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AIが作るメタル:Frostbite Orckings

AIによる画像の自動生成は一気に進化が進んでいますが、音楽生成も飛躍的な発展を遂げています。最近増えているのが「○○が○○をカバーしたら」系。「歌ってみた」「演奏してみた」をAIにやらせたバージョンですね。たとえば「SlipknotがMaster Of Puppetsを演奏したら」のAI生成バージョンがこちら。

かなりクオリティが上がっています。「なるほど」と思うレベル。きちんとしたスピーカーやヘッドホンで集中して聞くと多少変なところがありますが(一発生成なので各楽器の分離が悪い、解像度を上げると粗が出る)、知らずに流して聞いたら「本当にカバーしたバージョンかも」と思うレベルに達しています。

さて、今日紹介するのはこうしたAI生成で「ニューバンド」としてデビューしてしまったこのバンド。

バンドキャラクターもしっかり固定で可視化されていて、きちんとMVもあります。「メタルバンドがマーケティング的にやるべきこと」をきちんと全部やっている。MVを作っているし、リリックビデオもある。この映像も全部AIだと思うのですがクオリティがめちゃ高いですね。驚き。

バンドキャラクターのビジュアル

ついにはアルバムもリリースしました。公平に観るとそこまでクオリティは高くありませんが、インディーズの新人メタルバンドと考えると良質の作品です。基本的に新鮮さよりは「こんな感じか」という既視感の方が多いけれど、ところどころ転調の感覚とかリズム感とかが人間にはないセンスが出てきてちょっと面白い。

マーチャンダイズまでしっかり作っています。

フーディー、他Tシャツ類もショップにあり

これ、やっている人はStefan Schmidt(ステファンシュミット)という人で、1979年生まれのドイツのミュージシャン。自分でもギターボーカルをやっていて、ナパームレコードからデビューもしています。

こうして聞くと地続きというか、「同じ人が作っている音楽だなぁ」という感じ。ちょっと声質も似ているし。

今回の学習データは著作権に触れないよう、既存の楽曲からではなくスタジオでセッションミュージシャンと共に演奏し、そのデータを基にしているそう。なので、ステファン自体の嗜好性、作家性がある程度出ていると言えます。ぶっちゃけ、HEAVATARよりは今回の作品の方が洗練されているかも。まぁ、この曲10年前ですからね。

また、ステファンのより知名度のある活動としてはVan Cantoでしょう。アカペラ+パワーメタルという前衛的すぎるバンド。

ステファンはリズム隊、というか、後ろでミュンミュンウォウウォウダンダンダダダダンと言っている二人のうちの一人ですね。このバンド、さらに恐ろしいのが1発ネタではなくパーマネントなバンドで2006年から現在まで20年近く活動、アルバムも8枚出しライブもコンスタントに行っています。欧州メタルシーンにしっかり根付いたバンド。

AIによる学習、新曲というとある意味炎上しそうな要素も含んでいますが、一定の評価を得ているのはこういうバックグラウンドもあるからでしょうね。「AIによるメタルなんて怪しからん」と思っても、なにしろ15年以上アカペラメタルやってる人だし、今更ねぇ…。むしろ「メタルの境界線を拡張する」という意味ではもっとも極北にいるアカペラの人の新挑戦と考えると面白い。

AIによる生成物が味気ないものが多いのは機能だけで意味が薄いからだと思うんですよね。意味の作り方っていろいろありますが、本作はVan Cantoのステファンシュミットがやっているというだけで面白い。また、クオリティもしっかり高いのも面白いです。現時点では「ありがちなB級メタルバンドとして実在しそうなバンドを生み出す」ことには成功しているので、次は「AIを使う意味」というか、「人間には生み出せそうにない音楽」みたいな要素がもっと入ってくると面白いですね。でもこれ、AI使いこなし技術的にも凄いなぁ。

それでは良いミュージックライフを。

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