桔梗の旗書影

『桔梗の旗』を作った際に考えたこと⑥

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 メインロジックを整えてからは、そこに巻き込まれてゆく群像の姿をどれだけ深く掘り込んでゆくかの戦いになります。もはや何と戦っているのかわたしにも分かりかねますが、戦いは戦いなのです。一歩前進、前進あるのみなのであります。

 そんなわけで、メインプロットに関わる人物たちの造形の助けとなるべく、人々を配置してゆきます。その中で立ち現れたのが妻木七郎兵衛、内藤三郎右衛門、隠岐惟恒といった光慶付きの家臣たちです。
 これまで一切述べていない隠岐惟恒に関して述べておきます。この方は光慶の後見人の家臣として名前が知られております。逆に言うと光慶の後見人としてしか知られていない人物でもあるのですが、恐らくは子供の頃の光慶のお目付け役を務めた後、そのまま後見人となったのだろう、だとすればかなりの高齢であろうなあという想像から、家宰的なおじいさんとして描き出した次第です。
 そして、先にも述べた通り、七郎兵衛は少しだけお兄さんという風に、そして内藤三郎右衛門は、風雅の道に優れているという武家の惣領息子としてはやや特殊な光慶の立ち位置を浮かび上がらせるため、いかにも武芸者というノリで描き出した次第です。
 あんまり大きな声では言えませんが、物語の平仄を整えていく際、「名前は知られているけどその人物像は不明」な人物ほどありがたい存在はありません。もっとも本作、明智光慶からして「名前は知られているけど人物像は不明」の最たる例ですけれども。ある意味、歴史小説に新味を出す際に重要になってくるのはこうした人々です。あまりイメージのない人々がイメージのある人物と衝突することによっておこるあれやこれや。既に確固たるイメージの存在する人物が登場する歴史小説の場合、いかにイメージの共有されていない歴史上の人物を探すかが勝負の一つなのかもしれません。

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