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頭と口「WHITEST」観劇記と雑感

 2016年11月5日・6日。ほぼ無名のカンパニーの公演を公共劇場が主催するという異常事態が起きた。強い熱を感じる決断だ。去年末の旗揚げ公演を観た人がきっかけらしく、旗揚げ公演プロデューサーとしてはちょっと鼻が高いと同時に、一体何が起きているのか出来るだけ知ろうと思った。公演はゲネプロ含めて3回観たし、打ち上げにも参加させてもらった。

 「WHITEST」という作品は、白いボールに演者が床に寝た状態でぶら下がったり昇ったりと90度倒れたボルダリングをするところから始まり、重力が手前から奥に落ちていることを観客に提示する。正直予想だにしていなかったため面くらったが、直ぐに舞台を観るという行為でさえジャグリングなのだと気がついた。舞台を観るとき、たとえば書き割りは風景として認識するし、上を見れば照明とバトンではなく天井だと理解する。私たちは常に物を見立てているのであり、それはボールをそのままボールと認識していても同じだ。人と物の間には何らかの見立てがあり、それは流動的でもあり、つまり動く物を扱うジャグリングの一種と言える。アフタートークで渡邉氏は「動物は呼吸と重力が不可欠だと思うけど、呼吸を止めることは出来なかったけど重力は変えれる。そこから真っ新にしたかった」と言っていた。彼は重力は変えれると認識しているのは間違いなく、それは舞台上の嘘なんかではなく、確かに彼等のジャグリングによって重力は奥に向かって存在していたのだ。

 そのあとしばらく続く100個もの白いボールを使った”スーパー頭と口ブラザーズ”は非常にポップでキャッチーで、照明と音響泣かせの素晴らしい舞台だった。その中で上下の重力(つまり一般的な重力)を発見したり、ルール遊びをしたりする。重力の方向性もくるくる代わり、役割の交代や暴走なども起き、だんだん世界が固定されたルールではなく変容する見えないエネルギーが中心となったころ、彼等は彼等として舞台上に再登場する。はっきりと前後半が分かれており、後半はエネルギーを知覚できない(もしくは見て見ぬふりをする)と冗長で単調に見えてしまっただろう。事実、私自身が何回も見て理解量が増えて分かったことが多々ある。文明の起こりと崩壊の様子や、ボールの隙間を神業的に縫ってダンスするさまなど、見た目で説明できること以上にエネルギーを知覚しての感動が大きい。渡邉尚氏のソロ「逆さの樹」も近い構成だったが、彼等の真骨頂は抽象的になってエネルギーそのものを主体にした時だと思う。見えないエネルギーというのはスピリチュアルな話では無く、いまのところそれを表す言葉が無いからそう呼ぶだけで、海外には肩こりが無いとか、ドイツでは虹が5色だとか、そういう類いの何かである。

 「僕たちは、いったい何を見たんだ」

 これが、エネルギーを知覚した人から多く見れた感想だ。ジャグリングでもない、ダンスでもない、コンテンポラリーサーカスと括るのも何かが違う。絶対に良い何かを受け取っているのに、それでいてそれが色んな物の根源であることも分かるのに、それを現す語彙が無くて困惑する。でも実はそれが何かすべてを知っている奴は居る。

 それが、この頭と口の公式キャラクター魔人くんだ。このビジュアル、頭と口の二人に似ている。今回の公演では渡邉氏はパンツを履いていたぶん魔人よりはやや弱いようだったし、山村氏はタンクトップ分さらに人に近しい存在だったが、きっと今回の公演では彼らは魔人くんに似た存在だったのだと思う。アフタートークで最終的には10人の作品を作りたいと言っていた渡邉氏。10人の魔人くんが舞台に現れたら、いったいそこにどんな文化圏を見ることになるのか。とんでもない事になりそうな予感しかしない。

 今回の公演を通じて、劇場の方や近い方々からたくさんの熱を感じた。彼等をKAATでみたかった、成功すると思ってた、たった2回の公演は少なかった、もう少し値段をあげて良い作品だった、次はいつ来るんですか、などなど、誰が何を言ったかは秘密だがリップサービスでは無いエネルギーがあった。おかげで私も沢山の交流が出来て、非常に良い体験をした。たった二日だが、明らかに大きな足跡を残した公演になった。

 私は、舞台作品というのは、自分の今までの常識を超えた何かを観て人生が変わることがあるから素晴らしいのだと思っている。私は彼等の”フロアジャグリング”で衝撃を受け、最近は身体が少し軽くなった。知覚しているエネルギーを無理に頭で捨てなくて良くなったからだと思う。まだまだ付き合い立てなのでおぼつかないが、大事な喜びを一つ教わったのは確信している。彼等から何かを受け取った人は他にも居ると思うし、これからの活動で世界中を変えてしまうかもしれない。彼等は来年1年間フランスで給料をもらいながらクリエイションと発表を繰り返すそうだ。しかしきっと、何にも縛られずに、その場のエネルギーと共に踊るように、過ごしてくると思う。そしてまた一歩、ジャグリングの深淵から何かを持ち帰って来てくれると期待している。

 再来年の凱旋公演が、本当に楽しみだ。

http://atamatokuchi.com/

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