奇説無惨絵条々書影

【天狼院書店短編講座受講者さん向け】書きあぐねたあなたに⑥伏線ってなあに?

 WEB連載の「桔梗の人」よろしくお願いいたします! と共に、2019年2月新刊の「奇説無惨絵条々」(文藝春秋)と文庫化「曽呂利」(実業之日本社)もよろしくお願いいたします。

 このエントリは、天狼院書店さんで4/27に開かれました短編講座の受講者さん向けのものです。基本的に小説執筆の初心者に向けた内容になっておりますので、もし講座を受けておらずこのエントリをご覧になった方は「あくまで初心者の方向け」であることをご理解の上読み進めてください。

 小説には「伏線」と呼ばれるものがあります。
 けれど、初心者の方からすれば「なんじゃそりゃ」ってなりますよね。そういえば、今の今まであんまり伏線について説明していませんでした。というわけで、今日はその話です。小説における伏線とは何か。そのさわりだけお伝えできればと思います。

伏線は「仕組み」の一種である
 伏線とは何か。その話をする前に、「仕組み」の話をしなければなりません。この言葉はわたしの造語なので、ほかの作家さんは別の言葉を用いているかもしれません。あくまでわたしが仮置きした言葉である点、ご注意ください。
 小説に限らず、すべての小説は「仕組み」の制約を受けます。
 こう書くと何やら難しそうですが、実は案外簡単です。
 主人公がバカだと設定されているのに、成長描写なしにいきなり賢明になってはいけません。
 誘拐された登場人物が何の理由もなしに主人公たちに合流していてはいけません。
 つまるところ、小説は前のくだりで書かれたことに影響を受け、そこからの逸脱は理由がないとできないわけです。
 たとえるなら、将棋の駒のようなものです。成金になったはずの駒があるとき生駒(元の駒のことです)に戻っていたり、何の前振りもなく別の駒になっていたりしてはならないのです。
 小説というのは、書き出しで定められた「仕組み」に従って、粛々と進行していく性質を持っています。伏線は、この「仕組み」の異種と考えてやるとよいと思います。

伏線とは、読者の目に見えづらい「仕組み」である
 伏線は、読者の目から見えづらい「仕組み」です。やはり将棋に譬えるなら、観覧席にいる人からは見ることのできない駒のようなものです。けれど、将棋を打っている人には見えているので、手は動かしますし、他の駒にも影響を及ぼします。結果として、観覧席にいる人にも「もしかして目に見えない駒があるんじゃね?」と気付く。
 作家の側からみると、伏線というのは「読者に隠匿し、どこかのタイミングで存在をあらわにする『仕組み』」と言えるのです。

伏線と「仕組み」の共通点と相違点
 伏線、「仕組み」、どちらも、

 前振り 影響 結果

 この三プロセスを経るという性質があります。
 前振りというのは、こういう「仕組み」が存在しますよ、という提示です。そして、その結果お話の筋や登場人物になにがしかの影響が出、なにがしかの結果が出るというプロセスがあるのです(逆にこれがないと、そもそも小説の中で必要ない描写です)。
 「仕組み」はこの三プロセスすべてを読者に公開しているのですが、伏線に関しては、前振りか影響、あるいはその両方を暗示して結果を提示するという違いがあります。
 つまり、伏線というのは、「仕組み」よりもちょっと難しいものといえるのですが、伏線があると読者を驚かせることができるほか、書いている本人も面白い(パズルを作る感覚です)ので、ぜひとも挑戦してみてください。

伏線は完全に隠してはいけない
 伏線が難しいのは、100%伏せてはいけないというところにあります。
 もし、前振りや影響を100%隠してしまうと、そもそも描写する必要のない情報だったということになりかねないからです。もちろん伏線を仕掛ける狙いにもよりますが、「結果が出るまで読者は結果に先回りできなかったけれど、前振りや影響の痕跡を思い起こすことができる」のがサイコーです。
 えっ、どうやるのかって?
 いえねー、これは作家にとってはすごくナーバスなところなんですよ。ある意味で極意の一つ。こればっかりは間合いをつかんでいただくしかありません。
 なので、こちらについては余力のある方にチャレンジしていただくということでよろしくお願いいたします。

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