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高木正勝さんに初めて会ったよる

もうすぐ、待ちに待った私の大好きな音楽家さんのコンサートがあります。
大きな地震があり、だいぶ気持ちがへこたれて、先の予定に心を向けられなかったけれど。
どうか今週末は私の大好きなひとたちに会えますようにと願いを込めるような、
気持ちの矢印を明るい方向へ向けるような。
私の中で、小さな未来への目印を置きたくて。

私が初めて、高木正勝さんに出会い、奏でる音楽を知った夜のお話を懐かしい気持ちで載せることにします。
高木正勝さん?とピンと来ない方でも、「おおかみこどもの雨と雪」の音楽の人だよ、と言えば伝わるかな。
私もね、その日まではそれしか知らなかったの。
日付は、2016年9月3日。
完成したばかりのロームシアター京都で行われたコンサートの題名は「大山咲み」
大きく、山が咲くと書いて、おおやまえみ。

私が、高木正勝さんに出会えたよるの、始まりのおはなし。




ケーキを食べて、帰ろうと思っていたのです。
シュークリームが異様に大きくてお気に入りの出町柳のケーキ屋さんで、
チョコソースとキャラメルのムースのスペシャリテを楽しみながら、
一瞬あたりの白くなるほどの通り雨をやり過ごしていたらぼんやり薄闇の午後6時半。

その日は、和太鼓集団鼓童のコンサートを堪能し終えての、帰り道。
そういえば夜に鼓童の方が出るコンサートがあると友人が言ってたわと思い出し、開演時間を確認すれば今から行ったら良い頃合い。
当日券あるかしら、無くても夜の鴨川や疎水沿いは風情があるから、まぁいいかと何の気なしに出掛けて行きました。

当日券を難なく手に入れ会場に入ると、夜の里山をそのまま連れて来たような虫や蛙の声と、さらさら笹の舞台美術。
3階席のはじの方から、あら太鼓はあちらに…などと観察していたら、あっと言う間に開演時間。

ふらりと青い服を来た1人の男性が舞台の中央に据えられたピアノに歩み寄り、
切なさに心が振り切れそうになる瞬間に、亜空間への口が突如として開くような、捕らえどころの無い、不思議な唄とピアノを奏で始めました。

ーそれが私の、忘れられない不思議な夜の始まりでした。

ぱらぱらと、ヴァイオリンやパーカッション、笛や太鼓、そして唄の方々が収まるところに収まると、
雪融け水のようにつやつやとしたピアノが溢れ、そこに沢山の音が、声が、芽ぶくように重なり始めました。
その瞬間に、私の身体の中に起こった出来事を何と言葉で表せば良いのか。

なぜ、懐かしいのかも分からない。
なぜか、知っている。
この幸せな場所に帰ってこられて嬉しいと、私の身体が知っている。
そして、爆発しそうなくらいに黄色くて明るい感情が胸の内から溢れて、
いつの間にか涙がこぼれていました。

春が来て、沢山の生き物が目覚め、
瞼を開くように山並みから太陽が顔を出し、
花が咲き、実り、風に揺れ、
暗闇の前に真っ赤に輝く、夕陽を受けた頬。
枯れて雪に埋もれ、白い息に閉ざされる。
そんな季節や1日の巡りと、共に生きている喜び。

難しい言葉も何もかも、子供心に引き込まれるように忘れて無心に還り、
光がいっぱいに満ちるように、ただただ幸福と楽しさの中にいた私。

足の裏に感じる野原の緑の匂いと、葉先のチクチクした感触や、
そこにあるはずの無いものを沢山感じた不思議なコンサート。

音楽は言葉よりも雄弁に、野山の景色やそこにいる人々を語り、
美味しいご飯の湯気や、優しい手のひらをそのまま届けることが出来る。
こんなことが本当にあるの?これは何?と何度も不思議に思う理性が、何度も剥ぎ取られ、裸足で心があっと言う間に遠くまで駆け出して行ってしまいました。

音楽と共に、勝手に溢れ出てくる涙を拭い、
沢山の手のひらから受けた愛情と、
こどもの頃に理由なく駆け出した、
無限の楽しさを感じた夜。

沢山のコンサートの情景を思い出しては、捕まえきれずにすり抜けて飛んで行き、手のひらに残ったのは鮮やかな鱗粉ほどの僅かな言葉なのですが、
コンサートのあった夜に徒然描いた覚え書きのようなものを残しておきます。

「えみ」

花が咲く
指先つぼみ 開いてひらひら
生き物ざわざわ
耳の周りで鳴る羽虫

目の前を
ちぃっと羽ばたき横切る玉虫
慌ててまばたき 光はどっち

桜の枝で指先切れた
爪の先には溜まった泥んこ

つやつやに日焼けした手のひらが
きゅうきゅう 皺が鳴るみたいな笑顔と一緒に
私の手のひらに降りてくる

握った指先
しゃんしゃん揺らして

今日もお家へ帰ろ
畳の上で ごろんしよっか
窓開けて寝たら 虫にくわれた

眠っている間の知らない夜が
流れ星ひとつ 降らせておいた
眠っている子に見せてやろ
明日に降る星 そらどこだ

ぴぃひゃららんと
風がとおった
さよなら 風さん
どこまでいくの

さよなら風さん
またきてこっち
はだしのまんまで鬼さんこちら

草ふみ分け分け ころんで尻もち
くるくる回る お空と地面

ぼんやり笑ったお月さま
木々の影からこぼれる笑みに
のんのさま、あん

赤い提灯
真っ赤な夕焼け
鬼さんも真っ赤っか
こっちへおいで

ぼんぼりゆらゆら
こっちへおいで
風さん お帰りぴぃひゃららん

あたりはぴかぴか
どん どんと
鳴るほうへ来い

こい こい ほーたる来い
こい こい 流れ星ひとつ つかまえた

#高木正勝 #おおかみこどもの雨と雪

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