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「頭と口」初の公共劇場公演に向けて

 11/5・6にジャグリングカンパニー「頭と口」の初の公共劇場での公演がある。これは、何か書かない訳にはいかない大事件である。

 劇場としても結成一年未満の無名に近いカンパニーの抜擢は異例で、どう考えても劇場側に彼らに惚れた誰かが居るに違いない。彼らの内見に立ち会ったスタッフもこれは凄いと前のめりになった、と聞いている。そのくらい圧倒的に人を惹きつける魅力が彼らには在る。

 彼らは、他に類を見ない事をやっている。決して奇抜な一発ネタでもなければ、難解な哲学でも無いが、性や社会問題を扱った芸術作品は数あれど人と物の関係を扱う作品は少ない。しかし圧倒的な身体を以て表現している彼らを観れば、誰もがダンスと同じくらいジャグリングも根源的である事に気づくし、こんな明確なことに対して全くの無知だった事に衝撃が走るのだと思う。

 事実、私も「頭と口」の一人である渡邉尚の作品を最初に見た直後は、しばらく咀嚼に時間がかかり言葉を出せなかった。しかし去年の旗揚げ公演で幾度となく同じ作品を見たところ、こんな単純なことをこんな分かり易くやってたのか、という認識にさえ変わった。そのくらい、当たり前のことを私はまったく知らなかったのだ。

 慣れてない時はインパクトが大きいし、分かれば更に深い洞察と感動を得ることができる。彼らに関しては体験できる機会を出来るだけ逃さないほうがもっと楽しくなる。初見の方も旗揚げ公演を見た方も、ぜひ今回も見てほしい。

 そして、いま見るべき理由はもう一つある。それが、旗揚げ公演千秋楽でのこのインプロセッションだ。

 旗揚げ公演の時は、彼らが一緒に居たのは2週間ほどだった。しかし、その間に彼らは毎日新しい奇跡を発見していった。それを少しだけお披露目したこのインプロセッションは非常に評価が高かったが、そんな二人が1年越し、もっと多くの時間を共にして作品を作った。これはもう、どれだけ進化しているのか想像もつかない。
 来年はフランスで過ごす二人は、さらにあっという間に遠くまで行くだろう。今のうちに今の段階の作品を見ておいた方が、絶対に良い。

 世界中のフェスから招待が来るのをみても、大道芸ワールドカップと公演日程がぶつかるあたりをみても、もはや日本のサーカスの方を向いていない動きが加速している。これは、彼らではなく、彼らが表現により掘り起こした人類の宝物がそうさせているように思う。

 最近、彼らは公式キャラクターを発表した。それがこれ、魔人くんである。

 一瞬「え、大丈夫?」と思わないでもなかったが、確かに彼らの見つけた宝物を現すのに100の言葉を使うよりよほど適切な気がする。

 人が、物と、遊ぶ。猿を人に進化させたその原初の魔力こそが彼らの表現の源であり、靴を履き服を着ながらそれを忘れた私たちに強く訴えかける。言葉で言えばそんな感じだろうが、そんな堅い言葉を笑い飛ばしてそのまま受け入れろと言ってきそうな、この魔人くん。そう、彼らの公演は不思議なくらい自然と笑いが起きるのだ。

 WHITESTがどんな公演になるのか、その内容はチラシ以上のことは私も何も知らない。恐らく、我々を人と猿の境目の時代にまで白紙に戻す気なのだろうと予想する。私は、必ず初日に見に行こうと思う。なぜなら、きっともう一回見たくなって2日目も行くに違いないから。

http://atamatokuchi.com/

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