奇説無惨絵条々書影

【天狼院書店短編講座受講者さん向け】書きあぐねたあなたに②書き出し方が分からないあなたに

 WEB連載の「桔梗の人」よろしくお願いいたします! と共に、2019年2月新刊の「奇説無惨絵条々」(文藝春秋)と文庫化「曽呂利」(実業之日本社)もよろしくお願いいたします。

 このエントリは、天狼院書店さんで4/27に開かれました短編講座の受講者さん向けのものです。基本的に小説執筆の初心者に向けた内容になっておりますので、もし講座を受けておらずこのエントリをご覧になった方は「あくまで初心者の方向け」であることをご理解の上読み進めてください。

 さて、昨日の続きで、初心者向け短編講座の補足です。
 きっと書き始めてらっしゃる皆さんの中には、こういう方もいらっしゃると思います。
「どういう風に文章を書き始めたらよいかわからない!」
 プロットやキャラクターをばっちり作って、いざ文章を書こうという段階になって手が止まってしまう方、結構多いんじゃないでしょうか。実際、プロ作家(=わたし)も最初はそうですし、いまだに書き出しでは七転八倒することも多いです。でも、ここさえ潜り抜けてしまえば、案外小説はするすると書けるようになります。今日は書き出しのヒントみたいなものをご説明できればなと思います。

ヒントその① 事件を書き出す
 わたしたちの業界では「まずは死体を転がせ」という格言があります。死体というのはあくまでたとえ話で、要はお話におけるショッキングなポイント(=事件)をいきなり書いてやるということですね。

 わたしの目の前に、血塗られたナイフが置かれていた。

 なんて書き出しどうでしょう。一気に世界が広がりますよね。あとはその広がりに合わせて、あなたの妄想を文章化してやればよいのです。


ヒントその② セリフから入る
 登場人物のセリフから入るのも、実は有効なやり方です。

「あっ、危ない」
 結衣がグラウンドで悲鳴を上げたその時、わたしは二階廊下の窓拭きをしていた。

 このやり方が便利なのは、様々な状況を一気に描くことができる点です。セリフの多くは相手を必要とするものですし、どこで発されたものなのか、どういうシチュエーションのものなのか、またキャラクターの性格や性別なども提示できるので、書き出しとしては冴えたやり方です。
(実は上記の例文、ヒントその①とのハイブリッドですけどね……)

ヒントその③ 主人公の自己紹介をしすぎない
 
もしかするとこれが一番大事かもしれません。小説の要は主人公なのでついつい最初から主人公についてあれこれ説明しちゃいたくなる衝動に駆られるかと思いますが、主人公の情報は実は書き出しにおいてはそこまで必要なものではありません。主人公そのものより、「主人公が、いつ、どこで、どうして、どうなっている」のかを少しずつ描いてやったほうがうまくいきます。
 今回課題図書の一つとさせていただいた拙作『奇説無惨絵条々』(文藝春秋)の一篇「夢の浮橋」では、主人公の重大な特徴が最後まで明示されません。実は、主人公のことなんて読者にすべて提示する必要はないのです。

 ほかにもいろいろありますが、この三つをご理解いただければ、とりあえず書き出しはある程度うまくいくのではないかと思います。

 ではでは、続きは明日。

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