奇説無惨絵条々書影

【天狼院書店短編100枚二ヶ月コース受講者向け】書きあぐねたあなたに⑦地の文をとっかかりにした小説の作り方

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【注意】
 こちらのエントリは、天狼院書店さんで開催中の「短編小説100枚を二ヶ月で書いてみる」企画参加者の方向けのエッセイです。参加していない皆様にもなにがしかに気づきがあるかもしれませんが、このエッセイは基本的に「初心者の方が小説を書き切る」という目的設定をした講座に向けたものでありますので、中級者、上級者の方がご覧の際にはそうした点をご注意の上ご覧ください。
【注意ここまで】

 八月も半ばの後半です。小説講座に参加しておられる皆様、お元気でしょうか。もしかして夏バテしておられたりしますか? ともあれ、あとちょうど二週間といったところ、皆さま、ラストスパート、ぜひとも頑張ってくださいね。

 さて、今回は実際に執筆に際してのTIPSです。
 たぶん、どう書いていいか悩んでいる人が結構いらっしゃるんじゃないかなと思うので、こういう書き方もありますよ、ということでご理解いただけましたら。
 前回は会話文だけ先に考え、そこから肉付けするやり方をご紹介しました。けれどこれは、キャラクターがかなり思い浮かんでいる人に有効なものであり、プロットを重視している方だときつい場合があります。また、会話の少ない小説だと、そのまま詰んでしまいますしね。
 というわけで、今回は別アプローチでの方法、ずばり、地の文から小説を組み立てるやり方をお教えします。
 地の文というのは、会話文ではない文章のことです。わたしは特に地の文でリズムを作ってゆく作家なので、逐一頭から尻まで描いてゆくスタイルでありながら、地の文に助けられている面があります。まあそんなことはさておきまして。

 実際に書く前に、皆さんにはプロットを作ってもらいました。たとえば、こんな内容のプロットがあったとしますよね。

 ①主人公が家から駅に向かう
 ②駅で別れた恋人とすれ違い、ふと後を追う
 ③別れた恋人が男の人と待ち合わせをしているのを目撃する
 ④主人公、盗んだバイクで別れた恋人を轢く

 なんというか内容が殺伐としているのはお許しください。
 いずれにしても、この状態ではもちろんプロットでしかありません。なので、ここから少しずつ主人公の行動を膨らませていきましょう。

 ①主人公は朝目覚め、朝ご飯を食べてから徒歩十分の駅に向かう
 ②駅前広場の噴水に佇む元の彼女を発見する。彼女が噴水から離れたのを見て、ついその後を追ってしまう
 ③駅の改札前で、別れた恋人が駅から下りてきた男と親しげに話している
 ④主人公、駅から離れ、路駐してあったバイクを奪い、駅から出てきた二人を轢く

 少し膨らんできましたね。
 さらに、これを膨らましてゆけばよいのです。その時に重要なのは「具体性」です。
 ①で「主人公は朝目覚め」とありますが、どんな部屋で目覚めましたか? 布団で寝ていましたか、ベッドでしたか? 自然に目が覚めたのですか、それとも何か外部的なもの(アラームとか)で目覚めましたか? 一人暮らしなのですか、それとも家族がいるのですか? この時の主人公の思いはどんな状態ですか? そもそも、主人公はどんな人ですか? 実は、「主人公は朝目覚め」という要約された言葉には、色々と物語られていないディティールが潜んでいます。これらをいかに思い起こして描いていくかが小説の醍醐味でもあるわけです。

 そんなことを何回か繰り返し、ディティールを彫り込んでゆくと、こんな感じになってゆきます(もちろん、わたしの例が正解というわけではありません。あくまで一例です)。

 けたたましい時計のアラームで目が覚め、ベッドの掛布団をはねのけた。
 遮光カーテンの隙間からこぼれる朝日がまぶしい。埃が日に照らされてきらきら光り、辺りを揺蕩っている。
 目をこすって顔を上げたその時、鉛が詰まっているかのような腹の重みに気づき、うんざりとした。昨日の接待で、さんざん酒を飲まされた。二、三年前だったら次の日に酒が残るなんてなかったのに、と、愚痴をこぼしながら、なおも電子音を上げ続ける、薄汚れた置き時計のアラームボタンを乱暴に押した。

 これは、「主人公は朝目覚め」という部分を少し膨らませてみました。
 このようにディティールを膨らませてみると、主人公の人物像や周囲の状況などが見えてきますね。
 このようにディティールを掘り下げてゆくと、新たな気づきが得られたりします。例えばなんですが、この文章で「埃が日に照らされて~」とありますが、ってことはこの部屋、すごく汚そうですよね。あるいは、「酒が残ることなんてなかった」云々の話から、主人公がそんなに若くないことも示唆されます。それに、「薄汚れた置時計」、もしかしたらこれ、昔の彼女にプレゼントされたものかもしれませんよね……、と、いろんな想像が浮かぶかもしれません。

 と、このように、プロットを少しずつ肉付けしていって小説を組み上げるといったことも可能です。
 具体的にイメージをしてやる、これが大事なのです。

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