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新しい音楽頒布会 Vol.18 Periphery、Haken、NanowaR of Steel、Insomnium、Steel Panther

Periphery/Periphery V: Djent Is Not a Genre

2005年にUSで結成されたペリフェリーの5作目。Djent(ジェント)と呼ばれるサブジャンルのパイオニアとされており、本作も「Djentとはジャンルではない」というタイトルを掲げています。Djentとは擬音語(オノマトペ)であり、特徴のあるギター音(ハイゲイン・パームミュート・ダウンチューニング・ピッキングハーモニクス等を活用した金属的な音)を特徴としますが、音楽性的にはメタルコアに隣接(というかほぼ内包)されています。テクニカルで変拍子が多いメタルコア、と言ってもいいかもしれない。静と動、グロウルとメロディアスなクリーンパートの落差、2010年以降メインストリームシーンで活躍するメタルコアバンドの常套手段ともいえるパターンですがパイオニアだけありさらに進化・深化した音作り。スキゾフォニックともいえる奇天烈な展開を続けますが一つの曲というか音絵巻として完成されたアルバム。込められたアイデアと情報量が膨大です。


Haken/Fauna

2020年代のUKプログシーンを牽引するヘイケンの新譜。2007年に結成され本作が7作目。メタリックな質感はギターのエッジや歌唱法にやや残っているもののアルバム全体で言えばメタル色よりは「プログレッシブロック」への接近が多い。Peripheryと同時期に出たので比較すると余計そう感じるのかもしれませんが。現代プログメタルの主流ともいえるDjent的な語法(ギター音)も取り入れつつメロディには英国的な抒情性がにじみ出ています。かといって予定調和の退屈さはなく達人の域に達しつつある独自の音世界。一つ一つのパート、一つ一つの音の説得力があります。


NanowaR of Steel/Dislike To False Metal

飛び道具系が多いナパームレコードの中でももっとも飛び道具色が強いバンド、イタリアのナノウォーオブスティール。突然アルバム全編イタリア語歌唱となった「Itallian Folk Metal(2021)」以来2年ぶり7枚目のアルバム。本作では英語歌唱に戻っています。イタリア語のメタルって珍しいんですよ。イタリアのメタルバンドってけっこういるんですが基本的に英語。70年代に勃興したイタリアンプログレシーンがほぼイタリア語だったのに比べるとなぜかメタルシーンはほぼほぼ英語なんですよね。なぜなんだろう。本作もさまざまなジャンル、ネタが豊富で最近のドイツ~北欧メタルで力を増しているディスコメタル調の曲だったり、ヴァルハレルヤで自らが切り開いたコメディアスなクワイアコーラスパワーメタルだったりアイデアの宝庫。ボヘミアンラプソディまで組み込んだ壮大なパワーメタル曲「The Power of Imodium」は力作。ほかにも本家サバトンのヨアキムを迎えたウォーメタルのパロディ曲(サッカーの曲になっている)など、前作で磨いた「フォークメタルっぽい音階(バイキングっぽいんだけどちょっとイタリアン、カンツォーネ的な歌い上げる歌唱法が混じった彼ら独特のもの)」がふんだんに取り入れられて曲の質も向上しています。



Insomnium/Anno 1696

1997年にフィンランドで結成されたインソムニウム。本作は3年ぶり9枚目のアルバム。外科医や大学講師が在籍するバンドであり、基本的にインテリなバンド。学生時代から活動を続けているメンバーも多いので大学のメタル同好会のバンドがそのままプロになったノリなんでしょうか。聖飢魔Ⅱとかもそうですよね。その後メンバーチェンジを経たり、デビューして年を経るにつれてプロフェッショナル化していきますが、「ミュージシャンとしての生活」だけでない視点、知性を感じるバンド。歌詞は英語ながらフィンランドのフォークミュージックというか民族色を感じるメロディ。北欧らしい荒涼と吹きすさぶ感覚がありつつ、どこかほのかな温かみがあるのがフィンランドらしい(ノルウェーはもっと寒々しい)。アルバムのテーマについて、全曲の作詞を担当したニーロセヴァネンいわく「Anno 1696は、フィンランドの歴史におけるこの暗黒の章を扱うと同時に、狼男を題材とした物語の一つである、アイノ・カラスの伝説的なフィンランドの小説"スデンモルシャン"に敬意を表している。これはフィンランドが生んだ最高の小説だ。この小説はとても暗くて悲劇的なトーンを持っていて、俺の物語を書くときにそれを捕らえたかった。」とのこと。劇的にめまぐるしく展開していくというよりゆったりと長尺のドラマをしっかり描き出していく感覚。ドラムもむやみと手数がなく落ち着いている曲も多い。ペイガンフォークに近い雰囲気も。


Steel Panther/On The Prowl

お下劣番長スティールパンサーの新譜。80年代のグラムメタルの華やかさと毒々しさを現代に忠実に伝える楽曲。ライブで観るとめちゃくちゃ演奏がうまいんですよ。パロディやエンタメとして次々と「これぞグラムメタル」的なネタをぶち込んでくるんですがどれも卓越した演奏力があってこそ。結成2000年、デビュー2009年なので比較的若手のバンドのようにも思われますがもともとLAガンズに在籍していたこともあったり、80年代から活動するベテラン(アラ還)が中心メンバー。プロとしてコピーバンド、パロディバンドを演奏していた経験も長く苦労人です。「モノマネ芸人」とか「プロのコピーバンド」で知名度を得て、ついにオリジナルとしてデビューしてブレイクした、みたいなイメージでしょうか。曲としては爽やかなグラムメタルなんですが歌詞がとにかくお下劣。もともとモトリークルーなんかも決して上品ではない性的な歌詞が多いわけですが、スティールパンサーはもっとひどい。ただ、そんな彼らが青春時代を振り返った「1987」は比較的まじめな歌詞。当時活躍していたバンドや曲名を出しつつ「男性が女性よりも口紅をつけていた時代」などちょっと皮肉も込めています。アルバム全体として見ると2020年代にリリースされるグラムメタルとしては一ステージ違う本物の凄みを感じる作品。7曲目の「Is My Dick Enough」(ひどい歌詞笑)にはフランクザッパの息子であるドゥイージルザッパがゲスト参加。


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