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『新歴史・時代小説家になろう』第2回「スターターキットとしての江戸時代後期」

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 早くも第二回目なんだぜ。
 (いや、実は事情がありまして……。本日、家でちょっとした工事があって、日の予定がはっきりしなかったので、予定をかなりゆるゆるにしていたのです。ところがその工事が意外なほどすぐ終わったため、これを書く時間ができたという次第です)

 まあ、この手の連載は定着するまではそれなりに調子よく上げていった方がいいとは聞いているので、できるだけ、時間を見つけて更新して行けたらなあと思ってます。

 ちなみにこの連載の注意点についてはここに書いてあるので、初めての方はご確認をお願いします。

 今回は、(歴史小説ではなく)時代小説を書きたい人向けの話題です。

なぜ「時代小説を書くのは難しそう」なのか

 様々な場面で「えっ、時代小説を書けるなんて、谷津さんは本当にすごいですね」と声を掛けていただく度、わたしはきょとんとしています。
 アマチュアの方はもちろんのこと、他ジャンルのプロの方にもたまにそうした声を掛けられることがあります。わたしの交友関係もあって、なぜか(書くのがめちゃくちゃ難しそうな)ミステリ畑の方や、BL畑の方から! わたしに言わせればそちらの河岸もめちゃくちゃ大変そうに見えるんですけどとしか言いようがないのですが……。
 さて、現在、「なろう系」と呼ばれる小説群が人気です。もちろん色々なサブジャンルはありますが、代表的なものはファンタジー作品です。ファンタジーっていうと、一般的には世界観レベルで設定を作ってやり、それをお話の筋や登場人物の設定に下ろし、矛盾なく形作ってやる必要があるため、かなり難易度が高いジャンルであるとされていますが、それでもアマチュアの方からトッププロまで広く書かれ、人気を博しています。
 傍から見ていると、なろう系も書くのが難しそうに思えてなりませんが、どうやらその秘密は「テンプレ」にあるようです。
 つまるところ、作り手たちが相互に影響を与え合ううちに、何となく似た世界観の下で小説を書く、そんな現象が発生しているそうなのですね。なろう系はシェアワールドみたいなものだ、とおっしゃる方すらいらっしゃいます。
 思うに、かつて、時代小説はそうしたものだったのです。
 戦前から戦後にかけての大衆小説の時代、斯界を牽引したのは時代小説でした。多くの才能が江戸時代の小説に参画し、才能の火花を散らした時代があったのです。そして読者はそうして出来上がった小説をむさぼり読み、その中の一部が小説家となって時代小説に挑む……そんな幸せなループがあったのです。
 なのですが、現在、そうしたループが弱くなりつつあります。なぜこうなってしまったのかはこのエッセイには直接関係しないことなので割愛しますが、かつては存在した「シェアワールドとしての時代小説時空」が消滅しかかり、読者の多くはそれを直感的に受け取れなくなっており、書き手の多くも直感的にアウトプットできなくなっている。それが今の時代小説を巡る状況で、それゆえに、「書くのが難しそう」となっているのです。

スターターキットとしての江戸時代後期

 けれど、実はまだ「シェアワールドとしての時代小説時空」は命脈を保っています。正確には、わたしと同年代(わたしは1986年生まれです)か、その上の世代の方なら、なんとなくイメージできる「江戸時代」があります。
 わたしと同年代の方なら、まだ地上波で連続ドラマ時代劇をやっていたはずです。再放送でもしきりに『水戸黄門』や『大岡越前』をやっていたのを覚えておられる方もいらっしゃると思います。
 『水戸黄門』は元禄(1688-1704)期、『大岡越前』は享保(1716-1736)期に時代設定がなされていますが、子細に見てみると、どちらの時代考証も時代設定に合わせていません。
 いえ、わたしは「間違っている」と指弾したいわけではありません。そうではなく、あくまで「シェアワールドとしての時代小説時空」によって両者が貫かれているのだと言いたいのです。
 どちらの時代劇も、おおむね江戸時代後期の江戸を標準とした時代考証でもって作られています。というより、多くの時代劇の考証ベースは江戸時代後期のものであるとすら言えます。
 もう、踏み込んだことを言ってしまいましょう。
 わたしたちが「江戸時代」と聞いてイメージするのは、江戸時代後期、それも文化文政期(化政文化期)なのです。
 なので、もし、「江戸時代のミステリが書きたい」とか、「実在の人物が出てこないグルメ人情ものを書いてみたい」ということで、特にこだわりがなければ江戸時代後期、特に化政文化期を舞台にしてしまえばいいのです! そうすれば、読む方も「ああ、あのおなじみの江戸だな」となって、入り込みやすくなると思いますし、江戸のイメージを持っておられる方は、すんなりイメージが湧いてくると思います。

 なので、もし、時代小説(今更ですが、この言葉の定義については第一回を参照してください)を書きたい! そんなあなたはとりあえず化政文化期を時代設定しておきましょう。後々の難易度が低くなるんじゃないかと思います。

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