第23話 掴まれたもの
「ところで、尾張さん。」
「何かしら?」
その顔は、先ほどの僕の言葉をまったく覚えていないようだった。
ぐぬぬ。
「何かしら、ではなく。さっき言ったじゃないですか。」
「・・・・・・!?」
尾張さんは、少し考えた後、いきなり赤くなると、言い放つ。
「わ、私はあなたと結婚の約束なんかした覚えはないわ!だから、無効よ!」
「いえ、そっちではなく。」
そもそも、幽霊と結婚は出来ないと思う。事実婚ならともかく。
「流星群の話です。」
「っ!?えっえぇ勿論わかっていたわよ。ちょっと紀美丹君に念を押したかっただけよ。勘違いしないでよね。」
そう言うと、肩にかかった髪を払う。
何故か、また振られてしまった。
「わかりました。結婚はとりあえず保留しましょう。」
「いえ、保留ではなく、断っているのだけれど。」
「はいはい、ツンデレ乙。」
「誰がツンデレよ!」
「からのー?」
「その絡み方、次したらあなたの世界を終わらせるわ。」
「現在の尾張さんに言われると妙な説得力があって、怖いんですが・・・・・・。」
「現在のってなによ?」
「いえ、なんでもないです。」
二度目だとバレたら、僕の世界が終わらせられる気がする。
「そんなことより、流星群ですよ!流星群!!」
無理矢理、軌道修正する。
「な、なによ、いきなり。」
尾張さんが、僕の謎のテンションに若干引いている気がする。
「あなた、そんなに流星群が好きなの?」
「えぇ!良いですよね流星群!もう、世界の終わりと言えば流星群ですよ!!」
「そうね。なかなかわかってるじゃない。紀美丹君。」
尾張さんは、フフンと上機嫌に鼻を鳴らすと、ウムウムと頷くような仕草をする。
ちょろいなぁ。この人。
「まぁ、紀美丹君がそこまで行きたいって言うのなら付き合ってあげなくもないわ。」
「えっ?付き合ってくれるんですか?」
「流星群を観に行くのに付き合うって意味だからね?」
「わかってますよ。それもツンデレですよね?」
「ちがうわよ!!」
「から、」
のと言う前に、背筋に寒気が走った。
「あら、どうしたの?紀美丹君?」
「い、いえ、なんか寒気が。」
尾張さんは、口元だけで笑っている。
「紀美丹君は、犬みたいね。」
「な、なんですかいきなり。」
「犬ってね、飼い主の態度を観て行動するのよ。」
「はぁ、それがどうしたんですか?」
「飼い主が楽しそうなら、はしゃいで、悲しそうなら、悲しげな態度をとって。飼い主が怒ってたら。」
そう言うと、尾張さんは僕の左頬に右手で触れる。
「今のあなたみたいな態度になるわね。」
「・・・・・・クゥン。」
「鳴き真似うまいわね。紀美丹君。」
取り返しのつかない何かを掴まれてしまった気がする。
「あなたの心を揺さぶる物語を。」 あなたの感情がもし動かされたなら、支援をお願いします。 私達はあなたの支援によって物語を綴ることができます。 よろしくお願いします。