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バスターキャノン発射していいですか❓

対要塞外壁粉砕用徹甲弾『バスターキャノン』を発射をしていいか否か、無線を使わずわざわざ司令室まで直接赴いた新人の『真締 一徹』。しかし司令官サウダーソンは首を僅かに横に振った。
『ま、素人判断はやめときな』
衛生兵長のリリアム・ペンダンスキーも否定した。敵軍とはいえ、合図もなしにバスターキャノンを発射すると多数の被害者がでる恐れがあるからだ。
『今は風が悪い』
司令室の隅で狙撃銃を磨きながら返事をしたのは不眠なる西表山猫ジェイムズ・J・ジャムズウェル。彼は残り一発のバスターキャノンに哀切に似たソレを抱いていた。

『し、しかし! 敵軍はスグ目の前に――』
一徹の前に上等なパンが差し出され、給仕長インガンダル・メイトスが彼の肩を叩きながら目配せをする。
『冷静な判断は……食卓からだ』
――その刹那、司令官サウダーソンが唐突に立ち上がり、やがて腰を下ろした。
『ヤツらめ……姑息なマネを……!』
『標的は?』
スリージェイ(ジェイムズ)は既に第三離脱路に手を掛けており、指示を待った。が、やがて腰を下ろした。

『怪我人です! スグに手当てを!』
何故か司令室に運び込まれた怪我人をペンダンスキーはさも退屈げに処理した。すると眼前に豪奢なシチューが差し出された。給仕長(元・司令官)はサウダーソンの隣に肩を並べ、彼の肩に手を置いた。
『なあ戦友、俺の胃袋の直感なのだが――』
『――ああ、わかっている』
一徹は固唾を飲んで見守った。ついにバスターキャノンの使用許可が下ると期待したからだ。しかし押されたのは対魚雷迎撃小型ミサイルのソレだった。

『メインディッシュは、おあずけだな』
『――ああ、わかっている』
すると伍長のアングリア・ドモリアスが司令室に駆け込んできた。
『艦内にスパイです! 多数!』
『姑息な……!』
『自分が行きます! スパイの炙り出し方は熟知しているつもりです!』

司令室を飛び出そうとする一徹の喉元に冷たい銃口が突きつけられる。
『逆説の逆は……そのまた逆だ』
スリージェイの懐疑の目は確かなものだったが、その手は震えていた。
『……ジャック兄さん、またボクを疑うのかい?』
『――その『名』は捨てた。今の俺にあるのは冷徹な軍への忠誠のみ』
その時、ペンダンスキーが膝から崩れ落ちた。
『オレがあの時……適切な処置をしていれば……あの日以来、ジャックは変わってしまった……!』

『よせ、お前たち』
サウダーソンが刹那的な立ち上がりをみせ、やがて腰を下ろした。
『空腹はやがて、軋轢すらをも生む』
インガンダル給仕長はかつての戦場、すなわち、メイヤーソル戦線において、食料難に苦しめられ色々苦労した話をしようとしたが、サウダーソンがそれを制し、確かにその目には涙が浮かんでいた。

その時、司令室のメインモニターに男の顔が映しだされた。
『くくく……我が要塞はやはり鉄壁。手も足も出ぬとみえる。まるでメイヤーソル戦線の再来――』
『貴様……!』
『司令官! 今こそバスターキャノン発射許可を!』
『ならぬ!』
『くくく……はは……くくはは……サウダーソンよ、お前がイチバンよく分かっているハズだ。なぜならバスターキャノンは若き頃の俺とお前で開発したのだから。すなわち、発射するまでもなく、この要塞の装甲は傷ひとつつかぬと――』
『ふっ……』
『何がおかしい⁉️』

『――司令官! 風向きが整った!』
スリージェイはもはや、決別した過去の『名』との決別をやめた。

『ナイス玄人判断、司令官』
ペンダンスキーも救えなかった兵士達が自分の心の傷になってると気がつき、膝から崩れ落ちた。

『最大の空腹ってのは……満腹だ』
インガンダル給仕長もいつものよくわからない箴言を持ち出した。

『見ていてくれ、息子よ――バスターキャノン・【徹】、発射❗️❗️』
一徹は全てを悟った。


鈍い地響きと共に、歓声が艦内を覆った。

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