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Mizraab / Mazi Haal Mustaqbil

Mizraabは1997年に結成されたパキスタン、カラチのバンド。1999年のデビューアルバム「Panchi」はプログメタルというパキスタンでは馴染みのないジャンルながらヒットを飛ばしました。先日ご紹介したFaraz Anwarがリーダーのバンド。この人は本当に才能あふれる人ですね。もともとヌスラットファテアリハーンやVital Signといったパキスタン音楽界の大物たちのセッションプレイヤーとして活躍したのち、自分のバンドを組んでデビューした才人。このアルバムは2004年リリースの2ndアルバムで、Faraz Anwarのソロ作と同じく多彩なアイデアとジャンルにまたがる長大な作品です。多彩な分、ちょっと焦点がぼやけるところもありますが、「いっぱい曲が入っていてお得」みたいな時代がCD時代にはありましたよね。その流れを感じます。Discogに情報がないのでMetalllumで調べたのですが、配信サイト(Tidal)にあるのはデラックスバージョンなのかちょっと曲順が違いました。曲間のSEなどが追加されている様子。パキスタン伝統音楽や、隣接するカルナティック音楽(北インド伝統音楽)からの影響が感じられる独特な音世界。ソロ作よりはバンドサウンドな分、グルーヴを感じますね。なお、言語はウルドゥー語で歌っています。

スマホで聴きながら読みたい方はこちら(noteに戻ってくればYouTubeでバックグラウンド再生されます)。

2004リリース

★ つまらない
★★ 可もなく不可もなく
★★★ 悪くない
★★★★ 好き
★★★★★ 年間ベスト候補

1. Mayusee 09:11
ラジオをつけるスイッチの音、ノイズと共にナレーションと古い映画音楽、軍楽的な音が流れる
ノイズが続き、キーボードの音が響く、ギターが入ってくる
空間的なギター、Faraz Anwarだな
リズムが変わり、ややファンキーに跳ねる、リフが入ってくる
意外とミクスチャー的なスタート
歌メロはパキスタン的、ミクスチャーではあるが、節回しと、言葉の響きが違う
ふとムスクの香りを感じた、お香というか インドやトルコの香りを思い出す
記憶を呼び覚ますとはなかなか濃厚な音らしい、なにがそう感じるんだろう
何かギターの音色がちょっと焦げた感じがする、うーん、説明しづらい
歌メロが展開し、ラーガ(北インド音楽の旋法)のような、、、自由な音階になる
戻ってリフに、ヘヴィでミクスチャーなグルーブだが、全体としてはプログメタルか
音はややリバーブがかっていて古さはあるものの2000年代の音、それなりにモダンだしプロダクションもパキスタンということを考えると予想より良好
西欧のバンドに比べると低予算だと思われるが、パキスタン国内にはそれなりに録音スタジオがあるのだろうか
映画産業とか盛んそうだからな、映像もやっているバンドマンが多いようだし、それなりに設備は整っているのだろう
ギターソロはけっこう弾きまくっている、ツインリードなのだろうか
ドリームシアターの後、たくさん出てきたテクニカルプログレメタルの流れにあると思うがメロディが独特
あと、ギターソロの音色がちょっとスティーブヴァイっぽいというか、フュージョン系の音色
けっこう特徴的な音をしている
最後、同じリズムで同じフレーズをかなり繰り返す、酩酊的、ちょっとスペーシー、スペースロック的
★★★★☆

(1.Mayusee Outro)
花火の音が入っている、これ、metallumにあるアルバム情報と微妙に違うな
TIDALで聴いているのだが、SEやイントロなどが追加されたデラックスバージョンのようだ
効果音

2. Panchi 06:33
こちらもうねるようなリフ、ちょっとZeppの移民の歌のようでもある
Zeppも北アフリカ、モロッコのジャズーカとかの影響も受けているし、パキスタンにも通じるものがあるのかもしれない
この曲がZeppの影響下にあるのか、Zeppと同じルーツの「北アフリカ~中東音楽」にルーツがあるのか
リフとなんとなくのリズムパターン以外は似ていないけれど
歌メロが妙に親しみやすい、なんだろう、サビのメロディが日本人にも入ってきやすい
この曲は特にそれを感じるな、やはりアジア歌謡は何か通底するものがあるのかな
途中、飛び回るようなSEが入る
面白い音、やはりミクスチャー的な要素があるな
リズム主体ではなく歌メロはしっかりある
間奏部分で、リズムと妙なSEで引っ張るのは面白い、何か独特の酩酊感がある
カッワーリーの酩酊感にも通じる、あのコールアンドレスポンス、掛け合いはないけれど
パーカッションと手拍子でリズムが繰り返される、同じ波がグルグル回る感じがある、ややサイケ
★★★★☆

3. World Eterne 02:06
キーボードの和音の上で裏声の高いボーカルが舞う
インプロビゼーション的、カッワーリーの最初の主唱者のフレーズのような自由な音程
ハープのような、水面が波立つような音が入ってくる
ナレーションが入り、何かが割れる音、銃撃戦のような音、そこから水の中のような
鐘の音が鳴る、ニュースの光景だろうか
巻き取られるようにして音が消える
★★★

4. Meri Terhan 04:24
左右にゆれる音、虫の羽音のような、スティーブヴァイのFire Gardenにもこんな音色があったな
リズムが入ってくる、リフの半音階の移動などミクスチャー感
ボーカルが入ると急にアコースティックというか落ち着いたバラード、メタリカのナッシングエルスマターズのようなメタルバラード
こういうどっしりしたリズムのバラードはトルコのペンタグラムも時々出してたなぁ
ちょっとアップテンポになってきた、そこそこ軽快
曲展開がいろいろと詰め込まれている、若さも感じる
90年代のストリート、スケーター、ミクスチャー感
そこに2000年代のプロダクションと洗練も多少は加わり、さらにフュージョン的ギターとパキスタン的歌メロが載る
てんこ盛りで属性多いなぁ、どの曲も面白い
この曲はちょっと2000年代にしてはプロダクションが未整理かなぁ、ボーカルが小さく聞こえる
90年代的なプロダクションかも
曲は良い
★★★★

5. Janay Main 05:58
雰囲気が変わる、少し問いかけるような、ゆったりしたリズム
同じコードだがテンションがかかっている、すこしずれた和音の上でボーカルが入ってくる
コーラスになり、和音感が増す
美しいバラード、独特なメロディセンス
和音が整うパートと、不協和音というかずれているパートが交互に出てくる
彼らなりのグランジ、オルタナ感なのだろうか
2004年という時代を、パキスタンに住むアーティストはこう受け止めたのか
グローバルなメタル、ハードロックシーンと連動する部分も、当然オリジナルな部分がある
その衝突と融合が面白い
発声的にはボリウッドの、優しい歌い方をする歌手っぽい
高音でもあまり怒鳴る感じがないというか、伸びやかな声
ヌスラットのような太くて迫力のある声ではないが、優しさと洗練を感じる
★★★★☆

(6.Insaan Intro 6:56)
これもmetallumにはないトラック
…とはいえ7分近くもあるのか! 単なるインタールードではないな
後からいくつか曲を追加したバージョンのようだ
インストの曲のよう、快適に曲が進んでいく
このアルバムDiscogにも情報がないんだよね。
と思ったら歌が入ってきた、、、これ、普通にInsaanという曲じゃないのかな
別バージョン? イントロというより普通に曲が始まっている気がするのだけれど、、、。
曲としては良い出来、今までの流れを汲みつつ軽快に進んでいき、歌メロもフックがある
JUNOONもそうだが、たぶんリリースする地域ごとに微妙に曲目が違ったり、追加したりするようだ
昔はビートルズやストーンズもUS盤とUK盤と日本盤で曲が違ったりした
同じようなもので、著作権とかレーベルの管理とかが今の日本の感覚とは違うのだろう
これも何か、再発するときに曲を足したのか、おそらく「完全版」的なものなのだろう
同じアルバムなのに違うジャケットで違う曲目、とか、そういうのが普通にある
うん、聴けば聞くほど普通の曲だな、というか、これがInsaan Introだとすると次のInsaanというのはどういう曲なんだ?
もともと組曲だったんだろうか
プログレ風味のメロハー、といった曲
★★★★

6. Insaan 06:40
同じモチーフ(メロディ)が続いているように感じるがちょっと雰囲気が落ち着いた
前奏部分は前の曲のメロディを引き継いでいるようだがキーボードがフレーズ奏でる
ギターフレーズが入ってきた、うーん、同じモチーフのように聞こえるなぁ、リズムパターンも同じだし
introじゃなくて別ミックス? どうも、同じ曲だなぁ…どういう意図なんだ?
登録するとき曲データのアップロードを間違えた可能性もあるな、たぶん、自分たちで登録してるし
そういうものですよ、一部のビッグバンドを除いたバンド運営って
うーん、微妙に違う気もするが、、、これは何度か聞き比べないと分からないなぁ
一聴したところ同じ曲、サビの歌メロは同じ、ボーカルトラックもたぶん同じ、節回しに覚えがある
ちょっとベースがこっちの方が強い、、、かも
間奏のギターソロは少し違う、、、のかな、意図してこの構成なのか
ボーナストラックではなく別バージョンをアルバムの中に連続しておくというのはなかなかアグレッシブというか、他に見ない構成だな
まぁ、デジタル配信の場合、自由に再生曲や順番は編集できるしね
アレンジは細部が違う気はするけれど同じ曲なので同じ評価
★★★★

7. Aag 05:43
ヘヴィなリフ、ゴリゴリと攻めてくる、中期ドリームシアター的(トレインオブソートとか)な
音圧が減り、キーボードが一瞬空間を埋めたらまたリフが戻ってくる
これはミクスチャー感は薄くメタル感が強い
ボーカルは歌い上げる、揺れるアラブ的、(トルコの)ペンタグラムにもこういう曲があったな
途中からやはり独特の酩酊感、同じフレーズをリズミカルに繰り返す、反復による酩酊効果が出てくる
そうか、でもこのアルバムが2020年にTakatakに繋がっていくんだな
間奏はベースがけっこう前に出てくる、ドラムも手数が増える、タブラぐらい細かい
この曲は間奏で楽器隊が生き生きしてるな、歌メロ主体ではなく楽器隊主体の曲という位置づけか
ソロバトル、各楽器の見せ場がある、一通り披露してリフに戻る
★★★★

(8. Kitni Sadian intro)
これも追加トラックのよう、数十秒、和音が続くだけなので本当にイントロ

8. Kitni Sadian 06:33
アコースティックギターとボーカル、ボーカルは高音で美しい
メロディも古典音楽的、パキスタン古典音楽はカッワーリーぐらいしかきちんと知らないのだけれど、インド音楽的
ダンスではないボリウッド、インド的バラード
手拍子が入ってくる、これで主唱者と合唱者が掛け合いを始めたらカッワーリーだな
歌メロはそれほど自由な、即興的・カッワーリー的ではなくポップ
ボーカルがところどころで音程が揺れるのが面白い
音がとにかく爽やか、この人の作るメロディは透明感がある
A.R.ラフマンのソロアルバム(映画のサントラではない作品)にも同じ空気を感じる
コード進行自体は西洋的というか、プログレ、ジャズ的なものも取り入れられている
ギターオーケストレーション的なソロ、ボーカルが少し掛け合い感が出てくる
これはカッワーリー的な構造を少し取り入れた曲だな、手拍子も入るし
カッワーリーはコーラス、歌唱者が手拍子を叩き、それがパーカッションと混じって酩酊感を出す
でも、本当のカッワーリーに接近しすぎるとUstar Rahad Fateh Ali Kahnとか、カッワーリーのトップ歌手と比較されるからほどほどの距離感なんだろうな
★★★★

(8. Kitni Sadian Outro)
こちらも追加トラック、数十秒海の音のようなものが聞こえる、心地よい音

9. Muntazir 05:23
キーボードの響きからソロへ、Vaiのパッションアンドフォーウェアやセックスアンドレリジョンにありそうな音
これはなんというかコード進行、歌いだしも少しVai的
ギターソロ、間奏は開放感がある
ちょっと揺れるような歌メロだがパキスタン感はちょっと少ない
やりたかったことは分かるし悪い曲ではないがオリジナリティはちょっと薄いかも
ギターソロは耳を惹く
★★★☆

10. Akhir Kyun 07:18
風が吹く音、30秒ほど続く、けっこうSEの使い方が大胆というか、やりたいことをやりきっている感じ
うねるようなギターリフが入ってくる
そこからアコギになり、揺れるボーカル、かなりアラビックなメロディ
こういうアラビックなメロディをやるときはやはり西欧のバンドより堂に入っていて迫力がある
当然ながら付け焼刃ではない、発声法や節回しとリズムが自然
じっくりと進んでいく、独特のヘヴィネス
ただ、ちょっと娯楽性には欠ける、歌メロに説得力はあるもののフックが弱い
リフとの相性があまりよくないのかな、ドゥーム的、酩酊感はあるのだけれど
ちょっといままでの曲の流れ的には浮いているというか
これこそコーラスとか手拍子とか、カッワーリー的な手法で後半盛り上げてほしかったなぁ
★★★☆

(11. Kuch Hai intro)
こちらも追加トラック、2分弱のイントロのようだ
なんだか左耳に少しノイズが入る、意図的なのか、あるいは単にヘッドホンの接触不良なのかな
キーボードに対して歌声、3曲目とほとんど同じ構成に聞こえる
同じ曲?

11. Kuch Hai 06:40
ややインダストリアルな音、リズムの反復
リズムはカッワーリー的、ループする
ボーカルが左右に揺れる、インプロビゼーション的
電化したカッワーリーという始まり方
音が近づいては去っていく、声と風の中間のような音が響く
女声が息を切らせて走る息遣いが聞こえ、曲が始まっていく
アコースティックな世界観、ドラムが入ってくる
やはり瞑想的、揺れるボーカル
ギターが入ってくる、その世界観からプログメタルへ、自然と緊張感が高まっていく
またアコースティックな音像に戻る
ボーカルが歌詞と共にメロディを歌いだす、これは本当に祈りの歌(カッワーリー)なのだろうか
そうした荘厳な雰囲気を演奏と歌メロから感じる
だんだん曲が展開していき西欧的なサビが出てきた
フラメンコ的なギター、そういえばパーカッション、何かを叩くような音がずっと続いている
ジプシー的な、即興音楽的な感じも受ける
聖廟で歌う音楽も感じるが、焚火を囲んで歌うような
ここから西欧音楽的なサビにつなげるのは見事
アコギの速弾き、フラメンコ的、これはさまざまな音楽要素が混じっている
この曲はmetallumのクレジットだと6:40だがこのバージョンは8:47になっている、別バージョンというか完全版のようだ
面白い曲だなぁ、輪唱や合唱がもっと出てきてほしいなぁ
男声、女声の絡み合いは出てくるけれど輪唱はあまり使われない
カッワーリーより北インド音楽との共通点を感じる
★★★★☆

(12. Izhaar intro)
すぐ終わる、右から左にノイズが駆け抜けていくようなイントロ

12. Izhaar 03:28
メロコア的な音像、ここでメロコアか! 後半はバリエーションが凄いな
これ、もともとのmetallumのバージョンに比べると20分ぐらい増えている
本当にサビまでメロコアだ、まぁ、ライブのアンコールで盛り上がって終了、みたいなノリなのだろう
★★★

全体評価
★★★★
いろいろなアイデアが盛り込まれていて面白い、好き放題やっている感じ
Faraz Anwarという人はさまざまなアイデアが湧き出てくるのだろう
そこにパキスタン音楽、中央アジア音楽という要素が組み合わされることでオリジナリティを得ている
ただ、一つ王道の「勝ちパターン」みたいなものはやや弱いかも
2020年のソロ作でも感じたが、長尺でさまざまなアイデアを盛り込むのは素晴らしいのだがやや散漫にも感じる
パキっとアイデアを絞って、完成度を高めると凄いアルバムを作りそうなんだけれどなぁ
好きな要素がたくさん入っているし、聴いていて楽しいから何度も聴きたいアルバムだが完成度が今一つ
この盛りだくさんな感じが今聴くとかえって新鮮だったりするが

ヒアリング環境
夜・家・ヘッドホン

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