音階と透明な歌声、それから美しさについて
さても、不思議なことだ。
透明な歌声は、空を見上げてそう言った。身体にあっているのに、不思議と窮屈そうじゃないスーツに身を包んでいる。誰もいないのに跫がするじゃないか。
ぼくは昏がりに目を凝らした。確かに誰もいない。透明な歌声はそちらをじいっと見て、眉毛を下げて小さな息を吐いた。野良猫がさっと横切って、またどこかの庭に入っていく影。
アスファルトはひどく昏く冷たい。夜の闇に陰影を孕まさせられた躑躅たちがこちらを見て揺れているけれど、同情する時間も余裕もあいにく僕にも透明な歌