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【天狼院書店初心者講座2020年10月コース受講者向け】⑥主人公を行動させよう!

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【注意】
 こちらのエントリは、天狼院書店さんで開催中の「短編小説100枚を二ヶ月で書いてみる」講座参加者の方向けのエッセイです。参加していない皆様にもなにがしかに気づきがあるかもしれませんが、このエッセイは基本的に「初心者の方が小説を書き切る」という目的設定をした講座に向けたものでありますので、中級者、上級者の方がご覧の際にはそうした点をご注意の上ご覧ください。
【注意ここまで】

 講座受講者の皆様、お疲れ様です。
 さて、小説執筆は進んでいますか?
 いえいえ、急がなくても結構ですよ。まだまだ時間はあります。のんびり参りましょう。
 さて、今回は、執筆時のお話です。陥りがちな落とし穴と、その解決法について。

描写するのはいいことだけど……?

 受講者の皆様には、第一講義の際にこんなお願いをしました。
「気になった人や場所、ものを、言葉で表現することを日課にしてください」
 これは、絵を描く方にとってのデッサンのような作業なので、わたしは「言葉のデッサン」と呼んでいます。絵を仕事にする方に話を聞いたのですが、デッサンは絵の基礎中の基礎だそうです。ここが狂っていてはいいものは書けませんし、毎日デッサンを行なうことで手を慣らす、そんな効果があるようです。
 でも、今まで言葉で何かを表現するということをしてこなかった方は、この辺りのことがスムーズにできません。なので、「日課にしてください」とお願いしたのです。
 さて、ここからは、その先の話です。
 実を言うと、確かに「言葉のデッサン」は大事なのですが、小説はそれだけでできるものではありません。
 たとえばですが、ずっと立ち尽くしている一人の男の様子をえんえんデッサンし続けることはできます。なぜなら、言葉というのは(絵や写真と比べて)一度に渡すことのできる情報量が少ないので、上から下まで逐一デッサンするだけで、理論上、百枚の文量にもできるはずです。
 けれどそれは静止図を描いたデッサンに過ぎません。
 これでは、小説にならないのです。
 では、どうしたらよいのか。

登場人物や事態を「動かす」

 たとえば、駅前の噴水広場で待ち合わせしている高校生の青年がいたとします。高校生なので、茶髪にしていて、夏制服の第一ボタンをあけて、中から赤いTシャツが覗いている……。こんなくらいでいいでしょう。
 ここから先、この状況を小説にするためにはどうしたら良いのか。
 そう、登場人物や事態を動かすのです。

 たとえば。
 主人公の着ているのとよく似たデザインの女子生徒用夏制服を着た黒髪ロングの少女が「ごめん、待った?」と拝むように手を合わせ、「遅せーよ」と主人公が返して、「機嫌直してよう」と彼女が主人公の手を取る……。なんて展開どうでしょう(ベタですね)。

 これは、登場人物であるヒロインを噴水広場に投入することによって、新たな展開を作っています。

 あるいは、こんなこともできます。
 主人公が暇に飽かせてティッシュ配りの兄さんからあるQRコード付のティッシュをもらう。けれどそのティッシュには怪しげな文言が躍っていて、それに興味を持ってQRコードを読んでみる……。

 こちらは主人公に行動させることによって動きを呼んでいます。
 こんなこともできます。

 主人公の眼前で、噴水広場の隅に置かれていたアタッシュケースが爆発、あたりは瓦礫の惨事となる中、なぜか主人公だけは無傷で生還……。

 こちらは、辺りの状況を変化させて、動きを呼んでいます。

 さて、ここまで読んでいただいた方の中には、ピンときた方もいらっしゃるかも知れません。
 小説を小説たらしむのは、変化であり、動きなのです。
 言葉で以て何かを描くのは、変化や動きの前振りだからです。どう変化したのか、どう動いたのかを読む側に提示するためには、変化する前、動く前の状態を提示する必要があるわけです。
 実は小説はパラパラ漫画みたいな側面があり、

Aという状態 → 変化 → A2という状態 → 変化 →……

 というふうに、状態と変化がミルフィーユになっています。(高度な小説になると、ある変化が語られず、結果だけが提示されてそれが謎になったりします。ミステリなどはその代表格ですね)
 ここで力説しておきたいのは、どちらも大事ということです。
 ただ、初めて小説を描く方は、わりと状態を描き込みがちで、変化がなおざりであることが多いのです。なので、皆さんには、「じゃんじゃん状況や登場人物を動かして、変化させていきましょう」とアドバイスをさせていただきます。

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