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親父とオカンとオレ 13 〜2001年アジア放浪記 二 〜

前回の続きを書こう。(計4話、各2,000文字程) 初めての海外旅行でバンコクまでやってきた。

 次の日の朝、先輩の佐藤さんが
「マレー鉄道に乗って、行けるとこまで、南へいく」
しかも、1人で行くと言い出した。

 僕は1人になることに戸惑っていたが、先輩は
「9日後にドムアン空港で会おう!」
とドンゴロスを肩に担いで、歩き去った。

 まるで、スナフキンが冬になると南へ旅立つように、風に吹かれていなくなった。

 初めての海外旅行で2日目にして、1人ぼっちになってしまった。

 カオサン通りのカフェで「地球の歩き方」を読んでいた。

 すると突然、
「おまえー、日本人やんなー」
と怪しい日本語で喋りかけられた。

 インドネシアのバリ島出身という怪しい男は、
「おまえ、どこ行こうとしとるんや?」
と聞いてきた。僕はただ悩んでいた。

 先輩が南へ行ったのなら、北へ向かうか、、、はたまた東へ行くか、、、、

「行けるところまで東へ、カンボジアを目指そうと思う」
と咄嗟に出た言葉が、意外にいい考えに思えてきた。

「おまえ、カンボジアはビザがい〜るぞー」
とバリ人の男は教えてくれた。

 カオサン通りには旅行代理店がたくさんあり、そこで申請すれば3日後にはビザが取れるそうだ。

 まだまだ怪しい感覚は、拭えないが、バリの男を信用して、カフェの隣にある旅行代理店でカンボジアのビザを取ることにした。

 その旅行代理店がカンボジア大使館にビザの申請手続きをしてくれるので、パスポートを預けた。

 タイの国では外国人旅行者がホテルやゲストハウスに泊まる際は、パスポートを見せなければならない。

 僕は2日目の宿をまだ見付けていないのに、ビザの申請で、パスポートが手元にないことに気付いた。

 そしてその事をバリ人の男に伝えると
「おまえ、俺の部屋を使ったらええよ」
と男は上を指した。

 このカフェの2階部分はゲストハウスになっていて、彼はそこに泊まっているという。

 バリ人の男の部屋を見せてもらった。大きなベットが1つにトイレがあるだけのシンプルな部屋だが、充分な広さがあった。

 とりあえずそこに荷物を置いて2人で飲みに行くことにした。

 バリの男に連れられて、屋台が立ち並ぶ市場までやってきた。

「ここは海鮮が美味いんじゃ」
日本人には、あまり馴染みのない味に、僕は少し戸惑った。

 しかし、無理やりビールで流し込んでは、
「うまいねー」
とお世辞を言っていると、バリの男は調子に乗って、どんどん皿を持ってきやがった。

 その中の一つに、コイのような大きな魚を丸々1匹、塩焼きにした皿があった。

 見た目は旨そうだが、一口食べると
「なんじゃこりゃ〜」
と思わず、箸が止まった。

 塩焼きにされていたのは表面だけで、中まで火が通っておらず、半分ナマの状態であった。

 しばし、やめておこうと思ったが、その食べかけの生臭い魚の身を、目をつむってビールで流しこんだ。

 ひとしきり食べて呑んで、落ちついた頃、凄まじい吐き気が襲ってきた。

 僕は屋台の裏に行き、込み上げてきた物を勢いよく吐き出した。

 さっきまで食べた、すべての物を吐いてしまった気がする。

 その後も体の調子が悪く、部屋に戻って寝ることにした。


 どのくらい寝ていたであろうか、ズボンの上から誰かに触られている感覚で目が覚めた。
 横にあのバリ人が背を向けて寝ていた。

「何だ?気のせいか?」
僕はまだ頭がボーッとしていて、もう一度眠りについた。

 今度はジーパンのチャックを開けられ、明らかに俺の息子を触られている感覚で目が覚めた。

 僕は恐る恐るゆっくりと目を開いた。なんとあのバリの男が俺の息子を触っており、狙われていたのだ。

 僕は飛び起きてトイレに駆け込んだ。
「やばい、犯される!!」
さっきまで二日酔いのボーッとした頭は、いっきに酔いが覚めた。

 僕は急いでトイレの鍵を閉めた。

 篭ること1時間、夜が明けるのを待てずに部屋を飛び出した。

 人生初の海外2日目の夜はバンコクの街を彷徨っていた。

 タクシーやトゥクトゥクなど乗る気になれなかった。とにかく歩いて、迷いながら、バンコク中央駅にたどり着いた。


 夜が明けたばかりの、人がまばらな駅で、ベンチに座り「地球の歩き方」を開いた。

 アユタヤという遺跡のある町がここから2時間くらいで行けることが分かった。

 その本には列車の値段が200円と書いてあったが、実際は80円程でキップを買うことが出来た。

 列車に揺られてアユタヤに着いた。ここで僕が一番心配したのはパスポートを持っていないことであった。

 駅前のホテルやゲストハウスに行き
「ノー パスポート、ステイOK?」
と小学生以下の英語で話しかける。

 相手に伝わっているのかすごく怪しかったが、何軒か訪ねていくと泊めてくれるホテルが見つかった。

 アユタヤの町は、とかく田舎でゆったりとした雰囲気が、僕の心を落ちつかせてくれた。

 自転車を借りて名所を見て周ったりした。
 アユタヤには寺院や仏像など遺跡が沢山あるらしいが、僕はそれらに興味がなかった。

 水上マーケットや、リヤカーで物を売っている光景を観ているのが楽しかった。

 アユタヤのホテルで2泊して3日目の朝、僕は意を決してバンコクに戻ることにした。

今回の話はここまで。14話に続く。

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