日本語の超重音節と押韻論

 こんばんは。Sagishiです。

 今回は新しい押韻論の構築にむけて、現在導入中の理論をまとめていきたいと思います。


1.日本語の超重音節

1-1.CCVG/CCGVG

 これまでわたしは「日本語には超重音節(3モーラ音節)はない」という前提で押韻理論を組み立ててきましたが、どうもあるという前提で組み立てたほうが良さそうだと分かってきました。

 その理論的証拠としては、単語の句音調を確認することで分かります。

白菜[hȧ.ks'ȧı]

 「白菜」という単語の句音調は「サ」に起こっています。これはつまり、直前の「ク」が無声化母音になっており、Onset化しており、句音調が第3モーラに移動していることを示しています。

 よって「白菜」の音声は[hȧ.ks'ȧı]となり、CV.CCVG構造、2音節目は超重音節ということになります。「白菜」は4モーラ2音節の単語です。このように日本語では超重音節が生じることがあります。

 超重音節に関する理論的支柱については、教ロさんの資料を参照ください。

新しい日本語ローマ字の提案

P33-38を参照


1-2.超重音節のrhyme


 しかしそうなると、「白菜」と音節境界やイントネーションをきっちり揃えて韻を踏める単語というのは、どれくらいあるのでしょうか。

白菜[hȧ.ks'ȧı] NNNN
扱い[ȧ.ck'ȧı] NNNN
悪態[ȧ.kt'ȧı] NNNN
悪妻[ȧ.ks'ȧı] NNNN
学祭[gȧ.ks'ȧı] NNNN

 基本的には超重音節になるペアを見つけるのは大変だと思いますが、この例は結構ありますね。「白菜/悪妻/学祭」あたりで踏むと、非常に豊穣かつ硬質な押韻になりそうです。

 他にもいくつか日本語の超重音節の例をあげておきますが、以下のようなものが簡単に思いつきますね。

副菜[fu̥̇․ks'ȧı] C.CCVG
倶知安[ku̥̇.Cʸ'ȧn] C.CCVG
スキャン[skʸy'ȧn] CCGVG


1-3.モーラリズムと超重音節

 というように、超重音節を押韻理論のベースに配置する必要性を要求されています。たしかに重要な事実ではありますが、しかし、日本語はモーラリズムの言語であり、3モーラ音節が存在するからといって、4モーラ2音節の単語と4モーラ3音節の単語の発話時間長には、有意な差は基本的にありません。

 どういうことか。韻律規則において重要なのは、基礎韻律単位だということです。次のような押韻ペアがどう許容されるかを考えないといけません。

白菜[hȧ.ks'ȧı] NNNN
角材[kȧ.k'u̇.zȧı] NNNN

 「白菜/角材」のペアは、音節境界が異なり、かつ句音調の位置も異なるため、響きは減衰しています。しかし、響きが皆無というわけではありません。このペアに「rhymeできていない」という評価を単純にくだすのは、そう簡単な話ではありません。事実、

白菜[hȧ.ks'ȧı] NNNN
扱い[ȧ.ck'ȧı] NNNN

 「白菜/扱い」のような音節境界が揃い、句音調の位置も揃うペアだとしても、子音の同質性が低ければ、響きが「白菜/角材」>「白菜/扱い」という評価になってもおかしくはないです。

 このようなことが起きるのは、日本語がモーラリズム言語であり、音節を認めるとしても、基礎韻律単位はあくまでモーラにあるからだ、ということがいえると思います。


まとめ

 以前の記事で、日本語は二重韻律構造であるということを書きましたが、

 長短韻の記事で書いたように、日本語においては音節よりもモーラのほうが何らかの観点で優越することがあるのだということ、モーラの基礎韻律単位としての重要度が高いことに改めて気づかされました。

 よって、これから製作する日本語の定型詩は、音節ではなくモーラをベースにした構造にするべきだといえると思います。これは非常に重要な気づきになりました。

詩を書くひと。押韻の研究とかをしてる。(@sagishi0) https://yasumi-sha.booth.pm/