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【天狼院書店初心者講座2020年10月コース受講者向け】⑧もしも原稿がプロットから逸脱してきてしまったら

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【注意】
 こちらのエントリは、天狼院書店さんで開催中の「短編小説100枚を二ヶ月で書いてみる」講座参加者の方向けのエッセイです。参加していない皆様にもなにがしかに気づきがあるかもしれませんが、このエッセイは基本的に「初心者の方が小説を書き切る」という目的設定をした講座に向けたものでありますので、中級者、上級者の方がご覧の際にはそうした点をご注意の上ご覧ください。
【注意ここまで】

 はい、講座受講者の皆様、いかがお過ごしでしょうか。
 今頃、原稿執筆に悩んでらっしゃるんじゃないかと推察いたします。小説を書くという行ないの醍醐味は「悩む」こと。大いに悩んでいただければと思います。さりとて、苦しく悩むのではなく、楽しく悩むことができると良いんですけどね。
 というわけで、今日は「楽しく悩む」ヒントです。
 小説を書いていると、プロットから大きく逸脱することがあります。そういうとき、どうしたらいいんだろうという話です。

なぜプロットからの逸脱が起こるのか

 皆さんは一ヶ月ほどでプロットを作り、その上で原稿に向かっていただきました。それでも、プロットからの逸脱は起こるときには起こります。自慢じゃないですが、わたしなんぞは一度として用意したプロットそのままに原稿が進んだ試しがありません!(ちなみに、本日4000文字くらいの掌編を書いたのですが、先方に提出した企画書とは全然違うものになっちゃいましたてへぺろ)
 これは、わたしや逸脱した方に計画性がないというわけではありません。これは、小説を書くという行ないが関係しています。
 講座の中で、わたしの言い続けたことはなんだったでしょう。
 一言で言うと、こうしたことでした。
ふわっとしたものに、具体的な形を与えてください
 皆さんの着想、たとえば「SFが書きたい」という漠然としたものを、「じゃあ、どういうSFを書きたいんですか?」「どういう主人公を書きたいんですか?」「どういうストーリーになりそうですか」とどんどん具体性を与えていく。小説を書く作業は、ふわっとしたもの(=抽象的なもの)をかちっとしたもの(=具体的なもの)に組み換えていく作業なのです。
 そして、具体性を帯びてゆくと、そこに文脈が生まれます。
 主人公の描写をするとき、「刀傷で左目が潰れている」と思いつきで書いたとしますよね。これが思いつきであったとしても、主人公は「刀で切りつけられて左目が潰れた」経験をしていることになります。そうした文脈が積み重なるうちに、あなたの書きたいものがもしかしたら「主人公が左目を潰された過去」に変化してしまうかもしれません。そこまでドラスティックな変化でなくとも、その思いつきのディティールを与えたことによってある条件下で不利になったりして、ストーリーに影響を与えていくかもしれません。
 つまり、「ディティールを与える」ということは、「プロット段階では思いつかなかったストーリーのタネが生まれる」ことと同義なのです。だからこそ、プロット通りに行かない、なんてことが発生します。

具体的な解決法①プロットに合わせて制御する

 プロットの逸脱に対応する方法は、大きく分けて二つあります。
 一つ目は、プロットに合わせて、ディティールを制御することです。
 既に皆さんの手にはプロットがあります。なので、このプロットを破壊しないよう、細心の注意を払いながら具体性を与えていくのです。
 これはすごく簡単です。
 「思いつきでディティールを与えない」これにつきます。
 主人公を描写するときに、「なんとなくこのほうがキャラが立ちそうだから」と余計な設定を付与していませんか? あるいは、ヒロインに思わせぶりな設定や特徴を付与しちゃってませんか? 執筆時、思いつきでこれらの特徴を与えてしまうと、そこで変な文脈が生まれて、そこに取り込まれていくうちにストーリーの軸がずれていってしまうのです。
 とはいえ、この方法はかなり書き慣れている人でないと難しいので、初心者の皆さんにはお勧めしません。なので、自動的に、この後に説明するやり方をお勧めすることになります。

具体的な解決法②新しいゴールを探す

 もう一つのやり方は、「かなり逸脱してきたなー」となったら一度既存のプロットを捨てて、新しいプロットを作り直すことです。
 皆さんに今回、プロットを作っていただきましたが、これはあくまで「一つの可能性」に過ぎないものです。そして皆さんに、物語になりそうなところを取捨選択してもらったもの、それがプロットなのです。
 どういうことか。
 これ、アドベンチャーゲームを想像していただけるとわかりやすいので説明しますね。アドベンチャーゲームとは、基本的には小説のようにテキストを読ませるゲームなのですが、あるところでプレイヤーに質問がなされ、その質問によって発生した分岐によりストーリーが大きく変化する、そんなゲームのことです。
 完成した小説というのは、アドベンチャーゲームの一つのルートを形にしたものと考えるとわかりやすいと思います。裏を返せば、完成品の小説の裏には、作家が何らかの理由で表に出さなかった(あるいは思いつきもしなかった)無数の展開が存在することになります
 つまり、プロットからの逸脱というのは、「もっと面白そうなルートを発見した」「実際にテキストを書いてみたことにより、プロット段階で想定したルートが潰れて別ルートのフラグが立った」状態ともいえるのです。
 この話をすると、「えっ、じゃあ、またプロットを書くの?」とげんなりしちゃう方もいらっしゃるかもしれません。
 まあ、書いた方が丁寧ですけど、書かなくても問題ないですよ。
 ただ、大まかに「ああなってこうなって最後こうなります」くらいは先読みしておいた方が良いと思います。そう、先読み。これが大事なのです。
 小説を書いていると、様々な横道(=可能性)があることに気づかされます。この道を通るとどこに通じているのだろう? そんな蠱惑に駆られることは一再ならずあります。そういうとき、プロの作家は「このルートに進んだ場合どうなるのか」を想像し、その上で立ち入るべきか否かの判断を下しています。それに近いことを、皆さんにもお願いしたいのです。

プロットは地図である

 皆さんに覚えておいていただきたいのは、プロットはレールではなく、地図なのだということです。
 確かにプロットには道が書いてあります。けれど、その道から外れても、方向さえ間違えなければ必ずゴールに達することができる。それどころか、歩いている途中で気が変わって、町ではなくて森の奥の泉に向かいたくなることだってある。その際には、またルートを設定し直して歩けばよいわけです。
 とはいえ、初心者のみなさんにそこまでお願いするのは少々酷というもの。今日お話ししたことは、プロットから逸脱してしまい、迷子になってしまった方の緊急避難みたいなものと捉えていただけましたら幸いです。

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