ります。ここまで徹底した作品はメタル史の中でも先類をみない。このアルバムの前後で「ヘヴィさ」の概念を変えてしまったと言っても過言ではありません。極北を目指そうという試みの結果生み出された孤高の名盤。


Carcassカーカス / Heartworkハートワーク:24歳

ナパームデスの創始メンバーであったギタリストのBill Steerビル・スティアーがUK、リバプールで結成したバンド、カーカス。”リバプールの残虐王”の異名を取り、UKのエクストリームメタルシーンの中で確固たる地位を築きます。本作は4作目のアルバムで、ボーカリスト兼ベーシストのJeff Wakerジェフ・ウォーカーは24歳。もともとハードコアシーンともつながりが深く、DIY(Do It Yourself)の精神があり、自分たちでレーベルを創ったり、ライブを企画したりと既存の音楽シーンやメディアとは一定の距離を持って新しいシーンを作り上げていきました。

当時のメンバー、右端がウォーカーズ、左端がスティアー。

しかしリー・ドリアンといいビル・スティアーといい、美形ですよね。ハードコア界隈の人たちの危険な色気みたいなものを感じます。音楽的にはデスメタルに従来の欧州的な、それこそNWOBHM的なリフやギターソロを混ぜ合わせた音像を生み出しており、北欧メロディックデスメタル(メロデス)とはまた違った、UKならではのメロデスを生み出しています。ハードコア的な刹那のきらめきも感じさせつつ、単純にリフがカッコいいメタルの名盤。


さて、今回はテクニカルなもの、プログレッシブなもの、グランジに共鳴したもの、ハードコア寄りのものなど「きらびやかなヘアメタル」からはある程度距離を置いたものを紹介しました。冒頭のVaiはややヘアメタル的な要素もありますが、よりメタルシーンの奥に分け入ったアーティストたちを紹介したつもりです。何か惹かれるものがあれば幸いです。

それでは良いミュージックライフを。


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