小説連載の巻 スイミングプールの改築④完結 (2004年)

2004年に書いた短編です。見たところ分量的にも連載に適していそうなので、当時のフロッピーディスクから、サルベージしてきました。

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12月13日(土)

今日は学校がお休みだったので、みいちゃんとお買い物に行った。私は何にも買わなくて、みいちゃんは夏目そうせき全集の第三かんと第四かんを買いました。

リウインイビョウニハラクダシ、オイチニ、オイチニ、サンゼンサンゴヤチノミチニ、オイチニ、オイチニ

という歌を、みいちゃんに習いました。

12月14日(日)

おばあちゃんが風邪をひいてしまったので、うつるといけないからお母さんと家に帰ることになりました。寂しかったけど、仕方がありません。

12月15日(月)

最近ずっとお父さんに会っていません。お母さんはたぶんお父さんのことを忘れているんだと思います。お母さんが帰ってこなかったときはあんなに寂しかったのに、お父さんが帰ってこなくても私はあんまり寂しくありません。

何だか不公平なので、ふとんの中で思いきりお父さんのいいところを思い出したら、少しだけ寂しくなってきたので、私は安心しました。

12月16日(火)

お母さんの帰りが遅くなったので、ためしにご飯を作ってみようと思って、おなべを火にかけたら、おなべが急に燃え出しました。水をかけたらますます燃えました。

そのときにちょうどお母さんが帰ってきて、お母さんがバケツで水をたくさんバシャアとかけたら、やっと火が消えました。

コンロのまわりの壁が、まっ黒く焦げているのが怖かった。

12月17日(水)

学校から帰る途中、急にお父さんに会いたくなったので、スイミングプールまで行くことにしました。スイミングプールは遠くて、学校が終わってから電車とバスで行くと、夕方の五時を過ぎてしまいます。でも私はお父さんと車で一緒に帰るつもりだったので、へいちゃらぷーでした。

バスはすごく混んでいて、私はずっと立っていました。バス停を乗り過ごさないようにアナウンスを一生けんめい聞いたり、窓の外をじっと見たりしました。だんだん外が暗くなってきて、知っている道もよくわからなくなりました。

やっと降りるバス停になって、ブザーを押して降りました。降りたのは私だけでした。もう五時を過ぎていて、ずいぶん暗くて怖かったので、みいちゃんから教わった歌をうたいながら行きました。

リウインイビョウニハラクダシ、オイチニ、オイチニ、サンゼンサンゴヤチノミチニ、オイチニ、オイチニ

途中、知らない商店街に入ってしまって、「ひとのあし」が売っているお店で道を聞きました。もう暗いからお金をあげるからタクシーで行きなさい、と言われたけど、私はいいですと断りました。

スイミングプールには電気がついていませんでした。いつもなら角まで来るとプールの光が見えるのに、今日は見えませんでした。ドアも閉まっていました。

何だか怖かったので家に電話しましたが、お父さんもお母さんも出ませんでした。おばあちゃんのうちに電話したら、おばあちゃんの声で、ただいま留守にしております、と留守番電話がしゃべりました。

私は、お父さんと帰るつもりだったのでお金をあんまり持っていなかったので心配になりましたが、帰れるだけお金を持っていたので、よかったなあと思って、家に帰りました。

(完)

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