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【天狼院書店初心者講座2020年10月コース受講者向け】④プロットを作る~足りないものを考える~

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【注意】
 こちらのエントリは、天狼院書店さんで開催中の「短編小説100枚を二ヶ月で書いてみる」講座参加者の方向けのエッセイです。参加していない皆様にもなにがしかに気づきがあるかもしれませんが、このエッセイは基本的に「初心者の方が小説を書き切る」という目的設定をした講座に向けたものでありますので、中級者、上級者の方がご覧の際にはそうした点をご注意の上ご覧ください。
【注意ここまで】

 講座を受けている皆様、お疲れ様です。
 ついに来週は二回目の講座です。ぼちぼち、プロットが終わっているといいなあという感じになってきてますが、皆様どうでしょう。作業は進んでいますか?
 進んでない? ああ、大丈夫ですよ。構想や企画は、基本的に「あるとき突然整う」ものです。突然、ピーン! と思い浮かんで最初から最後まで一直線になるのです。
 でも、予定通りの日程である程度プロットを作りたい。今日はそんな人向けの講座です。

まずはおさらい

 講座にて説明したことの繰り返しになりますので、既にご理解いただいている方は飛ばして結構です。
 わたしの考える物語の最小構造は、

 前提 → 行動(展開) → 結果

 であると説明しました。
 すなわち、主人公の置かれた前提条件があって、それが何らかの行動や事件によって変化し、結果がもたらされる。小説は、離れて見るとそういう話ですし、近くでミクロに見てもこういう構造になっています。

 たとえば、「殺し屋の主人公が依頼を受けて銃撃戦を行ない、ターゲットを殺す」というお話を考えてみましょう。
 この「前提、行動、結果」に当てはめると、こういうことになりますね。

前提 : 主人公が殺し屋
行動 : 依頼を受けて銃撃戦を行なった
結果 : ターゲットが死んだ(任務を果たした)

 となりますね。
 小説は「前提、行動、結果」三つの要素が充足していることが基本となります。そして、これが因果律と呼ばれるものの正体だよ、とも説明しました。
 ここまで、おさらい終わり。

構想を練る場合

 構想、プロット段階では、最初からこの三要素がすべて出そろっていることはあんまりありません。
 むしろ、こんな感じなことが多いですよね。たとえば――。

①殺し屋の主人公が活躍する話!
②ドンパチがある話!
③敵の男が倉庫街で死んでいる光景!

 こういう、ふわっとしたものが元になっています。
 でも、これではまだ物語の輪郭をつかめていません。まず、皆さんにお願いしたいのは、思い浮かんだものが「前提、行動、結果」のどれに当たるものなのかを自分なりに考えてみていただきたいのです。

 たとえば①の場合は、恐らくほぼ「前提」でしょう。なので、「前提」にこの条件を入れてしまいます。

前提 : 主人公は殺し屋
行動 :   ?
結果 :   ?

 ①の場合、前提のみが埋まっています。なので、行動と結果の?に何が当てはまるのかを考えるといいのです。たとえば、こんなのどうでしょう。

前提 : 主人公は殺し屋
行動 : 猫を拾い、同居を始める
結果 :     ?

 そしてさらに結果を考えてやる。

前提 : 主人公は殺し屋
行動 : 猫を拾い、同居を始める
結果 : 人の情を取り戻し、仕事をしくじり殺される

 ね、形になったでしょう?
 ②だとどうでしょう。②はおそらく、「行動」に当てはまるんじゃないでしょうか

前提 :     ?
行動 : (銃撃戦がある)
結果 :     ?

 ここから、前提と結果を考えていきましょう。
 たとえば、こんなのどうでしょう。

前提 : 主人公は悪徳警官
行動 : (銃撃戦がある)
結果 :     ?

 このように、前提を埋めてやると、ただ(銃撃戦がある)とだけ示されている状況も、少しずつディティールが埋まっていきます。たとえばこのように。

前提 : 主人公は悪徳警官
行動 : 裏取引していたマフィアと決裂、抗争の末銃撃戦に
結果 :     ?

 そのうえで、結果を考えてやりましょう。

前提 : 主人公は悪徳警官
行動 : 裏取引していたマフィアと決裂、抗争の末銃撃戦に
結果 : 正義の心を取り戻し、抗争に勝つ

 では、③の場合はどうでしょうか。思うに、③に関しては、前提、行動、結果、どれにも入れることが出来そうです。まず前提に入れてみましょう。

前提 : (敵の男が銃に撃たれて死んでいる)
行動 :     ?
結果 :     ?

 この場合、主人公があやふやなので、主人公と敵との関係を考えるのも一つの考えです。このように。

前提 : チンピラの主人公、敵対グループの男が銃に撃たれて死んでい
     るのを目撃
行動 :     ?
結果 :     ?

 そして、さきほどのように埋まっていない箇所を埋めていけば良いわけです。
 ちなみにこれは、行動、結果に当てはめた場合も同じです。
 と、このように構想を練っていくのです。

プロットを練る場合

 プロットを練る際には、構想をしっかり練る必要があります。少なくとも、前提、行動、結果の三要素は埋めておきましょう。このように。

前提 : 主人公は悪徳警官
行動 : 裏取引していたマフィアと決裂、抗争の末銃撃戦に
結果 : 正義の心を取り戻し、抗争に勝つ

 ここから必要になるのは、さらなる具体化です。
 どういうことか。
 ここで示した構想は、まだ具体性に乏しいのです。なので、実際に小説にしてゆくまでに、何が足りないのかを考えていきましょう。
 まずは主人公。一体何歳くらいで、どういう体型で、どういう性格で、また昔に何があって、という、一人の人間に存在してしかるべき情報が、上の構想には欠けています。
 お次に舞台。ここは日本ですか? それとも外国ですか? どういった場所ですか? 治安はいいですか、悪いですか? 警官に対して住民は従順ですか? それらの情報は一切ありませんね。
 お次に敵役。マフィアだということは明示されていますが、そのマフィアの名前は? 何をシノギ(稼ぎ)にしていますか? 主人公と構想していますが、なぜこんなことに?
 プロットを練るという作業は、構想に存在する「あやふやな部分」の洗い出しに他なりません。このように、自らの構想にツッコミを入れて、少しずつディティールを明らかにしてゆくのです。
 それとともにやっていただきたいのは、「エピソードづくり」です。
 もちろん「吾輩は猫である」式の書き出しでもいいのですが、悪徳警官の主人公が「おっすオラ悪徳警官」という語り出しで始めるのは少々辛いのではないでしょうか(いや、そういう小説あったら読みたいですけど)。
 なので、上の構想の場合、「主人公が悪徳警官である」ことを示す小さな物語がほしいんですよ。そしてそれだけじゃありません。マフィアとの抗争が始まるきっかけとか、実際の細々としたマフィアとのやり取りとか、ドンパチに至るまでの小事件とか。そういったものを想像していっていただきたいのです。
 すると、こういう感じで少しずつ埋まっていきます。

前提 : 主人公は悪徳警官
 主人公、マッドはロス警察のマフィア対策課にいるが、常日頃からマフィアに利益供与をしている悪徳警官である。
 ある日、いつものように包囲の抜け道を教えたものの、一部隊がロス警察に一網打尽にされてしまうことで、マフィア「エドファミリー」に目をつけられてしまう。
行動 : 裏取引していたマフィアと決裂、抗争の末銃撃戦に
結果 : 正義の心を取り戻し、抗争に勝つ

 前提が割と埋まってきましたが、ちょっとまだ抽象的ですね。
 「常日頃からマフィアに利益供与をしている悪徳警官である」というくだりがまだまだ具体性に乏しいので、たとえば、こうしてみましょう。

前提 : 主人公は悪徳警官
 主人公、マッドはロス警察のマフィア対策課に務めている、52才の警官である。
 彼はいつもの業務中、微罪で捕まり拘留されているマフィア「エドファミリー」の一員を己の権限で釈放し、その代わり、裏でディベートをもらっている。そう、彼は「エドファミリー」とズブズブの関係を築いている、悪徳警官なのである。
 ある日、いつものように包囲の抜け道を教えたものの、一部隊がロス警察に一網打尽にされてしまうことで、「エドファミリー」に目をつけられてしまう。
行動 : 裏取引していたマフィアと決裂、抗争の末銃撃戦に
結果 : 正義の心を取り戻し、抗争に勝つ

 かなり具体性を帯びてきましたね。
 そして、ここからが面白いんですが、「具体性を与えていくと、構想段階では思いも寄らなかったお話の筋が見えてくることがある」んです。
 たとえば、「いつものように包囲の抜け道を教えたものの、一部隊がロス警察に一網打尽にされてしまうことで、「エドファミリー」に目をつけられてしまう。」とディティールを与えましたが、はて、これは偶然でしょうか? 
 ちょっと考えてみましょう。たとえばですけど、マッドの上司(まだこの段階ではイメージが出来ていませんが)がマッドの素行を怪しく思い、彼にだけ間違った情報を渡していたとしたら? ね? 構想段階では思いも寄らなかった筋が見えてくるようになります。
 そしてわたしは適当に「エドファミリー」と名前をつけましたが(適当なことこの上ないことに、「江戸」からの連想です)、この名前からして、ボスはエドさんですよね。そして、一部隊が壊滅させられたということは、エド率いるエドファミリーは、いくつかの部隊を有する大所帯であることも想像されます。
 適当に具体性を与えていくだけで、どんどんディティールが広がっていくのですね。

 とにかくここでいいたいこと。それは、「具体性を与えろ」、これにつきます。


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