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第41回:骨太の方針・成長戦略を深堀りして政策の行く末を知る -データヘルスへの政府投資は継続するのか‐

1. 2000億市場を生み出しているデータヘルス

日本には資源がない、といわれますが実は豊富に蓄積されている資源があります。

皆さんの健康に関するデータです。

皆さんが病院に行き、薬局で薬を出してもらった場合、病院と薬局はそれぞれ皆さんの治療情報、投薬情報をレセプトという媒体に記録します。

このレセプトの記載をもとに、医療保険の運営主体(協会けんぽ、健康保険組合、国民健康保険組合など)が病院や薬局に医療費を払い込む(皆さんが窓口で払うのは通常3割で、残りの7割は医療保険から払われます)という仕組みになっています。

診察日、検査の内容、診療行為、処方薬の内容など幅広い情報が記録されているレセプトデータに加え、健康診断で計測された各種診断結果や介護保険の利用データなども同様に保管されています。他にもゲノムデータを蓄積している専門の機関もあります。

これらのデータは未来の政策を考えるために利用されています。例えば健康診断後に特定の健康サポートを受けると、健康診断の数値がこれだけ改善する、などということがわかれば、「じゃあその健康サポートを推進する政策を進めよう」という判断がされるからです。

これらの公的データやその他の民間団体が集めたデータを分析し、個人の健康状態に即した効果的なアプローチを行うことをデータヘルスとよんでいます。

このデータヘルス、ビジネスの視点からも重要領域になっています。これらのデータ解析や介入については、自治体や健康保険組合だけでは企画立案することが難しいので、専門の会社がデータ分析をしたり、介入内容を考えたりする支援をしているからです。

このような支援を含むデータヘルス関連の市場規模は、2023年度には2,240億円にもなるとする市場調査会社の推計もあります。近年は、公的データに加えて、スマートウォッチをつかった健康管理などの分野にも市場が拡大し、順調に成長している分野といえます。

2.データヘルスは医療費適正化効果が薄いとして見直しの岐路に


このデータヘルス、日本の財政健全化政策の一環という側面も持っています。

データヘルスが日本の政策に登場してきたきっかけは2006年の医療保険制度改革です。小泉政権下で医療の歳出削減が進められるなかで、伸び続ける医療費を今後どうやって管理するかが議論のお題に上がりました。

当初は財務省などが主張するGDPに連動した医療費目標を設定する方向で議論が進められました。

でもこの案を採用すると、GDPの伸び以上に医療費を使うことができなくなります。国家財政上はよいことですが、地域の病院が閉鎖したり、良い薬が日本に入ってこなくなったりするなど、必要な治療が受けられなくなるリスクもあったのです。
最終的には、厚労省が主張していた生活習慣病の予防を進めることにより結果として医療費を下げる案が採用されました。

この時の議論を踏まえ、自治体は特定検診・保険指導の実施率などの目標を定めてその目標を目指すための医療費適正化計画を作ることになったのです。

なお、医療費適正化計画はデータヘルス推進のための自治体へのインセンティブ設計に大きく関わってくる計画です。この計画は6年1期でつくられ、都道府県が特定検診・保険指導の推進や重複投薬の適正化などに関する目標を設定しますが、特定検診・保険指導の実施率が良好な自治体には金銭的なインセンティブが設定されているからです。

ただ、特定検診・保険指導については、近年当初想定されていたよりも医療費適正化効果がないのではないかという指摘がされています。

当初厚労省は、生活習慣病対策を行うことで、2015年に1.6兆円、2025年には2.8兆円の医療費適正化効果が見込まれるとしていましたが、実際には200億円程度の効果しかないことが後に示されたのです。

これを受けて現在、財務省が多額の予算(2022年度予算211億円)を要する特定検診・保険指導については、見込まれた効果がないとして、制度の見直しを求めている状況です。

現在の医療費適正化計画の計画期間は2023年までです。2024年から新しい計画期間となるタイミングで、これらのインセンティブ制度自体についても再検討することになれば、データヘルス関係の仕事をしている事業者は重大な影響を受けることになります。事業者にとっては、2024年の改正がどうなるか大きな関心事でしょう。

3.使えるデータが広がるかもしれない次世代医療基盤法改正


次世代医療基盤法の改正では、データヘルスの分野で取り扱われるデータの幅が大きく広がりうる可能性があります。この法律は、各医療機関で分散して保有されているカルテなどアウトカムを含む医療情報を集めて医療分野の研究開発に役だてることを目的としています。
この法律により、本人などが提供を拒否しないかぎり、医療機関は、一定の基準を満たすとして認定を受けた事業者(認定事業者)にカルテデータ等の医療情報を提供することができるようになりました。認定事業者は収集情報を個人が特定されないよう処理を行い、医療分野の研究開発のためにそのデータを使いたい人)にそのデータを提供することができます。

次世代医療基盤法は2018年5月に施行され、施行後5年をめどに見直しを検討することが決められています。早ければ2023年の通常国会で法改正の議論がされることが予想されます。

次世代医療基盤法が改正されれば、関連企業のデータ収集戦略にも大きな影響を出てくるはずですが、政府の会議では、次世代医療基盤法下で利用可能なデータの使い勝手を良くするための提案が会議の出席者からされている状況なので、データの利活用に資する何らかの改正が行われる可能性は高そうです。

4.政策の行く末は公表資料から探った上で自分たちの動き方を考える

役所で働いてきて思うことは、未来に起こりそうな政策の方向性を知るには、公表資料を読み込むことで相当程度足りるということです。政策人材として活躍するには、まずは公表資料を確認して政策の大きな流れをつかみ、その結果なにかアクションを起こすべきだと判断すれば、適切な政策提案戦略を立てることが必要になります。公表資料を正しく読み込めることは、政策人材として活躍するための基本といってもよいでしょう。

しかしながら、役所での勤務経験のない方々からすると、役所が公表している資料を正確に読み解くことは簡単ではないということもわかります。
今回はこの二つの制度改正に関する公表資料から、政策の方向性をとらえる方法をシェアしていきます。

(執筆:西川貴清 監修:千正康裕)
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