刀と算盤

「作家埋もれがち問題」の処方箋について考える⑥

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 前回エントリはこちら。

 前回のお話は、「どうやら本が売れるためには、噛み合わせの悪い歯車で構成された世の中を何とか動かさなくちゃならない。そのための保守もまた作家の仕事なんじゃあるまいか」という感じの内容でした。
 では、その具体的な保守とは何かというと……。

まずは目の前の人と歯車を噛み合わせる

 いきなり遠大なことを言ってもしょうがないですし、千里の道も一歩からと申します。というわけで、まず作家がやらなくてはならないのは、目の前に座っている編集者さんとうまく歯車を噛み合わせることだとわたしは思っています。
 こういう話をするとすぐ「編集者に媚びろというのか」と早とちりする困ったさんがいるのですが、極論に流れては碌なことになりませんぜ、と釘を刺しておいて。
 このnoteは作家だけではなく他の業界の方もご覧なので、作家と編集者の微妙な関係をご存じない方も多いと思います。なので一応説明しておくと、編集者という存在は、作家にとっては本を出す際の最初の関門として機能する存在であると同時に、作家の(原理的にはその編集者さんが所属する出版社の作品の)マネジメントを行なってくれる存在です。編集者さんというのは(原理的には)担当作家にヒット作・良作を書かせることにインセンティブがある存在なのです。そして、最初に作家の作品のトルクを伝える、肝心かなめに位置する大事なキーマンでもあります。
 とはいえ、作家と編集者も互いに人間なので、性格の不一致も起こり得ますし、なんとなくしっくりいかないということも当然あります。けれど、そんな中でもできるだけ目の前の編集者さんと歯車を噛み合わせて、お互いにwin-winになる戦果を上げる。その媒体として、やり取りする原稿があるともいえるのです。
 思うに、編集者さんと目標(たとえば「本を売る」でもいいですし、「世間で評価される」でもいいでしょう)を共有することかなあ、とわたしは思っています。いろいろな意味において。

出版社さんと歯車を噛み合わせる

 編集者さんと歯車が噛み合えば、実際のところあとはうまく流れていく……というのが実際のところです。けれど、もっと踏み込むならば、その編集者さんが所属する出版社さんと歯車を噛み合わせてゆきたいところです。
 実際、これがうまく行くと、「この本、ちょっと多めに刷ってみましょうか」ということも起こります(経験あり:ただし、わたしの経験したその手の増刷は編集者さんの頑張りがほぼ十割です)。

編集者・出版社と歯車を噛み合わせるためには

 編集者さん、出版社さんと歯車を噛み合う時というのは色んなパターンがあります。たとえば、

「たまたま編集者さんが仕掛け好き、販売好きの人だった」

 なんてこともありますし、

「原稿が編集者・編集部内部で評判がよく、その月のパワープッシュ作品になった」
「新人賞受賞作なので推すことが決まっている」

 なんてこともあります。はたまた

「酒の席で作家がキーマンと話しているうちにそういうことになった」

 ということもあるかもしれません。

 「新人賞」、「酒の席」云々はさておくとして、これらの出来事はここ数日ずっと説明していた作家の三努力+αと噛み合うことがお判りいただけますでしょうか。
 たまたま編集者さんが仕掛け、販売好きであった場合、作家個人の営業努力は後押しや裏付けになります。やり方によっては宣伝効果を倍加させることも夢ではないかもしれません。
 原稿が編集部で評価される、これは作品のクオリティやマーケティング能力、作家性が評価されたということです。

 一つ言えるのは、うまく編集者さんらと歯車を噛み合わせる一番効果的な手段は「いい作品を書く」、「売れそうな作品を作る」、この二つなのでしょう。

 えっ。どうやって「いい作品」「売れそうな作品」を書くんだって? それがわかってたら今頃わたしは億万長者でしょうよ。


 はい、というわけで、話が案外穏当なところに至ってしまった本エントリなんですが、あともうちょっとだけ続くんじゃ。
 というわけで、次回に続く。

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