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【天狼院書店初心者短編2020年4月コース受講者向け】⑦伏線を張るとは

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【注意】
 こちらのエントリは、天狼院書店さんで開催中の「短編小説100枚を二ヶ月で書いてみる」講座参加者の方向けのエッセイです。参加していない皆様にもなにがしかに気づきがあるかもしれませんが、このエッセイは基本的に「初心者の方が小説を書き切る」という目的設定をした講座に向けたものでありますので、中級者、上級者の方がご覧の際にはそうした点をご注意の上ご覧ください。
【注意ここまで】


 受講者の皆さんこんにちは。
 単刀直入ですが、進捗はいかがでしょうか?
 皆様の多くは既に執筆に入っておられることと思いますが(繰り返しになりますが、プロット段階であったとしても焦る必要はありません)、皆さんが七転八倒なさっておられる姿が目に浮かぶようです。

 皆さん、「伏線」ってお言葉、聞いたことがおありなんじゃないかと思います。

「あの映画のあの伏線に痺れた!」
「あの小説、伏線がないのに新展開が多すぎなんだよな」

 みたいな使い方をするわけですが、では、「伏線」ってなんなのでしょう。

伏線とは何か

 伏線は、謎と密接な関係のあるものです。
 お話の展開であったり、ある登場人物の目的であったり、世界の謎であったりですが、もっとシステマティックに申し上げましょう。小説における「謎」とは、

 まだ読者に明示されていない、世界観や人物やストーリーの設定や目的、秘密のこと

であると。
 でも、ここでご理解いただきたいのは、「読者側に明示されていない」からといって「その設定が存在しない」わけではないことです。読者に明示されていなくとも、その設定や目的、秘密に基づいて世界観や人物や設定は動き続けるのです。

 ややマニアックな例をお出しします。
 「ストリートファイター2」という格闘ゲームにおいて、春麗というキャラクターでラスボスのベガと戦うと、なぜかベガが弱体化しているという仕様がありました。当初は理由が語られていなかったのですが、ストリートファイターシリーズが進展すると、ベガが春麗の父親であるという設定が開示され、「娘に手心を加えていた」という事情が明かされました。
 まさにこれです。
 この場合、「ベガは春麗の父親である」という事情が読者から隠匿され、「ベガが春麗に対して手心を加える」という状態のみが読者に提示されています。これが伏線なのです。

伏線は情報開示の順を逆にしたもの

 もっと抽象的に説明しましょう。
 伏線というのは、情報開示の順を逆にしたものなのです。
 どういうことか。
 わたしの講義で「因果律」の話をしましたね。原因があるから結果がある、という法則のことです。
 そして、「因果律」が語られる場合、

こういう原因があるから、こういう結果になります

 という風に叙述されます。しかし、往々にしてわたしたちに提示される情報は因→果の順に入ってきません。

こういう結果がありました。こういう原因が存在したからです

 という風に、結果だけが先に示され、あとで原因が語られることも多いのです。
 この場合、「結果」は伏線となり、「原因」は伏線回収と呼ばれるものとなるのです。
 ベガと春麗の件を例にすれば、「ベガが春麗に手心を加えていた」が「結果」で、「ベガは春麗の父親だった」が「原因」ですね。

隠し事をしている不自然さ

 皆さんは隠し事ってありますか? わたしも結構あるんですが(笑)たぶんみなさんも一つや二つ隠し事があるんじゃないかと思います。でも、隠し事をしていると往々にして不自然なところが出てきて、同居人などに露見してしまいます。
 たとえば、浮気をしている男の人は、自分でパンツを洗うようになるそうですし、携帯電話を四六時中手放さなくなるらしいですし、突然身だしなみに精を出すようになるようですね。と、このように、隠し事をしている人間は、なにがしか、不自然な行動を取ってしまうものなのです。
 伏線もこれと同じで、

隠し事をしていることによって出来する不自然さ

 を描くことと同義です。

 例えば、風邪をひいているのを隠して出社している人がいるとしますよね。でも、それを隠すのは容易ではありません。くしゃみしたり鼻水をたらしたりしているかもしれませんし、咳が止まらないかもしれません。顔が青くなっているかもしれませんし、女性の場合はお化粧を普段より厚くして顔色の悪さを隠そうとするかもしれません。いつもはバリバリ働いているのにぼうっとしていたり、らしくないミスを連発しているかもしれません。
 ――という風に、隠そうとしても隠しきれないものを描き出すことが「伏線を張る」ことの正体なのです。

伏線と描写は時折区別がつかない

 と、ここまで書くと、勘の良い方はこう思われるかもしれません。

「伏線と描写ってどう違うんですか」

 いいご質問です。伏線と描写は限りなく近いところにあります。
 例えば、

「青い顔をしていた」

 という描写のある登場人物がいたとして、後になってその日父親が死んでいたことが分かった場合、この描写は伏線となるわけです。
 なので、何気ない描写が後に伏線に化けていたなんてことはよくあります。
 つまるところ、描写を頑張れば頑張るだけ、伏線の種が生まれることになります。そして、少しずつ物語を駆動させてゆくのです。

 

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