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内発的動機を高めるジョブ・クラフティングの始め方|櫻井将さんと考える「組織づくりのヒント」

「社員の内発的動機を高める組織づくり」をテーマに開催された、エール株式会社主催のオンラインセミナー。後編では、エール代表取締役の櫻井将さんが、実際に参加者のみなさんが直面している「組織の課題」に関する事例を紹介しながら、解決に向けたヒントを探っていきました。その中から3つの事例について考えていきます。【編集部 林】

※本記事は、2022年2月15日(火)に開催された、エール主催のセミナー「『内発的動機』を高める組織とは」を元に再編集しています。
>>篠田真貴子さんと考える前編「内発的動機を高める組織とは」

今回のまとめ:内発的動機を高めるために、今できること

内発的動機を高める5つのアプローチ
仕事の中にひとさじの自分らしさ「ジョブ・クラフティング」を入れてみると、内発的動機が高まっていきます。実際にエールがクライアントと接する中で見聞きした事例を、5つのアプローチに分けてご紹介します。

【事例1】トヨタ自動車:業務クラフティング✖️役割・戦略変更
会社や組織からのメッセージを積極的に発信しているトヨタ自動車。動画コンテンツについて、現場の社員とYeLLサポーターに見てもらい、語り合う1on1を実施しました。その結果、会社組織そのものや事業・サービスへの共感、納得、誇りを示すデータが上がり、内発的動機が高まりました。

【事例2】A社:関係性クラフティング✖️EQの向上・1on1力向上
ビジネスで成功している人は、対人関係能力「EQ」が優れており、共感する能力も高いそうです。相手に共感するには「自分の感情を知り、コントロールできるか」が問われます。12週にわたる1on1サービス「YeLL」を実施し、社内の人間関係に変化の兆しが見えてきました。

【事例3】B社:認知的クラフティング✖️自己理解・ミドルシニア
キャリアを再考する際に使うフレームワーク「Will Can Must」を用いてみます。会社の理念・戦略と重なる点が多ければ、エンゲージメントは高まります。自分が大切にしている価値・喜びの解像度を上げ、内発的動機が生まれやすいのです。自分の話を第三者に聴いてもらうことにより、自身の強みに気づき、認知的クラフティングも進みます。

自分はいったい、何に喜びを感じるのだろう?
自分が何に価値を感じ、喜びを得ているのか。働く社員1人ひとりがそれを見つけられる環境を整えていくことが、自律的人材を育む第一歩です。

櫻井 将さん(エール株式会社 代表取締役)

内発的動機を高める5つのアプローチ

「内発的動機を高める事例」をテーマに話を進めていきますが、もちろんすべての会社に当てはまるわけではありません。今日ご紹介する施策は、あくまで例の一つ。それぞれが抱えている組織の課題を解決していくヒントになれば、幸いです。

自分らしさを仕事の中にひとさじ「ジョブ・クラフティング」として入れてみる。すると、仕事そのものや人間関係に対してより主体的に関われるようになり、内発的動機が高まっていくとの話がありました。

ここからは5つのアプローチに分けて、実際にエールがクライアントと接する中で見聞きしてきた事例をご紹介します。

【事例1】トヨタ自動車:業務クラフティング✖️役割・戦略変更

まずは、役割変更や事業戦略の変更があった際の対応について、トヨタ自動車の事例をご紹介します。

トヨタ自動車は、会社や組織からのメッセージを積極的に発信しています。しかし現場で活躍している社員の、内発的動機付けには直結していませんでした。

オンライン動画や、決算説明会、年頭挨拶などで触れる機会はあっても、一方的に情報を伝えられるばかり。そうしたケースは、決して珍しくないと思います。エールでは社外人材によるオンライン1on1サービス「YeLL」を通じて、経営陣からのメッセージや経営方針を浸透させることを目指し、サポートさせていただきました。

すでに素晴らしいコンテンツがトヨタさんにはたくさんあります。その中の動画を、現場の社員とYeLLサポーターに見てもらい、どう感じたかについて語る1on1を実施しました。

そうすると、社員の皆さんが自分自身について振り返り始めたんです。今後のトヨタの方向性について外部人材であるサポーターに語りながら、「そもそもトヨタに入社した決め手は…」「会社の方針に違和感があるけどなぜだろう…」と考えるようになります。

「行動しないといけないのは、分かっているんだよね」みたいな話をしていたのが、少しずつ「動画のメッセージを見て、会社の取り組みに価値を感じてきた」と変わっていった方もいました。

自分自身の話を聴いてもらうことで、実は会社組織や展開している事業・サービスへの共感、納得、誇りに関するスコアが上がっていくとのデータも出ています。では実際に、エールの1on1サービスを受けていただいた方々のエンゲージメントサーベイのスコアを見てみましょう。

こちらのグラフはトヨタさんの事例ではありませんが、「仕事に対する自分自身の納得度・共感度が高まる」との結果が示されています。

例えば「リーダーになったばかりの社員」に研修を受けてもらったものの、1日過ごして「はい、終わり」……ではなく、外的刺激を受けたチャンスを逃さず、自分の中に起こった変化を言語化し、内発的動機につなげていく。そうしたサポートができます。社内で発信された情報コンテンツと、外部人材による1on1を組み合わせ、ジョブ・クラフティングを進めることができています。

【事例2】A社:関係性クラフティング✖️EQの向上・1on1力向上

次はEQの向上です。EQとは「感情の知性」「心の知能指数」と言われています。「この人ならば信頼できる、一緒に仕事がしたい」と思わせるような人間的な魅力とも言えるでしょうか。

このEQ理論は、イェール大学のピーター・サロベイ博士とニュー・ハンプシャー大学のジョン・メイヤー博士によって提唱されました。両博士が行なったビジネスパーソンを対象にしたフィールドワークによると、「IQの高い人が必ずしもビジネスで成功するわけではない」との結果が明らかになっています。ビジネスで成功している人は、対人関係能力が極めて優れているのだそうです。

実はクライアントであるA社から「EQを高めることはできないだろうか」との相談を受けたことがありました。「コロナ禍でリモートワークが主軸となり、チーム内の会話がどんどん希薄になっていく。人間関係をより良くしていくためには、感情を大切にする必要があるのではないか」───詳しく伺ってみると、そうした背景が浮かび上がってきました。

人間関係を良くしていくためには、相手の感情に共感できるかどうかが大切なポイントになります。しかし、その前段階として、相手に共感するには「自分の感情を知り、コントロールできるか」が問われます。特に自分自身の中にあるネガティブな感情を知り、うまくコントロールできるようになって初めて、相手の気持ちが理解できるようになり、チームワークも深まっていくのです。そうしたEQを高めるプロセスをサポートするために、当社の1on1サービス「YeLL」を導入しました。

何を話してもじっくり聴いてもらえる環境で、自分自身の感情を理解する。そうした体験を経た結果、次のような変化が起こりました。12週間にわたり、外部人材のサポーターと1on1をした40代 課長の方です。

「自分の気持ちを聴いてもらうだけで、何が変わるの?」と思いますよね。最初はこの方も「手応えは得られなかった」とおっしゃっています。

ところが、5週目あたりから「自分は感情を表に出していないのかも」と認知するようになり、少しずつ理解が進んでいきます。感情がコントロールできるようになると、今度は自分の内面から外側へ意識が向くようになりました。

最終的には「コミュニケーションが進歩した手応えを感じた」「部下ともこのような、安心して話せる・聴いてもらえる環境をつくってみたい」とのコメントをいただきました。

1on1力向上も、関係性クラフティングを見直す上で重要なカギとなります。先ほど登壇した篠田さんからもありましたが、内発的動機は自分の感情・価値観に近づくほど高まっていきます。「じゃあ、それをじっくり傾聴しよう」と思う一方で、「これでは全然仕事が進まないよ」という現実にも直面しますよね。

そうした時こそ、「上司が何をするかよりも、部下がどう感じるかを意識すること」が重要なのではないかと、思っているんです。

結果として関わる相手、部下が「どんな自分であっても受け入れてくれるから大丈夫だ」と感じてもらえるような振る舞いをする。そうすると、例えば厳しい指摘をしてもギクシャクしにくくなるでしょうし、1on1でなんでも話してもらえるようになっていく。そうした関係が両立できると感じています。

【事例3】B社:認知的クラフティング✖️自己理解・ミドルシニア

認知的クラフティングには、自己理解が欠かせません。キャリアについて考える際によく用いるフレームワークに「Will Can Must」があります。WillやCanは、個人の内発的動機に近い部分です。「自分はこうしたい」「自分にはこれができる」という話ですね。一方、Mustは会社の理念・戦略と重なる点が多くなってきます。会社の理念・戦略との重なりを増やしていけば、エンゲージメントは高まるでしょう。

特にWillは自分にとって、大切な価値観であり、内発的動機につながっています。「自分がどうありたいか」「何に価値や喜びを感じるのか」を言語化し、サポートさせていただくと自己理解が進んでいきます。

Canについては、「できないことの中でも、伸ばしたい点・諦める点」を1on1を通じて明確にするサポートをしています。ここは諦めて手放してもいいんだと認め、自分の取り組んでいる仕事の価値・喜びの解像度が上がっていけば、より内発的動機が生まれやすいでしょう。

また40代後半〜50代のミドルシニア世代のキャリア自律支援でも、内発的動機付けをサポートする機会が多いです。

好きなことをできるようにするのは、もしかしたら難しいかもしれない。でも今、自分が会社にとって貢献できることはなんだろう。そういう視点でキャリア研修を実施し、ご自身の「キャリアの棚卸し」をしていただきます。終了後に「もっと考えたい。会社に貢献できる過ごし方って?」と感じたとしても、誰かに話す機会がなければ、その問いは後回しになってしまいます。

せっかく認知的クラフティングのチャンスがあったとしても、良い相談相手が見つからない。同僚や家族に打ち明けるにはちょっと恥ずかしい・・・そうした想いを抱えている方は珍しくありません。そこで「YeLL」で1on1の時間を取り、言語化したところ、こうした声が上がってきました。

ご自身が当たり前だと思っていたことが実は強みであると、言語化することによって気づきを得るわけです。

自分はいったい、何に喜びを感じるのだろう?

自分が何に価値を感じ、喜びを得ているのか。働く社員1人ひとりがそれを見つけ、自律するために行なっている事例をご紹介しました。

結果として、外発的動機付けとして研修や社内の取り組みがスタートしたとしても、しっかりと話を聴いてもらい、感情を受け止め合うコミュニケーションがあれば、内発的動機に繋がりやすくなっているのです。さらに、その後も会社に対するエンゲージメントや個人のウェルビーイングのスコアが上がっている。こうした事例が、現場で多く見られています。

今回の気づき・学び:気持ちをまるごと、言葉にする

「自分らしさとは何か」と問われ、即答するのは簡単ではありません。私自身の過去を振り返ってみても、会社の目指す戦略・ビジョンとどの程度重なっているのか、じっくり考える時間はほとんどありませんでした。

心のままに浮かんできた感情を、誰かに聴いてもらう。それだけで、感情は具体的な言葉として形になり、自分自身が客観的に見えてきます。

するとずっと自分の中に眠っていた「内発的動機」と結びつき、次にやるべきことが明らかになっていきます。自分らしさをひとさじ入れるジョブ・クラフティングによって、自分自身の「メタ認知」が進むのだと感じました。

仕事そのものを評価するのではなく、「あの時、嬉しかった」「あの仕事は辛かった」と一緒に成果を振り返るところから、本当の自分らしさを見つける旅が、始まります。

林美夢(エール編集部)

コピーライター。「知の生産者」として、むずかしいことをわかりやすく伝えようと挑戦を続けている。Web求人メディアを運営する大手人材企業にて、広告制作や経営者インタビューに従事。現在はエール株式会社のオウンドメディア制作、コミュニティ運営などに携わりながら、サポーターとしての活動も続けている。特技は和菓子づくり。


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