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『青ブタ』から学ぶ物語の大転換(ターニングポイント)!!

はじめに

以前にも構造解析noteにて『青ブタ』は取り上げていますが、今回の構造解析では、別の切り口で分析を試みていきます。

前回の内容と重複することはありません!

また本noteからご覧になってもまったく問題ありません!
(前回は「ラブコメ」を書くには、という視点で分析しました)

今回は1巻以降(〜第4巻まで)についても構造解析を行い、『青ブタ』で鴨志田一先生がどのように魅力的にキャラクターを、ストーリーを語っているのかを分析していければと思います。


思春期症候群=怪異?

『青ブタ』は『化物語』と非常に似た……いえ、「同じ」構造を持っています。

何も僕はここで『青ブタ』が『化物語』のパクリである、ということを証明したいわけではありません。

商業作家の技術を抽出することで、あなたでも『青ブタ』クラスの「読んでいて楽しい」ライト文芸が「書ける」ようになって欲しいのです。

『化物語』
主人公:阿良々木暦(普通)
ヒロイン:戦場ヶ原ひたぎ(優等生クール)
理解者:羽川翼(繊細)
気軽に話せる年下:神原駿河(のほほん)
『青ブタ』
主人公:梓川咲太(普通)
ヒロイン:桜島麻衣(優等生クール)
理解者:双葉理央(繊細)
気軽に話せる年下:古賀朋絵(のほほん)

構造解析noteで度々、引用している大塚英志さんは、下記の書籍のなかで述べています。

見たところ何の共通点も持たない発想から出発しながらも、作中人物が演じつつある物語的な機能や、果たすべき行為の形態という点で多くの細部を共有し(中略)共通の物語構造を抽出して新しい表層を付加した上でそれを再度物語ることを実践してしまえば、その者は同時代の文学の一角を素知らぬ顔をして占めることも可能

『化物語』で主人公やヒロインが演じる役割がそれぞれ「普通」の主人公と、対比項目としての「優等生クール」のヒロイン。

さらにハーレム的に「のほほん」「繊細」などのサブヒロインが花を添える。

『青ブタ』でも同じ役割をもったキャラクターが登場することがわかるはずです。

村を出て怪物退治して帰ってくる物語を『桃太郎』のパクリだ、『ホビットの冒険』のパクリだと言わないのと同じように、『化物語』と『青ブタ』は発想・着想や描かれているテーマなど明確な差別化要因(オリジナリティ)が存在します。

しかし、共通する要素(構造)もあります。

それが、「記号的にキャラクターを描く」ことで、「読み手にキャラクターの属性を伝える」部分です。

キャラクターを魅力的に描くために、「普通」「優等生クール」などの属性提示と対比(コントラスト)がいかに重要なのか、については以下のnoteなども併せてお目通しください。

ここまで前置きした上で、『青ブタ』の差別化要因になっている「思春期症候群」(主人公やヒロインたちが直面する少し不思議な現象)と、『化物語』における「怪異」(ヒロインが抱える少し不思議な現象)は同じものであることを指摘しておきましょう。

ただ、「怪異」が「けもの」に関連したものであって、「思春期症候群」は「物理学や科学的超理論」を題材にしているという「差別化要因」があることも事実。

ここに「あなたにも『青ブタ』が書ける」1つ目のヒントがあります。

「思春期症候群」に代わる題材をあなたが見つけさえすれば、あとは『化物語』『青ブタ』と同じ構造で物語ればいいのです。

では、その構造とはどのようなものなのか?

また「思春期症候群」に代わる題材を見つけるためにはどうしたらいいのか?

以下より分析を進めていきましょう。

もしよろしかったら、『化物語』の構造解析もお目通しいただくと、『青ブタ』との差別化要因がよくおわかりになるかと思います。


依頼と代行

物語の類型を分析したウラジーミル・プロップによる「昔話の形態学」をご存知でしょうか?

上記リンク先には「昔話」を31の機能分類でわけたリストが掲載されています。

ライト文芸にとって特に重要なのが、リストの9番目「仲介・連結の契機」と、続く10番目の「対抗開始」です。

つまり、神話や昔話において、主人公は何者かに「依頼」され、依頼者の「代行」として行動を開始します。

先ほども引用した大塚英志さんの書籍のなかに、蓮實重彦さんの重要な引用があります。孫引きという形になりますが、以下に示します。

主人公は誰かに【依頼】される形で【宝探し】の旅に出る。彼は選ばれた特定の相手の【手助け】を得ながら、【黒幕】と戦い旅の目的を達成する。

上記は80年代の商業小説への論評です。

ですが、これはそのままライト文芸のお約束(テンプレート)に適用できることがわかります。

『進撃の巨人』でエレンは「巨人化能力」を受け継ぎ、父親の意志を「代行」します。

『ハリー・ポッター』も、ハリーは両親から託された愛=魔法を「代行」する存在です(ヴォルデモート卿を倒す)。

神話も昔話も80年代の小説も――そして、現代のライト文芸も基本的に、「依頼」と「代行」からなる「素人探偵」の宝探しなのです。

「素人探偵」=「普通」の主人公が、ヒロインの心の問題(=「怪異」「思春期症候群」)を、彼女から「依頼」され、彼女の代わりに「代行」して「解決」する。

言い方を変えれば、主人公は物語において事件に巻き込まれる。

唐突に「依頼」を受け、依頼者の「代行」の果てに宝=ヒロインの心の問題を解決する。

ダンジョンに行って、帰ってくるころにはヒロインたちの心の問題を解決しているキリトくんのストーリーテリング術については、以下のnoteでも解説しています。

ここで2つ目の答えが見えてきましたね。

ヒロインが抱える心の問題(「思春期症候群」「怪異」に代わる題材)を見つけたら、「普通」の主人公がその問題を解決するための「依頼」を受ければいいのです。

そして、ヒロインの代わりに問題を解決する(「代行」)ことで、二人の関係性が発展していく。

いま高校生がもっとも読んでいる小説は以下の『君は月夜に光り輝く』です。

この物語が「依頼」「代行」で成り立っていることはとても重要なことだと思います。

病を抱えたヒロインに代わって、彼女が体験できないことを主人公が「代行」する物語です。

『青ブタ』においても、主人公の咲太くんは別に物理学に明るいわけでもなければ、思春期症候群に詳しいわけでもありません。

物理学に関しては、双葉理央という同級生に頼りますし、社会問題になっている思春期症候群は南条文香というアナウンサーに聞きに行きます。
(先ほどのプロップ「七つの行動領域(キャラアーキタイプ)」の贈与者(協力者)であることがわかります)

『化物語』でも阿良々木くんは「怪異」の解決を忍野メメに頼り、顕現した「怪異」を倒すのは神原駿河や忍野忍といった協力者です。

さて、ここで混乱が生じてきますね?

先ほど僕は主人公がヒロインから「依頼」され「代行」するのだと述べました。

にもかかわらず、主人公は解決策をもたない「素人探偵」です(解決には協力者が必要)。

「代行」をしているのは「協力者」なのではないか……?

そんなことはないのです!

では、どのように主人公は「依頼」を「代行」し、「宝」=「問題の解決」を行っているのでしょうか?

続く項目でその答えを考えていきましょう。


思春期症候群=コンフリクトの種類

「思春期症候群」や「怪異」というのは、いわばヒロインが抱えている「トラウマ」です。

ライト文芸=キャラクター小説は、キャラクターの変化する過程を描いたものです。

このキャラクターの変化曲線を「キャラクターアーク」と言います。

文章で「楽しさ」を読み手に伝えなければならない活字メディアでは、「落差」を極端に、過剰に表現しなければなりません(でなければ伝わりづらい)。

アリストテレスは『詩学』のなかで述べています。

「プロットは、たとえ少しも視覚的効果の助けがなくとも、出来事の展開を聞いている者が恐怖で身震いし、起こっていることに同情を感じるように組み立てられなければならない

キャラクターの成長(キャラクターアーク)もしかりです。

変化前・後で、キャラクターが大きく成長しているように、読み手が「感じ」なければならないのです。

そのための技術が「キャラクターアーク」です。

「キャラクターアーク」には、【ゴースト】【嘘】【真実】が必要になってきます。

『化物語』の戦場ヶ原ひたぎでいえば、母親が悪い宗教にハマってしまって家庭が崩壊した過去があり(【ゴースト】)、それから母親を必要のないものという【嘘】を信じ込んでしまう。結果、彼女の体重が失われる「怪異」に遭遇し、主人公と共に【真実】にたどり着く。それは「母親を返してほしい」というひたぎの願いだった……。

このように、【ゴースト】故に【嘘】を信じ込んでしまう=変化前のキャラクター(ヒロイン)が、【真実】にたどり着くようにキャラクターを「設定」する必要があります(それを物語ったものがライト文芸=文芸エンタメ)。

では簡単ですね!【ゴースト】=心のトラウマを考えてみましょう!

……というのはなかなかにムズカシイと思います。なぜならば、説明のチェーンが実は足りないからです。

・キャラクターの成長を描くためには「落差」が必要で、変化曲線(キャラクターアーク)を描く必要がある。
・キャラクターアークは【ゴースト】【嘘】【真実】から構成される。

ここまでの情報を踏まえて、「では、【ゴースト】【嘘】を抱えたキャラクターがどのように【真実】を発見していけばいいのか?」という問題について考えていきましょう。

水恐怖症の男の子が、プールで泳げるようになるためには、何が必要でしょうか?(『ハイスピード!』)

彼はどんなことに苦しむのでしょうか?

「恐怖」ですね。

その「恐怖」に抗い、克服したことを表現するためには、「葛藤(コンフリクト)」が必要になります。

「克服したい! でもできない……」

葛藤しながら、成長するから変化を読み手に伝えられるわけです。

そして、この葛藤(コンフリクト)には種類が存在します。

こちらの書籍はいまは絶版になっていますが、ハリウッド脚本術を解説した良書です。特に改稿にスポットを当てている点で優れています。

上記書籍のなかで言及されている、葛藤(コンフリクト)の種類(の一部)を要約すると、以下のようになります。
(※「思春期症候群」が要するに「葛藤」であることがわかります)


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