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とくべつになりたかったひつじのおばさん

※しらちゃん原作の「しあわせになりたかったぶたくん」のサイドストーリーとして書きました。他記事で原作の朗読動画を紹介しているのでそちらをご覧になってから読んでいただけると、より楽しめると思います。「自由になりたかったひばりちゃん」という別のストーリーも書いています。


ひつじのおばさん「め〜、ぶたくん、ご機嫌いかが?」
ぶたくん「ご機嫌は、あいかわらずモヤモヤだよ。おばさんは声も綺麗だし、編み物だってお手のもの。才能ある人はいいよね。それに比べて僕は‥」

ぶたくんは言いましたが、ひつじのおばさんにはピンときません
(わたしなんて、編み物が好きなただのおばさん。こんな私のどこがいいのかしら?ブタくんの方がよっぽど個性的だわ〜)
そんなことを思っています

今日も編み物をしているひつじのおばさん
今作っているのは、なべしき
曼荼羅もようのまる〜いなべしき
たくさんの色で編む、とても時間のかかる編み物
簡単なものも好きですが、最近のおばさんは
難しいものを編みたい気分

「これが完成したら、どんな気持ちになるかしらね。楽しみだわ〜」
あたまの中で思い描いたイメージが実現するのを想像してうっとりしています
少しずつ少しずつ編み進めていきます
完成に近づいた時、網目が一つずれているのに気づいてしまいました
「あら〜。間違えちゃったわ。どうしましょう。ここを治そうと思ったら全部治さないといけないわね。やり直しだわ〜」
編み物歴のながいおばさんは失敗にも慣れた様子
複雑な配色のなべしき。手際よく編み物を解き、また編み始めます
ところが何度編み直しても、途中で間違いが見つかってしまいます

「なんでかしらね〜。いつもはこんなことないのに」
そんな時、間違えた編み物から声が聞こえてきました
なべしきさん「いい感じね〜。その調子よ〜」

「なべしきさん!?あら〜。なんでいい感じなの?失敗しているのに」
「うふふふ。それはね〜、言えないわね〜。うふふふふ」
「意地悪ねぇ。どうしたらあなたを完成させられるのかしら?」
「編み続ければ分かるわ〜うふふふふ」
それきり、なべしきさんは喋らなくなってしまいました
「不思議ね〜。私が作ったものが喋るなんて。でも編み続ければいいのね」
そういって、また新しくなべしきを編み始めました

それから何度も何度もなべしきを編み直しますが一向に完成しません
何度編み進めても途中で間違いが見つかるのです
「これはダメね〜。何か他のものを編んでみようかしら」
そう思ったおばさんが選んだのは、今まで何度も作ったことのあるドアノブカバー
あっという間にできあがりました
「あら、できたわ〜。ちょっと失敗しやしないかと心配していたのよね〜」
そうするとドアノブカバーが喋り出しました
「いい感じよ〜。その調子。」
「あら〜。ドアノブカバーさん。声がなべしきさんと一緒だけど?」
「そうね。私はあなたがつくった編み物そのもの。あなたの分身とも言えるわね〜」
「あら〜。そうなの。なぜドアノブカバーが出来たのがいい調子なの?こんなの簡単よ。」
「そうかしら?そう思うなら私を持って外に出てごらんなさい」
そういって静かになるドアノブカバーさん
なんだかよく分からないまま外に出てみるひつじのおばさん

すると、ドアの外には仲間が大勢集まっていました
「あっ、やっとでてきた」
「心配してたのよ。何をしていたの?」
「何日も出てこなかったんだから」
心配そうな顔が並んでいます。
「ごめんなさい。私どれくらい外に出ていなかったのかしら?」
「3日間だよ。毎日絵本の読み聞かせをしてくれているのに寂しかったよぅ」
そう言って泣くのは猫の三兄弟の姪っ子、子猫のミーちゃん。

「あらあら、ごめんなさいね〜。編み物に夢中ですっかり時間を忘れていたの。許してちょうだいね」
「心配したんだから。私のこと嫌いになったのかと思って」
「そんなことあるわけないじゃないの。おばさんはミーちゃんが大好きよ」
「私もおばさんのこと大好き。絵本を読む優しい声も心地よくて大好き。おばさん、その手に持っているドアノブカバー私にくれない?」
「あら〜。何に使うのかしら?みーちゃんドアノブカバーが欲しいの?」
「私のナイトキャップにしてもいい?おばさんの編み物ってとっても柔らかくて優しい感じがするの。他の誰が編んだものとも違うの」
「ありがとう。よかったら使ってね」
嬉しそうにドアノブカバーを抱えるミーちゃん

途端に眠気が来たのが部屋に戻ってベッドに突っ伏すひつじのおばさん
夢現の中で、曼荼羅のなべしきさんの声が聞こえます
「お分かり?」
「何がかしら〜?」
「も〜鈍いわね〜。あなたは平凡なんかじゃないってこと」
「でもあなたは完成させられなかったわ」
「それはね。あなたが難しいことをしないととくべつじゃないと思ってたから。
自分をとくべつでないと思っているあなたが、とくべつだと思っている私を創ろうと思っても失敗するに決まってるじゃない」
「そうだったのね〜。私なんかと思って難しいあなたを創ろうとしてたのね」
「あなたが何気なくやっていることは、普通のことじゃないの。とってもとくべつなことなのよ。3日間眠らずに、何も食べず飲まずに編み物に集中できるなんて、とくべつ以外の何者でもないわ。そして何気なく創っているドアノブカバーもね。」
「そうだったのね〜。ぜんぜん気づいてなかったわ」
「やっと気づいたのね。じゃあまた私を編んでごらんなさい。うふふふふ」
いつのまにか、ひつじのおばさんは深い眠りについていました

ぱっちり目が覚めて、元気一杯のひつじのおばさん
夢かどうか分からない昨夜のことも覚えていません
ですが、自信満々で曼荼羅を編みたい気持ちだけがあふれています
今度は一度も失敗せずにすばらしいなべしきが完成しました
「思ったとおり。とっても綺麗だわ〜」
うっとりするおばさん。
「いけない。み〜ちゃんに絵本を読んであげなくちゃ」
そういって、急いで出かけるひつじのおばさん。

机の上のなべしきは、嬉しそうに光り輝いているようでした

おしまい

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