ことばや

矢島です。言葉売りをしております。 音楽や小説や詩などを書きます。 お仕事依頼は wo…

ことばや

矢島です。言葉売りをしております。 音楽や小説や詩などを書きます。 お仕事依頼は wordstore.official@gmail.com まで。

マガジン

  • 詩のようなものもの

    自分で書いたものの中の、詩のような短いものです。シとはいうものの、死的ではなく、ですが私的に近いものではあります。恣意的かどうかは想像にお任せします。

  • よろこびのたね

    ちいさなことばたちです。 詩にも散文にもならない、ちいさなことば。 読む人の喜びの種になることを願って。

  • 小説

    今までにnoteに投稿した短編小説のまとめです。

最近の記事

  • 固定された記事

洋酒町は今日も晴れている

 洋酒町の駅を降りて、小汚いまちかどや美しい植え込みの脇を通り過ぎた先にその雑居ビルはある。建てられてから既に七十年近くが経っているそのビルは洋酒町の中でも特に細くて静かな路地にあり、そのビルの中で《いちばん屋》は営業している。  恩田詩織はビルの入り口に立って、目の前にそびえ立つ古い建物を見上げていた。ビルの入り口には幅の広い階段が数段あり、その先に昔は透明であったであろう観音開きの硝子扉が居眠りするように閉まっている。奥には老い寂れた緑の公衆電話の棲むロビーと、その向かい

    • ラザーニャ・アル・フォルノは美味しい

      玻璃は春琴を見つめる。 愚かなあなた、というわけだ。 それで? 仕事をして稼いで それからそのお金でどうするの? どうもしないさ。 金は安心を買うために存在してる。 今日はふたりきりだ。 バルコニーには波音と午后の 美しい日差しが勝手に攀じ登ってきていて 春琴と玻璃の目を楽しませようとしている。 ひとびとは見る必要も興味もないものばかり スマートフォンから摂取し続けてるわ 誰かの私生活。 大量にアップロードされては スクロール、消費されてゆく 誰かの加工された私生活

      • それは単に彼が感傷的になりすぎているという

        他者を審判する時だけ みんなお得意の調子なんだから。 ひとは宗派が違うひとの考え方を 否定しなければ自己崩壊するって信じ込んでる。 玻璃はうつむきがちに言った。 その声には何かを恨んでいるような 強く憎んでいるような調子さえ含まれている。 問題はその厳しい戒律を ひとに押し付けたい人だって 角度を変えて見れば 同じようなことをしているってことよ。 人間なんて五十歩百歩じゃない。 まあ、それをアイデンティティとも呼ぶのさ。 春琴は開襟シャツを指でつまんで ぱたぱたと

        • 転寝の隙間

          めそめそと泣いて泣いている理由なんて ムスカリの花が搖れてたとえ一瞬閒だとしても 世界に殘す薄紫の滲んだ翳を眠たそうに見る ねえ 釣鐘草? 鐘の音を聞かせてよ 森が霧に包まれていて包まれていて きっと溫度が高すぎるんだ 著莪のやうな優しさがあなたの心の奧に そっと咲ゐてひるそれは ぼくの淚を呼び起こす 主人が餌で飼い犬を呼ぶやうに 蓮華躑躅の美しさはまるで炎のやうヂャなゐか 匂いが濃くなっていく しかし濃くなっても仕方なかろ 誰も嗅ぐ者のいないやうヂャね 生きてみ

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        洋酒町は今日も晴れている

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          126本
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          30本
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          69本

        記事

          休むタイミング

          にこにこできなくなってきたら 休むタイミング なのです 自分の機嫌は自分で取るのです

          休むタイミング

          猫背な寒芍薬

          銀河の匂いがする漆黒に昏い夜 植物たちは 濃密に ひそひそ話だ。 短歌の母が末期癌の友人の話をしている。 相槌以外の慰め方を知らない短歌は ただ話を聞いている。 短歌の住むのは小さな町だ。 この小さな町に生まれたことにすら 意味があるんだと最近は思う。 小さく 美しい町。 この小さな町は人口一万人に満たない 自然の多い、古ぼけた町で 町自体の小ささに反して空はやけに広い。 短歌は古本をいつもポケットにいれて 時々酔っ払って、時々シラフでこの町を歩く。 昔はこの町が大嫌

          猫背な寒芍薬

          音階と透明な歌声、それから美しさについて

          さても、不思議なことだ。 透明な歌声は、空を見上げてそう言った。身体にあっているのに、不思議と窮屈そうじゃないスーツに身を包んでいる。誰もいないのに跫がするじゃないか。 ぼくは昏がりに目を凝らした。確かに誰もいない。透明な歌声はそちらをじいっと見て、眉毛を下げて小さな息を吐いた。野良猫がさっと横切って、またどこかの庭に入っていく影。 アスファルトはひどく昏く冷たい。夜の闇に陰影を孕まさせられた躑躅たちがこちらを見て揺れているけれど、同情する時間も余裕もあいにく僕にも透明な歌

          音階と透明な歌声、それから美しさについて

          夜の散歩の文章

          傷だらけになって 敵も味方も作って 血を吐くように 花を吐くように 書いた言葉は呪いか祝いか のろいもいわいも おなじことか しずかな夜半に 電灯のひかりに陰影を孕まされながら 群生した躑躅が こちらを見て揺れている しんしんと睡って 起きた日の夜は すこおし 柔らかくて こわい どうせ死ぬのに また書いている 膨大に遺して 一体 なにになると? 意味など求めずに 紡ぐ糸は いずれ 一枚の美しい布を生み出す 肌寒い日に ひとを暖める布を パリ郊外の町のことを思う 日

          夜の散歩の文章

          日記230420

          曲を作って 言葉を書いて 本を読んで そして死んでいく 金を稼いだり 稼がなかったり 高級ホテルで寝たり 野宿したり いろんな夜を通り過ぎて ひとは死んでいく 葉っぱがきれい 陽光に透けて 花萌葱色の 光線 世界は美しくて 目を細めてしまう 眩しい街路から 初夏の白茶けた あわい匂いがする あのひとのつくった曲 とてもいい曲なのだけれど だあれもしらない それが ただ 間違ってるとか正しいではなく さみしいんだ わたしたち だれもしらない美しさが 人知れず朽ちて

          日記230420

          さよならの詩

          価値がわからないのなら とりあげてしまうこと うしなってから すきだすきだと見苦しい たいせつにできなかったのは あなたのほうじゃない? 大切にできる人にだけ あげる わたしのこころ 泣くくらいなら たいせつにすればよかったのに ほらまた 過去を取り戻そうとして 今を蔑ろにしてる わたしは もうたくさん泣いたから 今になって あなたのためには  一粒だって 泣いてあげない さようなら もうわたしには 指一本もふれられないひと 機会は幾度もあげたのに ばかなひと ほ

          さよならの詩

          おれは

          おれは スピってて ヘラってて 超変わってて 独自のルールがあって 面倒くさくて 感度が高くて すぐ泣くし笑うし怒るし 繊細で 社会不適合者で どこのレコード会社にも 作家事務所にも マネジメントにも 所属したことはない そもそも声もかけられない 超無視されてる 超シカトだ グループはみっつやって ぜんぶ最悪に解散したし 音楽でも言葉でもぜんぜん食えない でも天才とはめっちゃ言われる ミュージシャンや尊敬するクリエイターには 天才に見えるらしい まだぜんぜん食えないけど

          ということ

          刮いだ意図の縒った繊維 誰かの天使だったあの人 泣けない朝に 窓越しのひかりを 窓越しのひかりを見ること たぶんだけど 陰影の作り出す図形に 意味ではなく美しさを見出して お下がりのエムエーワンを着てること 抽象的な曲線を持つウンベラアタ 花の蜜に似たゲヴェルツの話 ユキヤナギをゆびさきで愛でながら ひたひたと温度を飲み続けること この社会は生き辛くて そんなもの ずっと昔からで 今更 死ぬほどのことでもなくて ただ そばにいると あなたのそばにいると いつもよりは息が

          ということ

          鍵付き日記から破れた一葉の

          硝子の破片が流入してくる きらきらできれいです 創作 からくり屋敷 遊園地 執着と情念 なみだする女たち くらくら 髪のかかった目は うすい ブラウンでした ひだまりがふかい湖みたい 検索窓 から 見える景色なんて たかがしれてません? 靴下のゴムがすこしゆるいよ 吐息の音、ん、すこし無音ね 饒舌すぎると 多すぎるの 情報量と 滑舌のぶつかる回数 ちくちくしてる むね 入っていいよ すこしだけね びいどろに 夕焼けが刺さって じゃくじゃくと 再解釈されます きれいねえ 

          鍵付き日記から破れた一葉の

          殺意の夜のあとに

          書きかけた文字の 影が揺れる朝 千切れた 悪夢の 残像 薄く残った アルコールの馨り 移り変わる場面 賽子の面のよう 見違えるように咲く徒花の ちぐはぐな色合いのはなびら 花芯の 熱 ゆすいだくちもと 与えられたものに  与えられているものに 視点を 固定している 白く霞んだ 夢の町 あの角を曲がった先の 香木 馨る 日本家屋の軒先で あのひとが待ってゐますゆゑ 話し聲 くぐもった 壁越し 淫靡な 気怠さ 首を反らして 吐き出した吐息がぽかりと 浮かんで 白熱電灯にな

          殺意の夜のあとに

          とびらをたたくけだもの

          強いものは優しく 優しく微笑む 人のために生き 怒りを飼い慣らし 己を躾けて ただ微笑む 暗がりから来た 偉大さを求めて 安っぽい狂気と一緒にしてくれるな ひとやじぶんを傷つけ殺して 歯を折り 骨を折り 皮膚を裂く程度で じぶんのちからを見せつけられたなどとは 思えるはずもない 血と誰かの平伏などで 氣の済む程度の安物じゃないのだ そんなちっぽけなものたちと一緒にするな 腹の減ったけだもの よだれをたらして狂気に取り憑かれていた あの頃から 変わらずに 偉大さを求

          とびらをたたくけだもの

          からくりにんぎょうはおどる

          たらら、たらったら レコオドの針 首をすこしまげて 踊るかたちでまわる人形 ワインすらない夜には でたらめなダンスをして 黄色いドレスを着たつもりで 壊さぬように 壊れぬように そうっと踊っていたのに 月光溜まりに足がつかって  あなたの涙に似たぎんいろのひかりで くつしたがぬれてしまつたよ 怒らないでとみんなが言うよ 怒らないよ 怒ってないよ 大丈夫だよ たらら、たらったら 覚えたてのステツプを踏む かげぼうし ふうけいをとったら 写真の加工をほどこして 色鮮やか

          からくりにんぎょうはおどる